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最弱属性の俺、空気を圧縮したら一撃で最強になった~空気魔法から始まる異世界魔法革命~  作者: 百花繚乱


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第99話 空を支配する

守護体が、大きく揺らいだ。初めてだった。

今まで、環境そのものの延長のようにそこにいた存在が、確かに“攻撃を受けた”と分かる反応を見せた。

複眼の一つが砕け、黒い外殻の表面に深い亀裂が走る。

だが「……まだだ!」前衛が叫ぶ。

その声で、全員の意識が引き戻された。

当然だ。あれで終わる相手じゃない。

むしろ「核、反応上昇!」感知役の声が鋭く響く。

「来る!」

次の瞬間。縦穴の底から、これまでで最大の脈動が走った。

どくん。それは音じゃない。衝撃でもない。

空間そのものが、一度、裏返ったような感覚。

「っ……!」

膝が揺れる。

広域圧力場の五点が、一斉に軋んだ。中央上部の局所場が歪む。

右翼岩棚の基準が揺れる。核前通路の圧が、一気に薄くなる。

守護体が、ゆっくりと頭を上げた。砕けた複眼の隙間から、黒い靄のようなものが漏れている。

だが、それすらも異様に整っていた。あれは血じゃない。異常そのものだ。

「……怒ったか」

前衛が低く言う。冗談めいた言い方だったが、誰も笑わない。

守護体の周囲で、空気が死んでいく。

広域圧力場の基準があるはずなのに、その内側まで、少しずつ侵食されている。

「基準を食ってる……!」

補助役の声。

その通りだった。守護体は、ただ場を崩すんじゃない。

こちらの“正常”を侵食し、自分のルールへ塗り替えている。

「まずい」

このまま押し合えば、負ける。

広域圧力場はまだ完成じゃない。五点を繋いでるだけの、綱渡りみたいな構造だ。

このままでは、先にこちらが持たない。

「どうする」

責任者の声。

短い。だが、その中には一切の迷いがない。

任せる、という響きだった。

一瞬だけ、息を止める。見る。

守護体。核。縦穴。五点の基準。揺れ。流れ。全部。

今まで、空気魔法を“使う”ことばかり考えていた。

風を飛ばす。刃にする。圧縮する。場を作る。

でも。全部、現象だ。結果だ。

「……違う」

自然と、口から漏れる。

補助役が振り向く。

「何?」

「今まで、順番が逆だった」

胸の奥で、何かが一気に繋がる。空気は、属性じゃない。現象だ。

流れも、圧も、音も、全部。

“条件が揃った結果”として、そうなるだけ。

なら、本当に支配すべきなのは「空気じゃない」静かに、言う。守護体を見据えたまま。

「空間そのものだ」一瞬、周囲の時間が止まったように感じた。

言葉にした瞬間、自分の中で全てが整う。

そうだ。広域圧力場は、まだ入口にすぎない。局所場を繋いで、空気の成立条件を広げる。

それは正しい。でも、まだ守護体と同じ土俵に立ってない。

あいつは、戦場のルールそのものを書き換えている。ならこちらも、同じ場所へ行くしかない。

「……おい」

前衛が、少しだけ息を呑む。

「まさか」

「一回だけだ」

短く答える。

「一瞬でいい」

広域圧力場を、もう一段深くする。

空気が成立する条件、じゃない。

その前提。圧。温度。伝播。境界。全部を束ねて。

“この空間では、こうなる”という基準そのものを定義する。

「無茶だよ!」

補助役の声。

「今の広域場だけでも限界なのに!」

「分かってる」

「なら!」

「でも、やるしかない」

静かに返す。

補助役が言葉を詰まらせる。

怒ってるんじゃない。怖いんだ。

当然だ。自分だって怖い。

失敗すれば、場は全部吹き飛ぶ。戦線も、仲間も、終わる。

でも、ここで止まれば同じだ。また、届かない。

「感知」

呼ぶ。

感知役は、最初から答えを知っていたみたいに、短く言った。

「支える」

それだけ。

「補助」

補助役が、悔しそうに息を吐く。

それから、少しだけ笑った。

「ほんと、最悪」

でも。

「最後まで付き合う」

「前衛」

前衛は剣を肩に担ぎ直す。

「聞くまでもない」

口元が、少しだけ上がる。

「俺が、一番深くまで斬る」

胸の奥が、熱くなる。

ここまで来た。一人じゃない。最初から、ずっと。

「責任者!」

叫ぶ。

「全戦線、五点を死守してください!」

責任者は即答した。

「当然だ」

振り返り、全隊へ叫ぶ。

「ここから先は、一歩も引くな!」

その声が、縦穴全体に響く。

返答が返る。槍が鳴る。盾がぶつかる。魔力が灯る。全部が、背中を押す。

「……行く」

深く息を吸う。空気。違う。空間。縦穴全体。守護体の異常。核の脈動。五点の基準。全部を、一つの感覚に落とし込む。

痛い。頭が割れそうだ。でも、今だけは、見える。

空間の輪郭。流れの癖。条件の境界。全部。

「——定義する」

静かに、言葉を落とす。

その瞬間、縦穴全体の空気が、止まった。

いや。止まったように感じた。

次の瞬間。世界が、変わる。広域圧力場が、面になる。五点が繋がる。

裂け目の縁。岩棚。核前通路。全部に、一本の見えない基準線が走る。

“この空間では、空気は流れる”ただ、それだけ。

でも、その一文がこの戦場では絶対だった。

守護体の周囲の黒い靄が、初めて揺らぐ。異常が、止まる。

「……っ!」

守護体が、明確に身体を震わせた。効いてる。

「今だ!」

叫ぶ。

前衛が飛ぶ。今までで、最速。最深。

広域場の中を、一筋の刃みたいに駆ける。

補助役の強化。感知役の補正。全部が重なる。

守護体が迎撃に動く。前脚が振り下ろされる。

だが。

「遅い!」

前衛の声。

一歩、懐へ。二歩、核の前。三歩。

「——斬る!」

剣が、守護体の胸部中央へ深く突き刺さる。鈍い感触。

甲殻。その奥。硬い。

だが。

「まだ足りない!」

叫ぶ。

手を上げる。最後の一撃。空間の基準を、一点に圧縮する。

真空。衝撃。圧力。全部。

「エアブレイク」

初めて口にする名前だった。でも、それが一番しっくりきた。

空間ごと、撃ち抜く。轟音。

いや、今度は世界そのものが軋んだ音だった。守護体の胸部が、内側から弾ける。

その奥から脈打つ巨大な核が、露出した。

全員が、それを見た。

勝てる。初めて、確信した。

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