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最弱属性の俺、空気を圧縮したら一撃で最強になった~空気魔法から始まる異世界魔法革命~  作者: 百花繚乱


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第52話 研究機関

王都に近づくにつれて、空気の質が変わっていくのが分かった。

それは気温でも湿度でもない。もっと曖昧で、だが確実に感じ取れる違いだった。

流れが整っている。無駄な乱れが少ない。まるで都市全体が一つの巨大な制御装置のように機能しているかのようだった。

「……感じるか?」

隣を歩くリナが、少しだけ声を落として言う。

「何となくな」

短く答える。

「空気が……変じゃない?」

「変というより、整えられてる」

言い換えると、リナは納得したように頷いた。

「それ、普通に怖いんだけど」

その感想は間違っていない。

自然な空気は乱れるものだ。風はぶつかり、渦を巻き、消える。だがここでは、それが抑えられている。完全ではないが、明らかに“人の手”が入っている。

「都市単位で流れを制御している可能性があるな」

「さらっと言うけど、スケールおかしくない?」

「王国だしな」

それ以上でも以下でもない。

やがて、視界の先に目的の建物が見えてくる。

王国魔法研究機関。

名前から想像していた以上に、無機質な外観だった。装飾は少なく、壁面は滑らかに整えられている。魔法施設というより、むしろ巨大な実験装置のような印象を受ける。

入り口の前に立った瞬間、わずかな抵抗を感じた。

空気が、薄くなる。いや、正確には “揃えられる”。

「……結界か」

「たぶんな」

リナが腕をさすりながら言う。「なんか、体の中まで見られてる感じする」

それも正しい。

この結界は侵入を防ぐものではない。通す代わりに、測る。

魔力の流れ、身体の状態、そしておそらく思考の揺らぎまで。

「歓迎されてる、って感じじゃないね」

「観察されてる、の方が近いな」

扉が静かに開く。中は外以上に静かだった。

足音が響く。だが、それすらもすぐに吸収される。壁材か、あるいは空気の制御か。音が拡散しない。

廊下の先には人影がいくつか見える。だが、誰もこちらに声をかけてこない。視線だけが向けられる。一瞬で逸らされる。

「……露骨だな」

リナが小さく呟く。

「分かりやすいくらいにな」

興味はある。だが、干渉はしない。まるで珍しい標本でも扱うような距離感。

そのまま案内に従って進むと、広い空間に出た。

円形の実験室。中央が大きく開けており、周囲には複数の観測装置が配置されている。魔力を計測するためのものか、それとも空間の歪みを捉えるためのものか。

いずれにせよ、学園の設備とは比較にならない精度だ。

「来たか」

低い声が響く。振り向くと、一人の男が立っていた。

年齢は教師と同程度か、それ以上。だが、その立ち姿には無駄が一切ない。視線が鋭いというより、深い。

「王国魔法研究機関、第一解析室主任のラドウェルだ」

簡潔な名乗り。

「お前が例の空気魔法使いだな」

「はい」

ラドウェルは一歩近づく。距離が詰まる。

その瞬間、空気がわずかに重くなる。意図的だ。圧力をかけている。試している。

「……面白いな」

ラドウェルは小さく呟く。

「抵抗するでもなく、流されるでもない」

「ただ観察してるだけです」

「そうか」

それだけで、圧が消える。ほんの一瞬のやり取りだが、十分だった。

この男は、ただの研究者ではない。

「まずは確認だ」

ラドウェルが手を軽く上げる。中央の空間が開く。

「実際に見せてもらう」

予想通りの流れだ。

「何を?」

「何でもいい」

即答だった。

「お前が“できること”を見せろ」

条件はない。制限もない。だからこそ、分かる。これは試験ではない。観察だ。

「……分かりました」

一歩、前に出る。

空間の中央。視線が集まる。

周囲の装置がわずかに起動する音がする。

魔力の流れが変わる。測定が始まった。

「何をする?」

ラドウェルが問う。

一瞬だけ考える。だが、答えはすぐに決まる。

「簡単なものでいいでしょう」

手を上げる。空気を捉える。流れを読む。圧をかける。一点に集中させる。

「……」

周囲の空気がわずかに歪む。

それを維持し、圧縮する。さらに絞る。

「エアショット」

放つ。小さな衝撃が走る。ただの圧縮空気。

だが、その精度は以前とは別物だ。

空間がわずかに揺れる。その瞬間、周囲の装置が一斉に反応する。

音が走る。光が点滅する。

「……ほう」

ラドウェルが、初めて明確に反応を示した。

「今の段階でこの精度か」

彼の視線が鋭くなる。

「なら、次だ」

短く言う。

「もっと見せろ」

要求ではない。確信だ。

「お前は、こんなものではない」

その言葉に、周囲の空気が一段階引き締まる。

リナが小さく息を呑むのが分かる。

ライバルは無言のまま、こちらを見ている。

逃げ道はない。だが、そもそも逃げる気はない。

「……分かりました」

今度は、少しだけ意識を変える。

圧縮ではなく、削る。流れを断つ。一瞬だけ、空気を“消す”。

「――」

音が消える。ほんの一瞬。空間が歪む。

すぐに戻る。だが、その一瞬で、空気の層が確かに断たれた。

「……」

静寂が落ちる。

そして次の瞬間。装置の反応が跳ね上がる。

今度は明らかに、先ほどとは違う。

ラドウェルの目が細くなる。

「……真空」

小さく呟く。それは確認ではない。理解だ。

「なるほど」

一歩、こちらに近づく。

その視線は、さっきまでとは違っていた。観察から、分析へ。

「確かに異質だ」

言葉に、迷いがない。

「属性に依存しない魔法。いや――魔法というより現象制御か」

思考が速い。そして、正確だ。

「面白い」

その一言で、空気が変わる。

評価された。だがそれは、安心できるものではない。むしろ逆だ。

「解剖したくなるな」

その言葉に、わずかな冷たさが混じる。冗談ではない。本気だ。

リナが一歩だけこちらに寄る。

「……やっぱ怖いわ、ここ」

小さく呟く。

同意する。ここは学園ではない。研究機関だ。

未知を理解するためなら、手段は選ばない場所。

「いいだろう」

ラドウェルが手を下ろす。

装置の反応が落ち着く。

「お前には期待している」

その言葉は、評価であり、同時に拘束でもあった。

「ここでは、すべてを明らかにする」

視線が、真っ直ぐにこちらを貫く。

「空気という概念をな」

その言葉に、思わず口元がわずかに緩む。

面白い。ここは確かに危険だ。だが、それ以上に。

「……望むところです」そう答えた。

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