第一章:死の直後、悪役令嬢の身体に目覚める
「……死んだのか」
瞼を開くと、見知らぬ天井が広がっていた。
白いレースのカーテンが風に揺れ、窓の外には薔薇の咲き誇る庭が広がっている。
高級そうな家具、絨毯、そして鏡に映る自分の姿──。
金髪碧眼の少女。
年齢は十五、六歳。
整った顔立ちに、どこか冷たい印象を与える美貌。
その姿を見て、私はすぐに理解した。
「まさか……」
記憶が蘇る。
前世──私は小説家だった。
売れっ子とは言えない、でも地道に作品を書き続けてきた。
特に好きなジャンルは異世界転生もの。
そして、その中でも特に描きたかったのは、「悪役令嬢」の内面だ。
──なのに、どうして、私が、その立場にいる?
「お目覚めですか、ベアトリクス様?」
年配の女中が部屋に入ってきて、お辞儀をする。
「もうすぐ令嬢たちとの茶会の時間でございます。お支度をなさいますか?」
ベアトリクス・カーマ・ルージュ。
貴族令嬢。
前世で私が読んだ漫画の『薔薇の誓い』に登場する、悪役令嬢そのもの。
彼女の運命はこうだ。
一、主人公・平民出身のヒロイン「ダリラ」を妬み、彼女を陥れる。
二、王太子に求婚されるが、彼はダリラを愛しているため、断られる。
三、恥をかき、怒り狂い、魔導書を用いて災厄を起こす。
四、最終的に、処刑される。
──つまり、死ぬ。
「……冗談じゃない」
私は女中の目も憚らずベッドから起き上がり、鏡の前に立った。
前世で悪役令嬢の小説を何十冊も書いた挙げ句、今度は自分自身がその立場?
しかも、死ぬ役?
笑いがこみ上げた。
皮肉にも程がある。
だが、すぐに冷静になる。
でも、これはチャンスだ。
私は小説家だった。
人の心を読むこと、感情の流れを操ること、物語の展開を予測すること──それが私の武器だ。
なら、この物語を、私が書き換えてみせよう。