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56.ウラノス

 先程、仕入れた焔鉱石をネックレスにして俺とアリスは首に巻いた。

 リンの体温は外気温に左右されないらしいから、リンはこれを付ける意味が分からないと言った感じで、首を傾げていた。


 準備が出来次第、門から外へ出て少し歩いた所でリンを元の姿に戻した。

 山脈の頂上付近までリンに飛んでもらうのが、余り高く飛び過ぎると昨日と同じ羽目になってしまうかも知れない。

 だから低空飛行で天空の支配者を挑発しない様に向かおう。


「リン余り高くを飛ばずに山脈に向かって」

「わかった」


 リンの背中に乗ると寒さが消え去り、焔鉱石の所為で返って暑いくらいだ。

 外気温に左右されないとか羨ましい能力だ。一々、服装を変えなくて良いし、どんな所でも快適に過ごせる。

 生きていく上での苦労が一つ無い様なものだ。


 リンの速さなら山脈の頂上に4時間程度で辿り着ける。だが今回はあくまで調査だ。ウラノスに勘付かれない様にしなければならない為、頂上手前に着陸してそこから徒歩で山を登る。

 それを考慮すると、5時間程度だろう。

 かなりしんどそうだが、あの町の為ならこれくらい余裕だ。


 なるべく低空飛行を保っているから下の様子が良く伺えた。

 山脈というのに魔物が全く見あらないのは、寒さの所為だろうか。

 リンと焔鉱石のお陰で寒さなど俺達は微塵も感じないが、魔物にとってこの寒さは命に関わる。

 幾ら寒冷な土地に慣れ寒さに強い魔物だとしても、例年よりも寒いという環境で生きながらえるのは不可能なのだろう。


 その分俺達は楽をしている。魔物が少ないという事は無駄な戦闘で体力を消耗する必要がないという訳だ。


 それは良しとして、問題は事の根本。この凄まじい寒さを引き起こしている天空の支配者をどうするかだ。

 体力の消耗を抑えて、ウラノスと万全な状態で対峙出来たとしても、勝てる見込みなんて無い。

 だから勝負するなんて事は、元より考えてない。考えない方が良いレベルだ。

 そんなドラゴンにサターン教団がまた絡んでいたら、尚更手の付けようが無い。

 出来れば、絡んでるなよサターン教団・・・あれ?これフラグじゃね?


 ともあれ山頂付近には何事も無く無事に辿り着く事が出来た。

 リンの背中から降りると、身体の末端から凍りつく様な寒さを感じた。


「アリス、この寒さは不味いから直ぐに焔鉱石に魔力を込めて」

「う、うん!」


 必死に焔鉱石に魔力を込めていると時期に暖かくなり寒さが気持ち程度和らいだ。

 戦闘による消耗は無いが、焔鉱石に魔力を込め続けるので消耗し切ってしまいそうだ。


 歩き出して実感したが、踏み出す度に積もった雪に足が奪われて、それを引っこ抜いてはまた埋もれるの繰り返し。倦怠感が酷くなって来た。


「アリス、リン大丈夫・・・!?」


 驚いた事にアリスはリンの上に乗っていた。表情は安らかで疲れの色は微塵も見えない。


「エレンは乗せられない。これいじょう乗ると動けない」

「あっ・・・うん。まあ私はいいんだ。アリスさえ楽ならそれで」


 体重の軽い幼女の特権って訳か。


 やっとの思いで山頂付近に辿り着いた。息は荒れていて、体が冷えすぎた余り逆に暖かいと錯覚している状態だ。

 早く家に帰って暖かい風呂に入りたい。とか思っていたが、本番はここから。


 山頂付近が吹雪の所為で視界は白くて遠くを見通す事は出来ないが、幸いな事にアリスの<精霊探知>は機能しているようだ。


「<精霊探知>!えーと、今は居ないみたい。だけど居た痕跡はある」

「了解!今は何処かに出掛けてるって訳か」

「そう・・・あっ!!来る」

「えっ!?嘘でしょ」


 アリスが空を見上げた途端、吹雪は激しさを一層増して少し先すらも見えない程に視界が真っ白に塗り潰された。

 それに伴って風も凄まじく腰を低くしていないと飛ばされてしまう。

 咄嗟にアリスの手を握って正解だった。


 一面真っ白だが、見上げた頭上には巨大な黒い影が浮いていた。

 この蛇の様なシルエットには思い当たる節がある。

 言わずもがな天空の支配者と呼ばれるその者で間違い無い。


 俺は逃げる事は愚か声を上げる事すら出来なかった。余りのプレッシャー。俺達を敵と見做して、最大級の威嚇をしている。

 蒼い鱗に覆われた長い身体には鋭い鉤爪がある腕と足があり、鋭い眼光を放つ赤い瞳に白いツノと髭が伸びている。


 腑抜けた顔でウラノスを眺めていると、脳味噌まで響く低い声をウラノスは放った。


「貴様か?貴様なのか!?我の宝を奪った愚か者は貴様なのだろう!!!」

「うっ!・・・耳が割れる」


 ウラノスが怒号を響かせると地面が揺れた。声だけで倒れそうになるなんて、流石はガイアと同じ最強の生物だ。

 ただウラノスの言葉は不自然だ。俺達に身に覚えの無い罪を突きつけて、怒りを示している。


「あんたの宝なんて知らないよ!私達は今ここに来たんだ!それを盗んだのは別の人じゃない?」

「貴様!我に歯向かうというのか?人間というのは偽りを述べる罪深き生命だ。その言葉を信じるなど出来る筈が無いわ!」


 話が通じないな。怒りの余り理性を欠いているみたいだ。

 だが、これは不味い。不味すぎて頭が痛くなってきたぞ。

 取り敢えず話をして落ち着かせなければ。


「いや私は嘘をついてない!そもそもその宝ってなんなの?」

「盗人猛々しい!我の宝は黄金の甘い果実だ!1年に1度だけこの地に実る我の楽しみ!それを貴様らが盗んだのであろう!」


 まさかサレンさんの言っていた噂が真実だったとは。ウラノスは本当に果実を求めて、この時期にここを訪れていたのか。

 火のない所に煙は立たないというけど、本当にその通りだな。


「黄金の甘い果実、そんな物本当に知らない!ウラノスが寝ぼけて食べたんじゃない?」

「我が?寝ぼけて?食べた?だと!?フハハハハッ!可笑しな事をほざく人間だ!天空の支配者と呼ばれる気高い我が、そんな事をする訳がなかろう!」


 理性を欠いていると思ったが、いきなり攻撃してくるとかはなさそうだ。

 それに懸念していたサターン教団も居ない様だし、想定よりは遥かに楽だ。


「どうしてくれようか。そこに凍りついている人間共の様にするのも良いが、存外呆気なくて詰まらなかったからな」


 ウラノスが指差した先には、氷塊が転がっていた。近寄って中身を確認すると、見覚えのある黒いローブを身に纏った男が居た。

 サターン教団は既に処理された後という訳だ。


「待てよ。そこの小娘、貴様の匂いを我は知っているぞ?ずっと昔に嗅いだことのある懐かしい匂いだ」


 ウラノスの発言は微妙にセクハラ臭い。元の世界で女性にそんな事を言えば直ぐに訴えられる。

 だが、俺から懐かしい匂いがすると考えている今が逃げるチャンスかも知れない。

 根本的な解決にはならないが、この状況をどうにか出来る訳でも無いんだ。

 町に逃げて、飢餓にならない対策をした方が賢明だ。


 逃げ出そうとした時、ウラノスがパチンと掌を打った。


「あぁそうだ貴様のその匂い我が盟友ガイアの匂いだ。貴様、ガイアと知り合いか?」

「えっうん!知り合いだよ!」

「やはりそうか!それで奴に加護をされているのだな!フハハ!まさかこんな所で盟友の知人と出会うとは、気分が良い!」


 これはもしかして、見逃してくれるやつか?あわよくばこの極寒もどうにかして欲しいな。


「ウラノスはガイアと友達なんだ!」

「ああ!昔は村や町など無い平地だらけだったからな。我らが殺しあっても誰も被害を被らなかった。だが、やがて人間が集まり我らの居場所が無くなって行った。神や精霊王は人間を贔屓にしていたからな。我らは自ずと身を潜めたのだ」

「そうなのか。肩身が狭い思いをしていたんだな」

「貴様ら人間の所為でな。そうか盟友の知人を殺すというのは気分が悪い。それならば黄金の甘い果実に代わる甘い物で我を満足させる事が出来たなら、全てを許そう」


 そもそも俺は何もしてないんだけどな。まあだけど、果実よりも甘くて美味い物を食べさせれば良いって事だろ?

 それなら簡単だ・・・ここが極寒でなければ。






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