未成年に手を出すのは犯罪です
「この辺りはああいう手合いも多いから、子供だと思って油断しないようにな。スリには気を付けろよ」
「どうも親切にありがとね」
フウは丁寧に色々と答えてくれた衛兵に礼を言ってその場を後にする。
さて、まだ時間に余裕はありそうだけど……
宿を出てからおよそ一時間、太陽の位置からも考えて時刻は九時半から十時の間といったところ。
それにしても、
「まだ何か用があるのかな?」
建物の影へそう声を掛ける。
おずおずと姿を見せたのは先程の少年。
「ちょっと尾行が分かりやす過ぎだね」
「なぁ冒険者の姉ちゃん、オレを荷物持ちとして雇ってくれよ。グラナタに来たばっかなんだろ。街だけじゃなくて、周りの森もちょっとなら案内出来るから」
「悪いけど、もうグラナタの冒険者に知り合いがいるから間に合ってるよ」
まぁ一日前に出来たばかりだが。
「なんだ、そうなのか…」
フウの返答に少年は目に見えて消沈を露にした。
「君、孤児だろう。近くに孤児院か何かがあるのかな」
「あ、あぁ、向こうの方の孤児院に住んでるけど。何で分かったんだ?」
「この場所に君の身なりと行動から考えれば、誰でも分かるさ」
貧民街でみすぼらしい格好の子供が、自身を売り込んで仕事を欲している。
目が死んでいる訳でもなく、身体に痣や傷がないことから親に虐待を受け無理矢理働かされている、という訳でもなさそう。
となれば孤児という可能性が最初に浮かぶのは当然。
一方、身なりは粗末な割に不衛生な体臭などはなく、身だしなみは最低限整えられうっすらと香のような匂いすら感じる。
おそらくは宗教関連の孤児院か何かで生活しているであろう、ということまでは推測可能だ。
「それで、君は何でそこまで仕事が欲しいんだい?」
孤児院で最低限衣食住が保障されてるなら生きるには困らない筈。
余程孤児院の環境に不満があるのか、何か金の掛かる目標があるのか。
「妹が病気なんだ。すぐに息が切れて咳がひどくなる。発作なんかが起きた時はいつもシスターが魔法でどうにかしてくれてるけど、治すには高い薬を飲み続ける必要があるって。オレは兄ちゃんだから何とかして治してやらないといけなくて。まだオレに出来ることは少ないけど、この街のことなら詳しい自信があるから案内を仕事にって…な、なんだよ」
そう語る少年の眼を覗き込むフウ。
見て取れるのは先程と変わらない強い意志の見て取れる揺るぎない瞳。
うん、嘘じゃあなさそうだね。
「荷物持ちやら案内役やらは必要ないんだけど、情報が欲しいんだ。街で変なことがあっただとか、おかしな人物を見ただとかね。そういう情報があったら適正価格で買い取っても良いんだけど。どうだい?」
「それはどんな話でも良いのか!?」
「些細なことでもボクが価値があると思えば高く買うさ。特に知っている人が少なければ少ないほど良いね」
「分かったっ。じゃあとりあえず最近あったこと変なことは全部話すから…」
パッと表情を明るくし興奮を露にする少年に、フウはシーっと静かにするよう指を立てる。
「大切な商品をあまりそう大きな声で撒き散らすものじゃあないよ。誰かに聞かれたらその価値は下がってしまう」
その言葉に少年は慌てて口を両手で抑えると、周囲をキョロキョロと見回し人影が無いことを確認してホッと息を吐いた。
まぁ今のところ周りに誰かがいるような気配はないことは分かっていた訳が、迂闊な行動は避けるよう普段から心掛けることが重要だ。
「…お金になりそうなものがあったら買ってくれ」
「良いとも、じゃあ場所を変えようか」
いくら今は人の気配がないとはいえ、このまま井戸端会議のように立ち話で情報と金銭のやり取りをする訳にもいかない。となると、
一度、宿に戻るのが無難かな。
実際地球でも拠点として一時的にホテルの部屋を借り、そこで情報のやり取りをすることは少なくなかった。
「ボクはフウ、君は?」
「オレはタンジだ。よろしくなフウの姉ちゃん!」
本人の向き不向きもあるが、社会から見向きされない中で生き抜く孤児の眼というのは意外と馬鹿にならないモノを見ていたいたりするもの。
面白い話が聞けると良いけど……
といった具合でタンジを連れ戻ったフウを、
「あれ、目を覚ましていたのかい?」
「ふと目が覚めたからお茶を貰おうと思って降りてきたら、マルガリータさんから貴方が一人で散歩に出たって聞いてね。で、帰って来たと思ったら幼い男の子連れって…そういう子が趣味なの?」
そう呆れ顔のシルヴィが迎えた。
随分と疲れていたためグッスリ夢の中だと思っていたが、どうも当ては外れたらしい。
「気分転換ついでに、ちょっとこの街を知ろうと思ってね。ずっと見張られているというのも気疲れするものなのさ」
「はぁ、やっぱり気付いていたのね。そんな気はしてたけど」
「まぁ常識的に考えれば監視役がいないとおかしいだろう?ボクが退室した後にギルドマスターから指示されて、ってところかな」
全く事実通りの指摘に、シルヴィは大きく溜息を吐いた。
「まず黙っていた事は謝るわ。ごめんなさい。もし貴方が嫌だっていうなら、行動を共にするのはここで辞めましょう」
「別に構わないよ。知られて不味いことをしてる訳でもないし。ただ、ずっと誰かと一緒にいるってのも慣れなくてね。息抜きくらいは許して欲しいかな」
今のところシルヴィの存在自体はフウにとってメリットの方が大きい。
ただ一人の方が動きやすいこともある、というだけのこと。
「元々そこまで行動を縛るつもりはないわよ。先に一言声を掛けて欲しかっただけよ。それでもう一度聞くけど、そういう子が趣味なの?」
確かに客観的に見ると、成人女性の姿をしたフウが十歳ちょっとの男の子を宿に連れ込む、という状況はかなり怪しい。
地球であれば児童買春を疑われて即、職務質問案件だ。
まぁ実際に買おうとしているのは情報なのだが。
「まさか、ボクを何だと思っているんだい。彼はただの情報提供者だよ。ねぇ?」
と同意を求めるフウだが、タンジは黙ったままあんぐりと何かを見つめている。
その反応に強まるシルヴィからの怪訝な視線。
「あの、タンジ少年?何か反応してくれないと、ボクの立場と沽券に関わるんだけど」
せっかく鉄級冒険者という社会的信頼を得たというのに、ショタコン疑惑などという訳の分からない理由でそれを失うなど冗談じゃない。
「へ?あ、あぁ、そうだなフウの姉ちゃん。それでそっちの姉さんは…」
「自己紹介がまだだったわね。私は銀級冒険者のシルヴィよ。もしそのお姉さんに何か変なことをされたなら「す、凄ぇ。本物の銀級冒険者なんだ」
どうやらタンジが固まっていたのはシルヴィの冒険者証のドッグタグに意識を引かれていたためらしい。
この街に三人しかいない銀級冒険者はタンジからすれば噂に聞く凄い人という奴だ。
「疑惑は晴れたかな」
「まぁ、そうね。良かったわ。私も貴方の嗜好が幼い男の子に向けられていて宿に連れ込んでいる、なんて報告するのは御免だったから。その情報提供とやらが何の話かっていうのは私も聞いて良いのかしら」
「その辺りの詳しいことはボクの部屋で話そうか」
「…なんか、この状況だとその言い方も少しアレね」
確かに。
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