事前通告は仕事の基本
「あら、外出?シルヴィちゃんは呼ばなくて良いのかい?」
「少し外の空気を吸いがてら近場を散歩するだけさ。随分疲れていたみたいだし、そんなことで起こすのも悪いだろう?」
フウが賊のアジトで助ける対価としてシルヴィへ求めたのは、情報とグラナタまでの案内の二つ。
とうにその対価は払われている。
しかし冒険者として登録しギルドを後にした今でも彼女がフウの面倒を見ているのは、おそらくお目付け役だ。
勿論、本人の言葉通り助けた分の借りを返しているというのも嘘ではないだろうが、同時におそらくギルドマスターあたりから問題を起こさないように見ているよう指示されているのだろう。
常識的に考えて、素性も過去も分からず迷子を名乗り街にとって酷く重要な情報を売りつけてきた怪しい人物を、ギルド支部の長という重要な立場にあるらしい人間が無邪気に信用できるかという話。
そんな相手の後ろ盾になってしまった以上、暫く見張り役を付けるくらいは当たり前だ。
まぁこうして別行動が出来ている時点で、厳格な監視って訳でもなさそうだけどね。
好んで問題を起こすつもりは無いが、人の視線があると動き辛いこともある。
「部屋の鍵、預かっていて貰えるかな」
「はいよ。最近は少し治安が悪いみたいだから気を付けるんだよ。と言っても大抵のならず者なんて鉄級冒険者のフウちゃんなら返り打ちかもしれないけどね」
そう言って笑うマルガリータに鍵を渡し宿を出たフウは、そのまま宿の窓越しに四人組を見た十字路へ足を運ぶ。
お、まだギリギリ残っているね。ラッキーだ。
十字路の地面には、例の少年のローファーであろう足跡が微かに残っていた。
彼らが向かったであろう方向とは反対へ、その跡を遡ってゆく。
何度か見失いかけながらも何とか足跡を目印に辿ってゆけば、段々と道は荒れ周囲の建物も汚く粗末な作りのモノが目立ち始め街の風景は退廃的なモノへと変わっていった。
雰囲気は地球で幾度となく訪れたことがある所謂貧民街といったところ。
時折ならず者らしきガラの悪い輩や浮浪者ともすれ違うが、不審そうな視線こそ向けど絡んで来ることはない。
鞄から下げた鉄製のタグのおかげか。
流石に足跡の判別も限界になってきたそんな時、少し先に街の南の端の木壁と閉じ切られた門が見えた。
門の近くには衛兵の詰め所が設けられてはいるが、門を監視している衛兵は一人でその肝心の一人もウトウトと寝跨けている始末。
門扉自体も頑丈そうに施錠されているとはいえかなり粗末な作り。
北門とは警備態勢が段違いだ。
フウはお得意の人の良さそうな笑みを浮かべて、門の方へ近付き舟をこぐ衛兵へと声を掛ける。
「やぁ、こんにちは」
「…へっ、あ、寝てないです!ちょっと瞑想をしてただけで…って、なんだ隊長じゃないのか」
ビクリと目を覚まし慌てて訳の分からないことを口にする衛兵だったが、
「お嬢さん、鉄級冒険者?若くして凄いな。それで、わざわざこんなところに何の用で?」
すぐに冷静になったらしく、そんな返答が返って来た。
「いや、実はこの街に来たばかりでね。しばらく滞在するつもりだから街の事を知っておこうと歩いて回っていたんだ」
「あれか、魔領域開拓で活躍して一旗揚げてやろうってやつか」
「ここは街の南門だよね。もう朝だけど開かなくて良いのかい?」
「あぁ、南門を使う奴なんてほとんどいないからな。行商人は利便性の良い西門を使うし、冒険者は魔領域が近い北門から街へ出入りする。南門は外の街道も荒れ放題でほとんど獣道みたいなもんだし、内側も見ての通りの貧民街と、開けておくだけ無駄なんだ」
気を損ねる事もなく、むしろ少し上機嫌で丁寧に答えてくれる衛兵。
まぁおそらくフウの容姿が理由だろう。
若く顔立ちも悪くない女がニコニコと愛想良く話し掛けて来たら、普通の男は悪い気がしないものだ。
身体が変化してから体幹のバランスはズレるし、激しく動くと胸回りが痛いし、トイレもし辛いと碌なことが無いと思ったけど、なるほどこういうメリットもあるのか。
「門扉の作り自体も北門とは違うんだね」
「あぁ、特に北側は魔領域から魔物が溢れる可能性も考えて作られているから、門も壁もこっちとは頑強さが違うな」
そう言われると確かに木壁の高さや作りも北門の周りに比べて質素だ。
気付かれないように街へ侵入するなら南側から、ってことだね。あの学生服の少年と男爵令嬢の一団もこの辺りから街へ入ったのかな。
だとするなら、令嬢が男爵家にも自身の帰還を知らせたくなかったというフウの推測もかなり現実味を帯びてくる。
そんな時、細路地の方から小さな人影がタッタッタとこちらへ駆け寄って来た。
「冒険者の姉ちゃん。この街に来たばかりならオレが案内するぜ!」
歳の頃は十代前半くらいの少年。
継ぎ接ぎの痕のあるシャツとズボンに木底のサンダルと、とてもじゃないが上等とは言えない身なり。
貧民街の住民だろう。ただその瞳だけは雪下から芽吹いた野花のように力強く一切の濁り気がない。
「あー、お嬢さん。そいつは止めといた方が良いぞ。後から金をせびって来る物乞いだ」
そんな少年の売り込みを遮るように衛兵が忠告を口にする。
「物乞いだなんて、ひどい言いがかりだっ。これはオレの仕事ってやつで…」
「金は取るんなら先に言っておかなきゃ駄目だろ」
「て、鉄貨三枚ぽっちだ。安いもんだろ!」
「いや、高いか安いかじゃなくてだな」
その真っ当な指摘に返す言葉のなくなった少年は「ちぇっ、じゃましやがって」と悪態をついて踵を返していった。
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こん話から投稿が不定期になります。
心が折れない限り一週間に二話は更新出来ると、多分、きっと、出来ると良いなぁ。




