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テスト?知らない子ですね  作者: 型破 優位
第一章  常識と非常識
4/25

グループ?いきなりですね


「まず、行事の数は知っての通り六つ。入学式と卒業式を除いて四つある。

 一つは、体育祭。一つは、ゲーム大会。残り二つはその年、学年によって違う。

 体育祭は学校単位で、残りの三つは学年単位で行う。そして、来週の木曜日に行われるのが、『ゲーム大会』だ。さしあたって、君たちには来週までに六つのグループに分かれて貰いたい。

 では、来週の木曜日にまた会おう。以上だ」




 本当にいろいろ分からない先生だ。

 優しい人だと思えばいきなり泣く子も黙るような雰囲気を纏い、気がついたらまたいつも通り。

 言うことだけ言って、そのまま教室を出ていく岩田を見つめる生徒達だが、残された彼らは当然、いきなりのことで何もできない。

 ほとんどの人が周りの様子を気にしているだけで、動こうとはしない。



 ――こういうとき、悔しいけど自分がバカで良かったと本当に思う。




「坂田」



「ん?どうし――いっだぁ!?」




 本日四回目のデコピン。

 蓄積されたダメージに加えて完全な不意討ちだ。威力は何倍にも感じたことだろう。




「いきなり何するんだよ!」



「あの岩田とかいう先生が教室出て言ったときに、ここに来たときのことを思い出したから」



「それはもう三発のデコピンでチャラだろ!?」



「誰もあれでチャラとは言ってない」




 そこで、坂田にアイコンタクトをする。

 意図が伝わるかどうかは、坂田次第。

 まだ出会ってから二日目の人間にアイコンタクトなど、普通なら無理難題もいいところではあるのだが、彼は軽く頷いて、椅子から立ち上がり




「いやー、皆ゴメンゴメン。うるさくしちゃったね。ほら、こいつ今みたいに空気読めないやつだからさ」



「空気ぐらい読めるわ」




 予想通り、意図はしっかりと伝わったようだ。

 世論は昨日、今日と坂田と喋っていて思ったことがある。坂田は話し相手をペースに乗せるのが上手い。話上手で聞き上手というのが一番近い言葉だろう。

 そして何より、世論には坂田から何か近いものを、別の言い方をすれば、親近感を感じるのだ。




「まぁ、こんなやつはほっといて……様子を伺ってても始まらないし、とりあえず仲が良い人どうしで集まってみよう。もしいないという場合は、俺のところへ来てほしい」




 話終わると同時にさりげなく、「朝のやつはこれでチャラな」と言ってくるあたり、デコピンが若干トラウマになりつつあるようだ。

 実際は朝のことなど気にしていなかったし、二発目撃った時点でとっくに許していたのけども。



 誰も異論はない――というよりも、クラスを動かしてくれる人がそれに従った方が楽と考えたのだろうか。坂田の指示に従ってそれぞれがグループを作っていく。



 坂田の回りに集まったクラスメイトを除くと、グループの数は四つ。女子が二グループに五人ずつ分かれており、男子は二人、三人の二グループ。坂田の周りには世論を含めて男子三人、女子一人の四人が集まった。




「今日欠席なのは女子一人と男子三人。グループは四つか――男女混合グループを一つと男子のみのグループを一つ作っておきたいね……俺は比亜里と組むから、欠席の子と君で男女のグループを作っておこう」




 坂田に指名された余り組の女子生徒も異論は無いようで、無言で頷く。

 世論は正直なところ、ここまで手際よくグループ分けしていくとは思ってもみなかった。

 坂田は予想以上にリーダー気質らしい。




「女子はこれで終わりだね。次は男子だが――」



「あの、坂田くん……だっけ?ちょっといいかな」



「――ん、どうした?」



「僕たちのグループには、今日休んでいる小筒井(こづつい)という子を入れて三人グループを作りたいんだけど、いいかな」




 次は男子のグループ分けへ、と移ろうとした時に、二人でグループを作っていた前髪が長いのが特徴的な男子生徒によって遮られた。

 遮られるのはテンポが悪くなるためあまり好ましいことではないのだが、欠席者を入れてくれるというのはとても有り難いことだ。




「ありがとう。助かるよ。なら、後男子七人を二グループに分けることになるのだけど、常識的にいくなら三人のグループと四人のグループを作って終わりだ。これ以外に何か意見がある人はいるか?」



「おいお前。トランプで好きな数字は何だ」




 今のは、坂田にかけられた言葉ではない。

 坂田に集まってきた男子三人のうちの一人。朝に机に座って何かをしていた生徒が、同じく坂田に集まってきた、朝に机で何かやっていたもう一人の生徒に話しかけたのだ。




(キング)



「ポーカーで好きな役」



「ブタ」




 一瞬の沈黙――そして、頷き合う二人。




「おい坂田。俺はこいつと二人で組む。別に良いよな?」



「……なるほど――君たちもそれでいいか?」




 そしてその男子生徒の意図を察した坂田は、男子三人グループの所へ目配せ、三人は顔をお互いに見合わせて、頷いた。

 というよりも――




「坂田、今のどの部分に納得するところがあったんだ?」




 ――さっきの会話、全く意味がわからない。

 あれだけで何故理解できるのか、一回脳内を解剖して見せてもらいたいものだ――勿論、そっち系統に興味があるわけではない。




「さぁ……それは後のお楽しみってやつかな。――よし、協力ありがとう! 決めることは決めたし、後は各自自由で!」




 坂田の言葉を合図に、今作ったグループ内で自己紹介を始めたり、談笑をしたり、教室を出ていったりするクラスメイト達。



 結果として、女子五人のグループが二つ、男子五人のグループ、三人のグループ、二人のグループがそれぞれ一つずつ、男女二人ずつの四人グループが一つとなった。よくもまあこんな短時間で分けきったものである。




「さて、俺らもちょっとはグループメンバーと喋って置かないとな」



「あ、そういえばそうだな」




 世論はあのよく分からない会話あたりからすっかりグループに女子がいることを忘れていた。グループを組んだ以上、せめて自己紹介だけでもしなくてはいけない。




「えーっと、勝手に決めてすまなかったな。俺は坂田 真緋流って言うんだ。君の名前は?」




 成り行きでグループの一員となった一人の女子生徒。身長は女子の標準と言ったところで、黒髪のボブカット。顔も整っているのだが




「別に謝る必要はない。私は櫻井(さくらい) 咲希(さき)




 表情が全く変化せず、吊り目なために雰囲気がかなりキツい。だからと言って、世論が対応を変えるということはないのだが




「俺は比亜里 世論だ。決して毒は持ってないから安心しろよ」



「よろしく」




 反応がないというのも中々辛いものだ。ただ、決して向こうが喋りかけられるのを拒否してこない分、まだマシだろう。単に寡黙(かもく)なだけ。現段階では一番しっくりくる言葉だ。



 こうして、本当に簡易的ではあるが自己紹介は一応終わった。

 それだからと言って『ゲーム大会』で何をやるのかも分からないため、これからグループで「これをやろう!」となるわけもない。

 そもそも、後一人はまだ会ってすらいないのだから。



 そんなわけで当初の目的である自己紹介は終わったため、グループとしては解散。

 世論はこれからやることもないので、もう帰ってしまおうかと考えていたが、坂田が「校内回ろうぜ!」と言い出したので、ついていくことになった。



 まずは教室棟。

 普通は学年で階を揃えるものなのだが、この学校はクラスで階を揃えている。

 つまり、一年から三年までのA組は一階、一年から三年までのD組は四階――みたいな感じだ。

 そんな教室棟には一般の学校にある教室が全て終結しており、職員室や家庭科室、理科室などもしっかりと存在している。



 そして、屋外。

 体育館や柔道場、剣道場、プールなどの一般の学校にあるものも、当然だが存在する。

 だがここは国内最大級の学校だ。

 全てに置いて規模が違う。

 まず、校内なのに三階建ての商業施設が存在する。



 次に体育館。

 全校生徒はどんなに多くても三百人弱。

 だというのに、体育館の数は四つ。

 大きさもプロの公式試合ができるほど大きい。



 柔道場と剣道場は別々に存在し、プールは室内、室外のどちらか単体だけでも市営プール並みの広さを有する。



 さらには人工芝のテニスコート、ゴルフ場、挙げ句の果てにはゲームセンターやVR体験場、温泉に至るまで、ありとあらゆるものが完備されている。



 自動販売機はIDカードを(かざ)すことによりジュースを買え、その広大な面積故に敷地内には道路すらも整備されており、バイクや電動自転車を借りることができる。勿論無料だ。



 だが、それらの施設、私立なら全部とは言わないがあるところにはある。

 彼らが――主に坂田が――今もっとも気になっているのは、『研究区』と呼ばれる、敷地の外面にある区画だ。

 坂田が言うには、この学校に授業がないのはこの区画があるから、とのことらしい。




「なぁ、その『研究区』ってのは、何をやるところなんだ?」




 自転車に乗って道路を走りながら、世論は素朴な疑問をぶつけた。

 ちなみにいくら校内とはいえ、バイクを運転するためには免許が必要となる。

 当然、高校一年になったばかりの世論達が免許を取る術はないため、(しばら)くは自転車の移動が主流となる。




「比亜里……お前ってマジで何も知らないんだな」



「当然だろ? 受かるなど微塵も思ってなかったんだから」



「いいか? 簡単に言えばその区画には世界を渡り歩く企業の技術者が常駐していて、最先端の技術、思考を見たり聞いたりできる所だ。

 つまり、そこで企業の利益となると分かればその場で声をかけられるということもある。だから、この学校の生徒の中には、『研究区』に入り浸っている人もいるらしい。

 最も早く声をかけられた人は高校一年の夏が始まる前だったらしいな。ほら、お前も知ってるだろ? 最近ニュースにもなった、『深海の水圧によるエネルギー生成装置』ってやつ」



「あー。深海の水圧を使ってエネルギー作るやつ?」



「いや、確かにそうだけども……まぁいいか。『深海の水圧によるエネルギー生成装置』ってのは、発電床(はつでんゆか)という、その床の上を歩くとそこに圧力がかかって発電する、という仕組みの応用で、その装置を沈めて水圧で四方から圧力をかけ、引き上げるという作業を繰り返して発電する装置だ。それを考え出したのが、その人」




 坂田が話しているのは、第五期生の卒業生。つまり、去年卒業した人のことについてだ。

 その卒業生は在学一年目から現在就職している企業と携わり、卒業と同時に就職をしたのだ。

 そして、例の装置の開発期間は約三年。




「水圧は無くならないことに加えて、圧力が強いから発電量も見込める。まだ数は少ないけど、次世代の新資源として注目されているんだ」



「説明どうもありがとう。とりあえず、すごいということが分かった」



「何もわかってねえじゃん! ――まぁ、そういうことがこの学校では少なくないから、企業側としても全面的に支援してくれるんだろうな」




 別に、製造そのものに関わらなくても良い。

 ただ、今までに考えもつかなった『利益の原石』だけでも、願うなら『利益の基盤』を提供してくれるなら、後は作るだけなのだから。作ってしまえば、それを売るなり、技術そのものを売るなり、使い道はいろいろとある。




「そして今日ここに来た理由だけど、俺はある人に会いに来たんだ」



「分からん……ん? ある人?」




 坂田は理解に苦しむ世論を無視して話を進める。

 人に会いに来た。

 ここにいるということは技術者、生徒、大穴で幹部クラスの人ということになるのだが、昨日、今日から考えた坂田の性格上――分からない。なんとなく生徒だろう、と世論は予想する。




「俺は人の身体の構造に興味があってね。その人はその分野でこれからの日本を引率すると言われているくらいの人なんだ」




 どうやら、当たりのようだ。

 そんな会話をしている内にいつの間にか『研究区』へと到着。坂田はそのまま一番近い建物へと向かったため、世論もその後ろからついていく。

 駐輪場に自転車を止め、マジックミラーで中が見えなくなっている扉の前まで来ると、坂田は携帯を取り出した。




「こういう施設もIDカードが無いと扉が開かない仕組みになっているんだ。出るときも一緒な」




 パネルに携帯を(かざ)すと、ピッという機械音が鳴り、それと同時に扉が開いてマジックミラーで見えなかった内装が視界に映る。

 内装は例えるのなら、病院。

 緑を基調とした、全体的に落ち着いた内装となっている。




「こっちだ」




 地図があっても迷う自信があるほど広さで、世論が何か血迷って一人でここに入って徘徊しようものなら二度と出てはこれないだろう。

 そんな館内を、先頭切って迷うことなく足を進める坂田。三歩ほど先を歩いているため分からないが、例え地図を見ているのだとしても素晴らしいとしか言い様のない方向感覚だ。




「ここだ」




 (しばら)く歩いた後に立ち止まったのは、『研究室』と書かれた部屋の前。よく病院とかで見る赤いランプが点く系統のものだが、今は点いていない。

 だが、坂田はそれを全く気にせずに扉の横に置いてあるパネルをタッチ。再び鳴った機械音と共に、鉄製の扉がゆっくりと開いた。




「へぇ、こんなところまでIDカードを使うんだな」




 鉄の扉が開いた先は、ただ真っ暗な部屋。

 建物の構造上、特に内側にあるこの部屋には日が入らないため、少し辛気臭い。

 さらに少し生臭いこともあり、こういう所に慣れていない世論にとっては入りづらい部屋だ。



 出来れば入りたくはない――




「よし、行くぞ世論」



「って、おい!」




 ――という願いは聞き入られることなく、背中を押されて部屋に一歩足を踏み入れた。

 瞬間、部屋に一斉に電気が点り、大量のネットが世論と坂田を襲う。




「だああ! なんだこれ!」




 さらには警報も発動したのか、『侵入者』という機械音が室内に鳴り響く。




「おい坂田! これどうするんだよ!」



「ハハ! 捕まったな!」



「笑ってる場合じゃねぇ! マジで取れない!」




 呑気な坂田の声が聞こえ若干イラッときたが、今はここから抜け出すことが先決だ。だがこのネット、早く出ようともがけばもがくほど、虫が蜘蛛の巣に引っ掛かったときのように絡み付いてくる。



 そして、奥の鉄製の扉がゆっくりと開いてしまった。

 二人の――主に世論――騒がしさと警報音。当然、室内に人間がいるなら来ないはずもない。予想できていたことだが――




「貴方達。一体何をしているのかしら?」




 ――さすがに、物騒にもほどがある。

 扉の奥、白衣を着た女性が警棒のようなものを手に、こちらへと向かってきていた。

装置ですが、数十年後にそういうのが出来たらな……という希望を込めて。

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