トランプ?新しいですね
世論達が第二体育館へ着いたのは、時間五分前である一時五十五分だった。
そして、特に理由も無いが出入り口で少し待っていると、ギリギリの時間で櫻井も来た。
「先に入ってて良かったのに」
「まあ、俺らがしたかったんだから気にするな。ほら櫻井。早く中に入るぞ」
体育館シューズへ履き替えて数時間前に来た通りに入館したのだが、その中は薄暗く、第二体育館の中へ集まった生徒達は一様にその足を止めていた。まず、内装に目が行く。
内装がガラリと変わっていたのだ。
左右にあった合計十二個の部屋は全て取り払われており、その代わりに中央には館内の表面積の半分以上はあるであろう、縦長の大きな機械が置かれていた。
さらに部屋があった館内の両端には、二クラスは上がれそうなほど広い面積を持つ舞台のようなものが立っており、二階観客席に少し届かない程度の高さがあるその先端には、パネルのようなものが一台ずつ置かれていた。
そして、前方のスクリーンには縦長の機械を真上から映している映像が流れている。
横からでは分からなかったが、この機械は巨大なパネルで出来ており、世論達のいる場所から見て左側に『634P』と表示されており、右側には『555P』と表示されているためそこがクラスの指定位置なのだろう。
さらに真ん中には、『昇順』と書かれている。
ブチッ
マイクにスイッチが入った。
「二時になりました。こちらの試合の進行は再びこの私、相枝が務めさせていただきます。では、さっそくですが、皆様特設の舞台へとお上がりください。尚、皆様から見て左側がD組、右側がA組となっております」
どうやら司会の人の苗字は相枝というらしい。
そんなどうでもいいことを考えながら、世論は相枝に言われた通りに、階段に付けられたライトを頼りに舞台へと上がっていく。クラスメイトもその後に続いた。
舞台は鉄でできているのだが、舞台上にカーペットが敷いてあり、人数分の椅子が置いてあるというのは、立ちっぱなしは辛いという学校側の配慮だろう。
全員が上がったのを確認して、相枝が進めていく。
「それでは、今回のゲームの内容を説明します。今回行って貰うのは、ポイントとトランプを使ったゲームです。スクリーンをご覧下さい」
相枝の合図で、スクリーンの画面が切り替わる。
映っているのは、向きも並び方もバラバラのトランプ五十二枚が裏返しになっている映像。
世論の脳裏には神経衰弱が浮かぶ。
「今回皆様にやって頂くゲームは、一風変わったものとなっております。まず、各クラスでグループの出る順番を予め決めておきます。グループ全員でパネルまで向かい、そこで自分達が使用するポイントを申請してください。見本であるスクリーンでは両クラスポイントを『500P』とし、両者共に『100P』でやらせて頂きます」
スクリーンに表示されたのは、両クラスポイントが『400』となり、両者に『100P』という数字が点灯されたところ。
当たり前だが、クラスポイント内でしか使えないらしい。
「今回、四人のところをグループA、三人のところをグループBとして説明します。まず、両グループパネルから裏返しになっているトランプを交互に選択します。選択権は第一競技の順位が上のクラス。つまり、Dクラスとなります。時間は一枚を十秒以内で取ってください」
裏返しのカードをグループAは四枚、グループBは三枚取った。
グループAの引いたトランプの数字は『9』『A』『8』『K』で、グループBの引いたトランプの数字は『A』『5』『Q』とスクリーンに出ている。
「取れるカード枚数はグループの人数と同じです。今は見本のために手札が開示されていますが、本番では各自でしか見えないのでご安心ください。そして、次に取ったトランプの中から一枚を選択してください」
グループAが選んだのは『K』でグループBが選んだのは『Q』だ。すると、スクリーン中央の『昇順』と書かれていた部分がスロットみたいに回り始め、再び『昇順』で止まる。
「お互いの選択が終わったら真ん中のルーレットが回り始め、『昇順』か『降順』かが選ばれます。『昇順』なら数字が大きい方の、『降順』なら数字が小さい方の勝ちです。今回は『昇順』のため、『K』の勝ちとなります」
スクリーンで『K』が『Q』を破り斬った映像が流れて、グループBのポイントが『99P』へと下がった。
そして、一度集められたカードは再び裏返しで並んでいる。
「見ての通り、グループBのポイントが減りました。ポイントの減る数は、大きい数から小さい数を引いた値。今回は『1』が、減る数となります」
そうして、スクリーン内ではもう一度トランプを取るところから行われた。
今度の手札は、グループAが『7』『7』『7』『10』で、グループBが『1』『8』『8』だ。
すると、グループAの三枚の『7』と、グループBの二枚の『8』が光を放つ。
「次に、ゾロ目についてお話しします。ゾロ目が出た場合、そのゾロ目の数字にゾロ目の枚数を掛けた値だけ相手のポイントを減らすことができます。今回の場合、グループAは『7』が三枚あるため、ゾロ目の数字『7』に、ゾロ目の枚数『3』を掛けた、『21』が相手のポイントの減る値となります」
そうして、グループBのポイントは『78P』まで減り、同じ原理でグループAも『84P』へと減った。
スクリーンに残った手札は、グループAは『10』、グループBは『1』となっている。
「ゾロ目で相手のポイントを減らした場合、その数字は使用することが出来なくなります。ですので、グループAは『10』を、グループBは『1』を選択することとなります」
そして、再び中央のルーレットが回り、今度は『降順』で止まった。
「『降順』が出ましたので、数字の小さい方の勝ち。今回はグループAが『10』でグループBが『1』のため、グループBの勝ち。グループAの減るポイントは『9』となります」
今度は『1』が『10』を破り斬った映像が流れて、グループAのポイントが『75P』まで減った。
「これをどちらかが『0』になるまで行い続け、勝った方のポイントはそのままクラスポイントに還元されます。これを繰り返して先にクラスポイントを『0』にした方の勝ちとなります」
スクリーンではグループAのポイントが『0』、グループBのポイントが『21』残っており、グループAのクラスポイントは『400』のまま。グループBのクラスポイントは『421』となった。
「尚、二人グループの際にゾロ目が出てしまった場合、ゾロ目として扱うか数字として扱うかの選択権を与えますので、その場で決めてください。ゾロ目で使った場合、相手のカードの数字の数だけそのままポイントが減りますので、よく考えてから選択をしてください。
舞台上にあるホワイトボードは各自で御活用してくれて結構ですが、ゲームを行っているグループ以外の方からヒントを言うのは禁止とします。では、これでゲーム説明を終わります。今から五分時間を取りますので、順番の方をパネルへ入力してください」
司会の説明終了の言葉と共に、スクリーンは再び機械を真上から映した映像へと切り替わった。
そこで世論がA組に聞こえる声量でクラスに号令をかけて、クラスメイトを集める。
そこからは坂田の仕事だ。
「ルールはだいたい分かったと思う。こういうゲームに使われる機械は何か法則性があるものが多いから、法則性を見つけるまで最初の三グループで百ポイントずつ使って時間を稼いで、出来れば勝って欲しいんだけど――誰か頼めないか?」
「一番手は私たちが行きますわ」
そこで手を上げたのは、意外にも東雲だった。
坂田もこれには意表を突かれたようだ。
「先程の失態はここで返させていただきます」
「そっか。確かに東雲さん達のグループなら人数も多いし、適任かもね。それじゃあ頼むよ」
「任せてくださいな」
それから残りの二グループは小筒井率いる男子三人のグループと、内藤率いる男子五人のグループがやることになった。
彼らと坂田は面識があるようなのだが、世論には全くと言って良いほどなく、大変失礼なことなのだが名前すら今初めて聞いたレベルだ。
その三グループの後に八乙女と石田が入り、その後に倉科率いる女子五人グループ。最後に世論達だ。
パネルに順番を入力し、こちらは準備完了だ。
A組もそれなりに決まっている雰囲気だ。
余った時間も有効活用し、ポイント分配を予め決めておく。
「時間少し余ってるから、使うポイント決めておこう。まず、最初の三グループは百ポイントで固定。残りを三グループで分けることになるんだけど――」
「坂田。俺らは四十あればいい」
「――本気か? 八乙女」
「当たり前だ」
じっと八乙女の目を見詰める坂田。
若干女子グループでざわついているが、その二人の視線には何重もの意図が含まれている。
数秒して、坂田はため息をついてそれを認めた。
「別にいいけど……八乙女は本当に良く分からんな」
「それはお互い様だろ?」
「それもそうだな」
「時間です。一回戦目に出るグループはパネルの前に出てください」
そこで、タイムアップ。
倉科率いる女子五人グループとのポイント分配は終わってないが、それは椅子に座ってでもできることなので特に問題は無いだろう。
椅子に着こうとした坂田だが、何か言い忘れたのか走って東雲の元へ向かい、椅子に座らずホワイトボードの前に立った。
その隣では、既に櫻井が目にも止まらぬ早さで何かを書き込んでいる。今回も何か知らずに褒めると地雷を踏みそうだと考えた世論は、心の中で称賛しながら席についた。
世論も学んだのだ。
東雲と相手のグループ共に準備が出来たらしく、全員パネルの前についている。
相手の人数も五人。
初手としては悪くない組み合わせだろう。
「それでは、第二競技スタートです」
◆◆◆
ゲームは、予想以上に混戦となっていた。
お互い『100P』スタートとなった第一回戦だが、現在ポイントは東雲が『30P』、A組が『21P』となっており、ゾロ目次第ではかなり厳しくなる。
坂田はひたすらデータを取っており、櫻井はゲーム展開をチラ見しながは猛然と書き進めていた。
第三十二戦目。
東雲とA組は交互にトランプを五枚選ぶ。
そこで、東雲のトランプが二枚光った。
つまり、ゾロ目だ。
トランプの数字は『4』のため、減らすことができるポイントの数は『8』となり、A組のポイントは『13P』となった。
さらに東雲は安全策を選び、真ん中の数字である『7』を選択。相手は勝負に出たのか良い手札が無かったのか、『10』を出した。
高確率で後者だろう。
パネルの中央が回り始め、『降順』で止まる、
これでA組のポイントは『10P』となり、ほぼ王手に近い状況となった。
慎重に攻めるに越したことはないが、『5』より上のゾロ目で勝てると言うのはかなり大きい。
第三十三戦目。
今度は相手のトランプが光り始める。
その数は三枚。
場合によってはそれで落とされるという事実に、東雲は冷や汗を流した。
その心配を他所に、ゾロ目の数字が明かされる。
数字は『6』だ。
なので、東雲達のポイントは一気に『12』となってしまった。
ここからは運が大部分を占めてくる部分となる。
次は数字の選択。
東雲は攻めつつも守りに入る『J』を出し、A組は賭けに出たのか『A』を出した。
A組は負ける可能性があり東雲達はまだポイントが残るから有利と言えばまだ有利なのだが、ここを落とせば後が無くなる。
パネルの中央が回り始めた。
東雲は何処か落ち着かない様子でそれを見つめており、A組は目を閉じて祈っている。
そして、止まったのは『降順』だ。
よって、東雲達のポイントが減り、残り『2P』となった。東雲が悔しそうに歯を食い縛る。
第三十四戦目。
一気に後がなくなってしまった。
「また負けるのなんて冗談にもなりませんわね……」
「何言ってるんですか東雲さん。まだこれからですって」
「……そうね。悪かったわ」
あの東雲が同じグループの人間に励まされている、といえば、彼女のこと知っている人ならかなり驚くだろう。実際に、世論は驚いた。
一枚を取る時間制限は十秒なためまずは一枚引いてから、東雲は再び思考に耽る。
そこで、不意に右肩を叩かれた。
思考を中断させられたことに不機嫌になりながらも顔だけ向けてみると、同じグループの女子生徒があるところを指差していた。
そして、そこにあったものを見て彼女は目を疑う――疑ったが、試してみる価値はあった。
そこからは迷い無くパネルをタッチしていく東雲。未だに信じられないが、東雲が見たのが本当だとしたら、かなり大きなアドバンテージになる――そして、それを証明するかのように東雲の引いた手札のうち二枚が光った。
ゾロ目の数は『7』で、枚数は『2』となるため、ポイントの減る数は『14』となる。
よって、相手のポイントは『0』となり、ゲーム終了。
本当にギリギリではあったが、D組は第一回戦を勝利で飾ることに成功した。




