双子?似ていますね
予約投稿を間違えて30日にしてました。
申し訳ありません。
薬を持ってくると言われたから、粉や錠剤、カプセルなどを持ってくるのかと思っていたが、新発田が持ってきたのは何種類もの薬が入ったアタッシュケースだった。
中は綺麗に整頓されており、その異常な種類のおかげかどうかは分からないが坂田に有効な薬があったらしい。新発田はそれを坂田に飲ませた。
「今飲ませたのは即効性のある風邪薬です。すぐに落ち着いていくでしょう」
「ありがとうございます。さすがですね。えーっと……新発田さん?」
「ええ。私は三年B組の新発田 禊です。あなたは?」
「一年D組の天沢 麻亜矢です」
「よろしくね、天沢さん。――比亜里君。もし真緋流君の体調がまた悪くなったらこれを使ってください。ただし、これ以上は人体に影響を及ぼすために渡すことができません。できれば使わない方が良いです。では、私はそろそろ戻りますね」
新発田から錠剤が五個入ったピルケースを渡された世論。
新発田はケースを閉じて、飲ませるためについていた膝を起こし、立ち上がる。
新発田は三年生のため、大会を行う場所が違うのだ。三年生の仕組みがどうなのかは分からないが、もしグループがあるとしたら、そちらで他のグループと同じように作戦を練る必要もあるだろう。
世論は帰っていく新発田を見送り、寝かしている坂田を見る。表情はかなり良くなっており、汗も収まって息もだいぶ落ち着いてきている。
薬は本当にすぐ効果を出した。
ようやく一安心と言ったところだ。
「坂田落ち着いたね。私は少し外す。すぐに戻る」
「分かった」
その坂田を見て大丈夫と判断したのか、櫻井は立ち上がって新発田と同じ方向へ歩き出した。
方向的に、彼女の場合はトイレだろう。
そして櫻井が席を外してから数十秒後、坂田はゆっくりと起き上がった。それを天沢は慌てて止めようとするが、手で制される。
「おい、大丈夫か?」
「もう大丈夫だ。迷惑かけたな」
「迷惑? むしろよくあの状態であんな指示を出せたな。さすがだ」
世論のお世辞のない素直な称賛。
体調不良の代表例みたいな姿であそこまでクラスを纏め上げたのは、隣にいた世論も本気で驚いた。
世論がもし同じ立場だったとしてもできる気がしない。勿論、もしもの話だ。
「そうだとしても、無理しすぎよ。本当に心配したんだからね?」
「悪かったよ天沢さん。もう大丈夫だから許して」
渋々、と言った感じではあるが頷いた天沢。
彼女も本気で心配していた。
異性の汗を吹くのに自分のハンカチを使うことを迷わなかったし、坂田の大会参加も反対していた。
もしかしたら、あの場で一番坂田を心配していたのかもしれない。
時刻を確認すると、現在十時四十分。
第二体育館は道路を挟んで向かい側にあるため、一分ぐらいだろう。第二体育館には五十五分には着いていた方が良い。余裕を持って五十分には出たいところ。
櫻井を待ちつつ作戦を立てるには丁度良い時間だ。
「坂田。作戦はどうする?」
「正直なところ、作戦というほどの作戦はない。比亜里には前にも言った思うが、頭は良くないからな」
これまでの行動から坂田は頭が良さそうなイメージが付いているが、実際は模試四桁。決して頭が良いとは言えない。
それは入学二日目で世論も聞いている。
「それは意外だなー。てっきり頭良いのかと思ってたけど……あ、でもそれは『勉強ができる』方の頭の良さであって、真緋流君は『素』の方で頭が良さそうだよね」
「そこは俺からは何とも言えないところだな……ちなみに天沢さんはオセロとか得意か?」
「オセロを最後にやったのがそもそも小学生くらいなんだよね。だから得意かどうかも分からないなぁ」
そしてこれも意外。
初日からポーカーを仕掛けて来るぐらいだから、そういうものが得意だと思っていたのだが、オセロは彼女もそこまでやったことないらしい。世論は論外。頼みの綱は櫻井となる。
――もう始まる前から心配事しかない。
「だとしたらもう相手次第だな。全員がオセロを得意とかだったら、俺はもうお手上げだ」
そこで一斉にSNSアプリの着信音が鳴る。
三人とも送り主を確認するためにアプリを開くと、班のグループのところに一通のメッセージが届いていた。
『十時五十五分までには行く。先に行ってて』
三人とも顔を見合わせる。
「……とりあえず、行こうか」
坂田の体調は心配ない。
立てる作戦もない。
櫻井を待つ必要もない。
つまり、この場にいる必要がない。
三人は体育館裏から第二体育館へと向かった。
◆◆◆
第一から第四の体育館全てに、出入り口が五個ついている。
舞台側を前として――二から四は舞台が無いが――その反対を後ろとしたとき、左右に二つずつ、後ろに一つだ。
だが、今回は館内の左右に合計十二の部屋を作っているため、左右の出入り口は塞がれている。
よって、自然な流れで後ろから入ることになるのだが――
「なんか、漫画喫茶みたいだね」
――漫画喫茶をそのまま拡大したような作りになっていた。
「あー。見たことあると思ったらそれか」
「ごめん。俺は行ったこと無いからその例えは分からない」
天沢の呟きに世論は同意するが、意外にも坂田は行ったことが無かったらしく、首を捻る。
世論自身、付き合いで偶然行ったことがあるだけなので、案外行ったことがない人の方が多いのかもしれない。だが、そうすると天沢が何故行ったことあるのか――考えても仕方のないことだろうし、恐らく理由は世論と同じだろう。
二階にある観客席には相変わらずスーツ姿の人が沢山いるが、全員ノートパソコンを注視している。
人数的に第一体育館の七割ほどだが、それでも黒く染め上がっている二階観客席は異色の雰囲気を漂わせている。
世論達の前方のスクリーンには対戦相手が書かれている画像が映っていた。こうやって見ると分かるが、相手はランダムで決めているようだ。ただし、同じクラス同士で戦わないように配慮はしてある。
世論達の部屋は右最奥。
部屋の扉が開いているところと閉まっているところがあるが、空いているところには誰もいなかったり、一グループしかいなかったりしたため、閉まっているところは二グループ揃ったところだろう。
勿論、右最奥の部屋の扉も開いている。
中へ入るとオセロ盤が中央に置いてあり、向かい側に対戦相手らしき二人の女子生徒が立っていた。
顔だけではあるが、かなり似ているところから双子だというのが分かる。
「あなた達が『D組のD』なの?」
「ああ、その通りだ」
「確か、さっき騒いでいた人達ね」
「それは俺のせいだ。悪かったな」
髪型と声が違うため、双子によくある『名前の呼び間違い』は少なそうだ。
世論達から見て右側の子は、左側の子より声にハリがあって、黒髪の短髪。例えるなら、天沢に近い感じだ。
そして左側の子。
声はおとなしめで黒髪の長髪。雰囲気は櫻井に近い感じで、二人は顔と髪の色以外は正反対だ。
「別に気にしてはないけど、もう大丈夫なの?」
「おかげさまでな」
「貴方は厄介そうだからそのまま休んでいて欲しかったわ」
「それは無理な相談だな」
右側の子と左側の子で交互に喋ってくるのは何か意図があってのものなのだろうか。
坂田がその双子と喋っている間、世論は部屋の中を見渡していた。
世論達の正面にはオセロ盤が置いてあるのだが、少し普通のものとは違う。マス目は六十四マス。だが、そのマス目がガラスのようなもので出来ていた。
そして左側には『白』と『黒』と書かれたパネルが一台ずつ置いてあり、両方とも『0』の数字が浮かび上がっている。
パネルとパネルとの間には不正監視用なのか、カメラも設置されている。さらにその反対側。世論達から見て右側にはパイプ椅子が一つ置かれていた。
坂田と双子の会話も終わったらしく、それからは待ち時間。
喋ることは無いからか、世論達には会話がなく、双子の方も、二人仲良く目を瞑っているだけで何も喋ってはいない。
そんな雰囲気の中、いきなり部屋の扉が閉まる音が鳴り響く。その場の全員が一斉にそちらに目をやると、そこには二つの人影があった。
「おまたせ」
「遅かったな、櫻井」
「時間通り」
「それもそうか」
一人は櫻井。
そしてもう一人は――審判だ。
「ここの監督は私が務める。私語や打つ手を指示するような行為は一度目は警告、二度目は敗北となるから気を付けるように」
そして、審判は右側に置かれたパイプ椅子へと座った。
どうやら審判のための椅子だったらしい。
時刻は十時五十五分。
後五分で始まる。
だが、世論には二つほど櫻井に聞きたいことが――
「今更だが、櫻井さんは何やってたんだ」
――あったのだが、坂田が先に質問をしてくれた。
「清めてた」
「清めてた? 洗ってたってこと?」
「間違ってはない」
そして、その答えに世論は首を捻って聞き返してしまった。
清めてた、洗っていたということは、手を洗っていた。お手洗い。つまり、トイレということなのだろか。
世論と違い坂田はその意味をしっかりと理解できたらしく、「そうか」と呟いて黙ってしまい、天沢はその二人をじーっと見ていた。
「そういえば櫻井。オセロはできるか?」
トイレに行っていたのだとと解釈して、世論は聞きたかったもう一つの事を聞いた。
この中で櫻井にだけ、オセロができるかどうか聞いていないのだ。
「できる」
「本当か!?」
「うん」
答えはイエス。
一人でもオセロができる人がいるというのは、とても心強いものだ。実際、世論は少しだけ気が楽になった。
対して、場の空気は少しずつ重くなっていく。
負けたら何が起きるのか分からない。
でも、自分一人だけでは勝てない。
十一時が近づくに連れて、そういった思いからくる緊張感により、誰も喋らなくなってしまった。
ブチッ
マイクにスイッチが入る。
「十一時になりました。オセロ盤を起動します」
先程の司会をしていた女性の声が館内に響き、それと同時にオセロ盤が光る。
電気が付いたことによりマス目に『1P』、『2P』『3P』、『4P』、『10P』の文字が浮かび上がった。
そこへ審判が白と黒の碁石を二個ずつ、真ん中四マスに書いてある『10P』のところに置くと、左右のパネルの数字が『0』から『20』へと変化した。
「見て分かる通り碁石を置くとオセロ盤に内蔵してある識別センサーが白か黒かを判断し、ポイントがパネルに反映されるようになっています」
そこで審判が白の碁石を『4P』の所へ、黒の碁石を四隅である『1P』の所へに置くと、『白』と書かれたパネルが『24』、『黒』と書かれたパネルが『21』と変化した。
そして、次にルールの最終確認が行われた。
一つ、私語厳禁。
二つ、ローテーション厳守。
三つ、打つ場所は一人で決める。
四つ、交互に一回ずつ打つ。
五つ、一回十秒以内に打つ。
六つ、既出の碁石が取れるところに打つ。
七つ、ルール違反は一回目は警告、二回目は敗北。
八つ、試合の全権は審判にある。
「審判の皆様は公平に皆様の試合を見ています。審判が違反行為と言ったら違反行為になりますので、御注意下さい。これで最後の諸注意を終わります。まず代表者同士、じゃんけんをしてください」
女性の合図により、館内にじゃんけんぽん、という言葉が響く。
例に違わず、坂田と短髪の子もじゃんけんを始めた。じゃんけんぽん、の合図で出された手は、坂田はパーで短髪の子がグー。つまり、坂田の勝ちだ。
「君、白か黒かを選びなさい」
坂田がチラッと世論達を見る。
世論達は『任せる』という意味で頷き返すと、坂田も理解したらしく頷いた。
「黒でお願いします」
「黒ね。一応言っておくが、試合中にそれをやるとルール違反として見なすから気を付けるように」
「やっぱりこういうのもダメでしたか。分かりました」
恐らく、今の行為が違反かどうかを確かめるために敢えて口では聞かなかったのだろう。
そのおかげで試合中に警告を受けるリスクを回避できた。
「じゃんけんも終わったようですね。それでは一年生の皆様よく聞いてください。これは企業の方も見ている大切な行事の一貫です。皆様の奇抜な発想で企業の方を楽しませて下さい。勿論、その中で自分達が楽しむことも忘れては行けません。
それでは、一番最初に打つ人以外は床に書いてある線までお下がりください」
一番最初に打つのは世論だ。
序盤から世論の方が悪手を引く確率が低いだろう、という考えのもとで先頭に入れられている。
司会者が下がるように指示をした線は、オセロ盤から約二歩ほど離れた場所にあり、後ろを見なければ仲間の顔が見れないようになっている。
世論が前を見ると、双子もそれに気がついて全く同じタイミングで一礼をした。恐らく始まる前の礼儀としてしてくれているのだろうが、本当に仲の良い双子だ。
見本として見せられた碁石を審判が戻し、パネルのポイントが両方とも『20』となった。
「それでは、第八回『ゲーム大会』始め!」
一年生最初の行事が、幕を開けた。




