化け物達と『ただの』天才少女
私が生きてたことに自分でも驚いてますよ・・・。
クレア。とある田舎の村に生まれ、三歳で魔法の才能を開花させ、8歳で王国に仕え、今では軍師として指揮も振るう、天才。
それが世間の、私への評価であり、天才と言われることに対して否定したことはない。
そう、恐らく私は天才なのだ。
少なくとも、誰にも出来なかった魔法を次々と完成させているのだから。
けれど・・・。
私は目の前の惨状を半ば夢を見ているかのように見つめる。
そこには数分前まであった町の面影すら存在せず、ただ、血と死と瓦礫だけだった。
大きくなったシルヴィさんとマリさんの戦いの余波で、生きているのは未だ戦闘中の2人と、私とアイリさんだけになっていた。
「・・・・・・。」
全員が、いや、全てが死んだ。
全てが、亡くなり、無くなっていた。
「丁度立ち入り禁止になっててよかったね。あとでマリが元に戻せば全てが丸く収まる。」
隣にいるアイリさんは暇そうに寝そべりながらそんなことを呟いた。
確かに。
マリさんの謎の回復?魔法を使えば死人すらも蘇るらしい。死後3日は大丈夫だそうだ。
・・・それで良いのか。
人の命とは、そんなものでいいのか。
マリさんも、シルヴィさんも、アイリさんも、誰も気にしていない。
生き返れば、それで良いのか。
思えば、私は、彼女らとは決定的に違うところがある。
私は両親に愛され、村の人達には祝福され、国民に感謝され、兵士たちには尊敬されている。
勿論、嫉妬されることはあるが、それくらいなのだ。
マリさんのように故郷が滅びたり、アイリさんのように死や命の売買が身近にあったり、シルヴィさんのように一族最後の生き残りとして様々なものを託されたわけでもない。
ただ、天才だからという理由だけで、それだけでここに、彼女らと共にいるのだ。
圧倒的な場違い感が胸を貫くのを感じると共に、リビナードさんの言葉を思い出す。
「クレア、あんたが先生なんだ。それを忘れないでくれ。私の生徒達を任せるぞ。」
『先生』
それは別に授業をするだけの存在ではない。
様々なことを、生徒たちに必要であろうことを教える存在。
マリさん、アイリさん、シルヴィさんは私の生徒だ。
そして、彼女らには圧倒的に足りないものがある。
倫理感。
それはとても曖昧なもので、でも、きっと、それは人間を人間たらしめる為に大切なものだと思うから。
叱ろう、この戦いが終わったら、目一杯叱ろう。
それがきっと、何処か壊れた彼女達に、一番必要な事だと思うから。
「くっそ!」
全てが殺される。
シルヴィの魔法は死霊魔法を遥かに超越し、死そのものとなっていた。
影を纏い防ぐアイリと永続自動生成型軽防御障壁魔法で自身を守っているクレア以外は魔法に触れて死んだ。
いや、私の雷魔法によって死んだ人間もいるかな?
でも大丈夫、空間ごと再生すれば平気な筈だ。
そこらへんはアイリの悪戯への制裁やモンスターへの実験で分かっている。
問題はシルヴィを倒す手段が思いつかない事だ。
今のところ魔力残量に違和感は無いが、このままでは先に尽きるのは私かもしれない。
常に自分に回復?魔法をかけて蘇りながら、私は再び跳躍する。
「ニトロム!おらぁ!!」
腕をぶち抜き、爆弾にして投げる。
シルヴィはそれを殺す。概念として殺すのだ。
細胞を、魔素を、速度を、そして存在を。
「そっちはおとりだよ!落ちろ!!」
続けざまに雷を落とす。
それすらもシルヴィは殺す。
「効きませんよぉ。・・・と、言ってもこちらの魔法が効かないのは辛いですねぇ。」
そういいつつも嬉々として笑うシルヴィに腹が立つ。
可愛くない。シルヴィに妖艶さなどいらない。三分の一になったチリ紙くらいいらない。
小動物のような可愛らしさがないとシルヴィじゃない!
可愛いは正義という言葉があるのだから、正義は私にある。
「正義に目覚めた私は新たな力を・・・なんて都合のいいことは・・・ないよね。」
全身を軽量化し、跳躍する。
空中戦では自由に空を飛べるあちらに分がある。原理はわからないが。
「やっぱり殴る以外でダメージ与えられる気がしないな。」
空中を楽しそうに飛び逃げ回り、私をからかってくるシルヴィに一撃入れる。
もしくは捕まえる。
「あの子、普通に頭良いから罠にも引っ掛からないだろうし・・・。」
白毛の獣人族は人間並み、或いは人間以上の知能を持つと言われている。
う~ん・・・私より頭良いんじゃない?
こういった場面で新技を出して華麗に決着をつけられたら格好いいのだが、思いつかない。
なら、軽量化しすぎて風に流されかけている身体を・・・。
・・・ん?いけるか??新?技!
唐突に思いついた、爆発によって推進力を生みだすシステム。
「燃料がないなら、身体を使えば良いじゃない!」
ダァン!
両足をニトロムで爆破し、弾かれたピンボール玉のように吹き飛ぶ。
「!?」
しかし身体はあらぬ方向へ。
コントロールが難しい。てか、コントロール不能じゃね?
「うぎゃふぅへほわぁ~!??」
言葉にならぬ奇声をあげながら吹き飛びつつ身体を再生。
「・・・気持ち悪くなってきた。」
その気持ち悪さすらも回復する。
・・・全く、どんなセルフ拷問だよ、私はドⅯじゃないんですけど?
「でも、これしかないよなぁ・・・。」
再び吹き飛ぶ。
あらぬ方向へ。
左腹部を爆破。
あらぬ方向へ。
右足を爆破。
あらぬ方向へ。
左腕を爆破。
あらぬ方向へ。
左足を爆破。
あらぬ方向へ。
右足を爆破。
あらぬ方向へ。
・・・・・・。
繰り返す。何回も、何十回も、何百回も。
一つの町の跡がピンボール台になったかのように、人間弾が飛び交い続ける。
いつかは・・・当たる筈だ。
ダサい戦法に内心ため息をつきながらも、吹き飛び続ける。
アイリの大きな笑い声が聞こえるが、無視する。
ここからは気力勝負だ。主に私の。
そんな覚悟をした時、不意に身体が何かにぶつかった。
シルヴィではない。
確認すると、クレアの魔法だったようだ。
「何?」
身体を復元し、クレアの元に舞い落ちる。頭から。
「うげっ、・・・どうしたの?」
クレアはしかめっ面で呟いた。
「アイリさんが終わらせるそうなので。」
どうやらクレアは機嫌が悪そうだった。
振り向くと、シルヴィの首が落ちてきて、次いで身体も落ちてきた。
アイリが影を切ったようだ。
アイリのナイフで影が切られると本体も切れる。
避けようがなく裂ける。
落ちてきたシルヴィは私が復元、そして修正する。
元に戻ったシルヴィはむくれていた。
その後、クラゲを処理後、私が町や海ごと全てを修復したことで、この件は一応片が付いた。
列車の中で、クレアの訴えを聞く。
最早人間であることに価値を見出せなくなっていた私であったが、同級生達とは仲良くしたいし、あまり怖がられたくないので、色々と自重しようと思った。
だが、二人は違った。
迫害に慣れ過ぎている二人にとって、大事なのは今の、私達との繋がりだけであり、そして圧倒的な力は、そんな私達化け物達の日常を、明日を、未来を、決定づけるのに十分過ぎてしまうのだ。
私はクレアの顔を覗いた。
クレアは少し辛そうな、そして不安そうな、複雑な顔をしていた。
私は次の駅でお弁当を奢ってあげようと決めた。
補足ですが、クレアはマリの嘘の過去を信じてます。




