表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キーホルダー戦記タクヒナ!  作者: フィーカス
山串製作所の秘密
23/45

日曜日の電車2

 悠たちが乗った駅の次の駅に到着し、電車が停車した。目の前の扉が開くと、何人かの乗客が悠の隣をすり抜けて出て行く。そして、入れ替わるように同じくらいの乗客が乗り込んでいた。

 この駅で降りた乗客分の席がぽつぽつと空いていたが、悠たちはどうせ次の駅だからと、扉の前で立ったままいることにした。

「それにしても、日曜日なのに案外客が少ないな」

 扉が閉まると同時に、悠は辺りを見渡す。

『どちらかというと、ここら辺はベッドタウンに近いからね。出かけるとしても反対側じゃないのかな』

 動き出した電車に合わせ、かばんで揺れるタクが答える。

「何でお前がそんなこと知ってるんだよ」

『マスターが知らなさ過ぎるだけだよ。色々見ていれば分かることでしょ』 

「別に、俺はあんまりそういうのに興味がないからな」

『もう少しいろんなことに興味を持てばいいのに』

 しるか、と悠は何も無い景色が映る扉の窓を眺めた。

『はっはっは、タク、悠にいろいろ興味持てって言っても無駄な話だぜ。何しろ、悠は女の尻は氷点と母親のくらいしか見てない奴……ぐふっ』

 氷点のハンドバックで話していたサクに、氷点の平手が飛んできた。

「サク、残念ながら俺はこんな奴の尻と腹には興味ないぜ」

 悠が氷点を見ながらくすくすと笑う。氷点は何か言いたげそうな顔をしていたが、黙ってイヤホンから聴こえる音楽に耳を傾けていた。

『なるほど、じゃあ母親の尻を追いかけてるってわけだな』

「どこの世界に母親の尻を追いかける子供がいる」

『いやここにだな』

「あほか!」

 サクと悠の言い争いと同じく、電車も徐々に加速していく。

『悠たんも、彼女とか作ればいいのに。ほら、電車の中にも若い子いっぱいいるよ?』

 ヒナが提案するが、電車を見渡すとほとんど小さい子供連れの家族か、老夫婦だった。

「誰に声かけるんだよ。不審者じゃねえか」

『あ、でも、あそこに美人なお姉さんが』

「何で電車でナンパしないといけねえんだよ。それだったら学校の女に声かけたほうがまだマシだ」

 一応高校生くらいの女の子二人組がいたが、悠は興味がなさそうだ。

『じゃあ、学校の女の子に声をかけようよ』

「大体女なんてめんどくせぇからな。一人でいるほうが楽だし」

 そういうと、悠は氷点の方をちらちら見る。相変わらず、氷点は音楽を聴いたまま無表情で立っている。

『えっと、じゃあ次の学校のときに決行しよう、よし、決定!』

「勝手に決めるな!」

 悠は思わず自分のショルダーバックに向かって怒鳴りつけた。

『ゆ、悠たん、そこまで怒ることないのになぁ』

 電車は次の駅にまもなく到着するのか、速度を落としていく。その反動で、かばんについていたキーホルダーが揺れた。

『まあ、つまりはマスターも引きこもってないでいろいろ興味を持とうよってことで』 

「一応、いろいろ興味は持っているぞ。アニメとか、ゲームとかな」

『ジャンルが偏りすぎているんだよ。もっと幅広いジャンルをだね』

「だぁ、もう、うるさいなぁ」

 悠はいらいらしながら、頭をかきむしる。

「氷点、こいつらにどうにか言ってやってくれ」

 悠が氷点に向かって言うと、氷点はイヤホンをはずしてハンドバッグにしまった。

「まあ、どうにか言うのはともかく」

 氷点が言いかけたとき、扉の窓から次の駅のプラットホームが見えた。


「あなた、電車の中で大声で独り言叫んでて、恥ずかしくないのかしら」

「へ?」

 悠が辺りを見ると、何人かの乗客がこちらを見ていた。小さな女の子がこちらを指差して、それを親がやめなさいと、目隠ししている姿も見られた。


「まったく、フランクビッツは場所もわきまえないのかしらね」

 電車は速度を落とし、やがて停止する。

「それなら早く言ってくれよ」

「私はあんたとは違うのよ」

 ゆっくりと電車の扉が開き、氷点はそれを確認してプラットホームに一歩踏み出した。

「まあ、後は一人で勝手にすればいいわ。じゃあね」

「おう」

 そういうと、氷点は電車から降りた。


「……って、俺を置いていくな!」

「あら、ばれたかしら」

 ドアが閉まる寸前で、悠は慌てて電車から飛び降りる。氷点はその様子を見て、「まったくフランクビッツはこれだから」とつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ