日曜日の電車2
悠たちが乗った駅の次の駅に到着し、電車が停車した。目の前の扉が開くと、何人かの乗客が悠の隣をすり抜けて出て行く。そして、入れ替わるように同じくらいの乗客が乗り込んでいた。
この駅で降りた乗客分の席がぽつぽつと空いていたが、悠たちはどうせ次の駅だからと、扉の前で立ったままいることにした。
「それにしても、日曜日なのに案外客が少ないな」
扉が閉まると同時に、悠は辺りを見渡す。
『どちらかというと、ここら辺はベッドタウンに近いからね。出かけるとしても反対側じゃないのかな』
動き出した電車に合わせ、かばんで揺れるタクが答える。
「何でお前がそんなこと知ってるんだよ」
『マスターが知らなさ過ぎるだけだよ。色々見ていれば分かることでしょ』
「別に、俺はあんまりそういうのに興味がないからな」
『もう少しいろんなことに興味を持てばいいのに』
しるか、と悠は何も無い景色が映る扉の窓を眺めた。
『はっはっは、タク、悠にいろいろ興味持てって言っても無駄な話だぜ。何しろ、悠は女の尻は氷点と母親のくらいしか見てない奴……ぐふっ』
氷点のハンドバックで話していたサクに、氷点の平手が飛んできた。
「サク、残念ながら俺はこんな奴の尻と腹には興味ないぜ」
悠が氷点を見ながらくすくすと笑う。氷点は何か言いたげそうな顔をしていたが、黙ってイヤホンから聴こえる音楽に耳を傾けていた。
『なるほど、じゃあ母親の尻を追いかけてるってわけだな』
「どこの世界に母親の尻を追いかける子供がいる」
『いやここにだな』
「あほか!」
サクと悠の言い争いと同じく、電車も徐々に加速していく。
『悠たんも、彼女とか作ればいいのに。ほら、電車の中にも若い子いっぱいいるよ?』
ヒナが提案するが、電車を見渡すとほとんど小さい子供連れの家族か、老夫婦だった。
「誰に声かけるんだよ。不審者じゃねえか」
『あ、でも、あそこに美人なお姉さんが』
「何で電車でナンパしないといけねえんだよ。それだったら学校の女に声かけたほうがまだマシだ」
一応高校生くらいの女の子二人組がいたが、悠は興味がなさそうだ。
『じゃあ、学校の女の子に声をかけようよ』
「大体女なんてめんどくせぇからな。一人でいるほうが楽だし」
そういうと、悠は氷点の方をちらちら見る。相変わらず、氷点は音楽を聴いたまま無表情で立っている。
『えっと、じゃあ次の学校のときに決行しよう、よし、決定!』
「勝手に決めるな!」
悠は思わず自分のショルダーバックに向かって怒鳴りつけた。
『ゆ、悠たん、そこまで怒ることないのになぁ』
電車は次の駅にまもなく到着するのか、速度を落としていく。その反動で、かばんについていたキーホルダーが揺れた。
『まあ、つまりはマスターも引きこもってないでいろいろ興味を持とうよってことで』
「一応、いろいろ興味は持っているぞ。アニメとか、ゲームとかな」
『ジャンルが偏りすぎているんだよ。もっと幅広いジャンルをだね』
「だぁ、もう、うるさいなぁ」
悠はいらいらしながら、頭をかきむしる。
「氷点、こいつらにどうにか言ってやってくれ」
悠が氷点に向かって言うと、氷点はイヤホンをはずしてハンドバッグにしまった。
「まあ、どうにか言うのはともかく」
氷点が言いかけたとき、扉の窓から次の駅のプラットホームが見えた。
「あなた、電車の中で大声で独り言叫んでて、恥ずかしくないのかしら」
「へ?」
悠が辺りを見ると、何人かの乗客がこちらを見ていた。小さな女の子がこちらを指差して、それを親がやめなさいと、目隠ししている姿も見られた。
「まったく、フランクビッツは場所もわきまえないのかしらね」
電車は速度を落とし、やがて停止する。
「それなら早く言ってくれよ」
「私はあんたとは違うのよ」
ゆっくりと電車の扉が開き、氷点はそれを確認してプラットホームに一歩踏み出した。
「まあ、後は一人で勝手にすればいいわ。じゃあね」
「おう」
そういうと、氷点は電車から降りた。
「……って、俺を置いていくな!」
「あら、ばれたかしら」
ドアが閉まる寸前で、悠は慌てて電車から飛び降りる。氷点はその様子を見て、「まったくフランクビッツはこれだから」とつぶやいた。




