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キーホルダー戦記タクヒナ!  作者: フィーカス
キーホルダー・ハンター
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奇妙な噂

 エアコンで冷たい空気で充たされた室内は、太陽が照り付ける外からは考えられないくらい快適だ。悠はその室内で、のんびりとパソコンをいじっている。

 静かな部屋の中は、キーボードを叩く音と、マウスのクリック音だけが響く。首振りの扇風機が悠のカバンのキーホルダーに当たると、静かな音を立てて揺れた。

 その静寂を切り裂くように、突然悠の携帯電話が鳴り響いた

「誰だ? 今いいところなのに」

 悠は携帯を手に取り、通話ボタンを押す。

「もしもし、誰?」

『連絡先教えている相手に誰とは失礼ね』

 悠は思わず椅子から倒れそうになった。

「な、氷点!? どうして俺の番号を知っているのだ」

『どうしてって、前のオークションのときに連絡先交換したじゃない』

「あ、ああ、あのときか。俺登録なんてしてないぞ」

 悠はすぐにメールの送受信履歴を確認した。確かに、以前のオークションで個人情報のやり取りをしている。

「ったく、あの時にこんなやつと分かっていれば」

『まあまあ、スレンダーなお姉さんと知り合えたのは幸運だと思いなさいよ』

「見たくもねえ腹を見せられてスレンダー言われてもねぇ」

『腹ばかり見るな! 胸を見ろ!』

受話器の向こうから聞こえてくる怒鳴り声に、悠は思わず電話を耳から離した。

『悠たん、誰と話してるのかな』

『多分、氷点じゃないかな。話の内容的に』

『氷点たん? 結構仲がいいんだね』

『……あの会話聞いてそう思うの?』

『え、違うの?』

 机からは、先ほどから悠の怒鳴り声と、受話器から漏れる氷点の声が聞こえてくる。

 言い合いが続いていたが、しばらくすると悠の声が落ち着いてきた。

「……で、今日は何の用だ?」

 悠はそう言うと、机に置いてあった缶コーラを口にした。

『最近、キーホルダーハンターっていう変なやつらが現れているらしいの』

「キーホルダーハンター?」

 聞いたことがない言葉に、悠は口にしていたコーラの缶を口から放した。

『ええ。その名の通り、人からキーホルダーを無理やり奪っている奴らしいのよ。昨日も二人ほど被害に遭っているそうよ』

「まったく、お前みたいに物騒なやつだな」

『はぁ? あれは正当な取引でしょうが』

「訂正。お前のほうが物騒だわ」

『失礼なやつね、まったく』

 耳元から聞こえるため息が、悠をイライラさせる。

『とにかく、悠もレアなキーホルダー持ってるんだから、注意することね』

「わかってるってば。で、一体どんなやつなんだ?」

『あら、あれだけ酷いこと言っておきながら、私にそこまで答えさせる気? 少しは自分の足で情報収集とかしたらどうかしら』

「はぁ? 何で俺がそんなことしないといけないんだよ。いいから教えろよ」

『いえ、別に私は悠が困っても関係ないの。同じ境遇同士だから教えてあげようと思ったけれど、そんな態度を取られたらねぇ……どうしようかしら』

「うっ……」

 氷点のけん制に、悠は言葉が詰まった。

「わかりました、教えてください氷点様」

『うーん、なんか言い方があれだけど、まあいいわ』

 氷点の言い方にいらだっているのか、悠は頭を掻きむしって聞いている。

『目撃者の情報によると、夏でもフード付きのコートを着た暑苦しい格好をして、かばんにキーホルダーをたくさんつけてる男らしいの。名前は「スキヤ」っていうらしいわ。まあ、怪しい男だから、すぐにわかると思うけれど』

「完全に不審者だな。まあ、お前は夏にフードコートでカキ氷を食べ過ぎて下痢ピーになる程度の不審者だけどな」

『うるさい! このフランクビッツがっ!』

「な、フランク……」

 氷点の怒声に、思わず悠は携帯から耳を離す。ちなみにフランクビッツというのは、某企業から販売されている一口サイズの小さいウインナーのことである。

『まあ、せいぜい気を付けることね。そのキーホルダーハンターにあなたのキーホルダー盗られたら、私がとれなくなってしまうから』

「盗むのかよ! あとお前にはやらねえよ!」

『いいじゃない。とにかく、今日はあなたも集中講義、あるんでしょ? また大学で詳しく話すわ』

「ちっ、まったく、かったりいなぁ。わかった、大学でな」

そう言うと、悠はすぐに電話を切った。そしてパソコンの電源を落とすと、簡単に着替えを済ませ、かばんを持って部屋から出る。

『あれ、マスター、もう大学いくの?』

「ああ、今日は講義があるからな」

 タクの質問に悠が返すと、階段をリビングへと小気味よい足音を立てながら向かっていく。

「あれ、悠ちゃん、どこか出かけるの?」

 キッチンから悠の母親の声が聞こえてきた。キッチンからはいいにおいが漂ってくる。

「学校。昼から講義だから。あとちゃん付けはやめてくれ」

「お昼はどうするの?」

「学食で食べる」

 悠はリビングから玄関に向かい、紐靴を履くとすぐさま玄関から出て行った。

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