オレオと昼食
強い日差しの中、悠がこぐ自転車はゆっくりと住宅街を走り抜ける。
夏休み中のせいか、公園では子供たちがわいわいと遊んでおり、道端では主婦たちが井戸端会議を楽しんでいる。
住宅街を抜けると、大型のスーパーや専門店が立ち並んだ、少し栄えた場所に出る。そこから幹線道路を挟んで反対側へしばらく道なりに進むとあるのが、悠たちが通う学校、聖ストロベル学園だ。
『へぇ、悠たんって、学生だったんだね』
『そうだよ。本人は、高校卒業してやることがないから、進学したらしいけどね』
『でも聖ストロベルって変な名前。何でこんなに甘酸っぱい名前なんだろう』
『こんな名前だけど、ここは結構就職率高いことで有名だからね』
『そうなんだ。それにしても変な名前……』
名前に突っ込み続けるヒナをよそ目に、自転車は聖ストロベル学園へ到着した。校門から守衛を抜け、自転車置き場に向かう。集中講義を受けるためなのかサークルのためなのか、夏休みにもかかわらず何人かの学生とすれ違った。
「お、悠、今日はずいぶん早いな」
自転車置き場に自分の自転車を置くと、紺のジーパンにさっぱりとした髪型の好青年が声をかけていた。
「おお、オレオじゃないか」
彼は悠と同じ学科の友人、折尾啓作である。悠は「オレオ」と呼んでいる。
「まあ、先に学食で飯でも食べようかと思ってな」
「ん、じゃあ一緒に行くか」
そう言われ、悠は友人と一緒に学食に向かった。
『タクたん、わたしたちもご飯食べようよ』
『……ヒナ、キミは満腹でもご飯を食べたがるタイプ?』
ヒナがうぅ、とうめき声を上げるものの、悠は知らんふりをした。
さすがに学食は、外とは違ってかなり涼しかった。しかし、最近は節電傾向のためか、それでもエアコンは高めに設定されているらしい。
直射日光に照らされ続けてほてり、夏の暑さに濡れた肌を、冷たい空気がこれでもかというほど冷やしていく。
「はぁ、やっぱり夏休みの学食はバラエティが少ないよな」
オレオがトレーを取りながら、メニューが並べられた棚を見てため息をつく。
夏休みでも、暦の上で休みの場合を除いて学食は開いている。しかし、学生の利用が極端に少なくなるため、メニューはかなり絞られているのだ。
「とりあえず、から揚げでも食べるかな。悠は?」
「当然、夏はカレーだろ。おばちゃん、カレーの大盛り頼む」
オレオがから揚げの皿を取るそばで悠が学食のおばちゃんにカレーを頼むと、学食のおばちゃんがはいよ、とさらにご飯を盛り始めた。その間に、悠は保温器に入っているコロッケを二つ、小皿にとってトレーに乗せた。
普段なら昼休みの時間だが、さすがに夏休みの学食のテーブルは人がまばらだった。昼食を取っている人は少なく、中には勉強や宿題をする人、トランプで暇つぶしをしている人もいる。二人は会計を済ませると、適当なテーブルに向かった。
「それにしても、悠は相変わらずカレーが好きだよな」
から揚げとご飯、サラダを乗せたトレーをテーブルに載せ、悠のカレーを見ながらオレオは言った。
「そりゃ、学食のカレーはうまいからな。それに今は夏だし」
「いや、夏はよくわからないけどね」
「まあ、夏にしてはあまり辛くないのが欠点だけどな」
悠はそういいながらトレーをおくと、調味料置き場から七味唐辛子を取って来て、カレーにたっぷりかけた。茶色いルーの色が、真っ赤に染まっていく。
「……お前、絶対いつか胃を壊すぞ」
「何言ってるんだ。これくらい普通だろ」
七味唐辛子で覆い尽くされたルーとご飯の上にコロッケを乗せ、悠はおいしそうに食べる。大丈夫なのだろうか、と思いながらも、オレオもから揚げに手をつける。
「しかし、もう少しバランス考えたらどうだ? バラエティが少ないと体調崩すぞ?」
オレオがサラダを口にしながら悠に言う。その言葉に、悠も一瞬スプーンを止める。
「ん、そうだなぁ、確かにバラエティが少ないよなぁ」
そうしてスプーンでコロッケをすくうと、
「トッピング、もう少し種類増えないかなぁ」
そのまま口に運んだ。
「……そっちかよ」
オレオ諦めたようにため息をつき、から揚げを食べ始めた。
『タクたん、なんか腹立つから悠たんを笑わせていい?』
その様子を見ていたヒナは、すぐさま悠を笑わせようとした。しかし、タクに『いや、今はやめておいた方がいい』と止められた。
『多分ひどいことになるよ。いろいろと』
ふとカレーを食べている悠を見ると、鋭い視線をこちらに送っていた。




