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あの娘は発電機(She Is Electric Generator)  作者: 枕木悠
終章 セレネード
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終章①

 スクリュウの天辺が火を噴き、数秒後に遅れて爆発し、夜空が時間を巻き戻したように黄昏の紫色に染まった瞬間の錦景山は、沢山のビデオカメラに目撃された。

 プロペラは十一時の手前で加速し、そして十二時の手前で減速し空回りして、八月十五日の月曜日を迎えた瞬間に完全に停止した。

 スクリュウが完全に終戦のモニュメントとなったところで、パイザ・インダストリィ社長の大森テルヨシは大きく息を吐き、左手首の腕時計を見た。その文字盤はまるで、日の更新に苛立つように動くのを止めていた。ガラスは縦に稲妻のようにひび割れていた。

 そしてその文字盤は。

 この世界の、まるでシリーズの続きがあることに歓ぶように、再び動き始めた。

 目が覚めた、という感じがある。

 同時に、夢に入り込んだ、という感じもある。しかし思考がぼんやりとしているか、と言えばそうではなくて、興奮と緊張で脳ミソは冴えていて、自分を取り囲む景色のことはとてもゆっくりと把握することが可能だったし、散弾銃みたいなストロボの中でも、アイスクリームを食べているみたいに冷静な判断を下すことが出来た。

「これは予想外の事態だ」

 大森は取り囲むカメラの前で適度に険しい表情を作って言った。「まさか、飾りが壊れてしまうなんて」

「飾り、ですか?」Gテレビの女性キャスタがここにいる代表、という感じで大森にマイクを向けてきた。「あのプロペラは、飾りだったんですか?」

「ええ、飾りですよ、あんなもの、」大森はどうしてそんなことも知らないのか、という顔をキャスタに向けた。「何だと思っていたんですか? まさか地面に対して平行のプロペラが風力発電をしているとでも?」

「いえ、」女性キャスタは大森の顔からマイクを僅かに話して、誰か私の代わりに答えろ、という風に周囲を見回してから微笑んだ。自分の無知を誤魔化すように、下品に笑った。「ただ発電には何かしら、関係があるものだと」

「全く誰がそんなことを、余計な推測をしてもらっては困ります、確かにスクリュウの全貌を完全に公開していない我が社の方に、その誤解の種を産む要因がないとは言えないでしょうが、あのプロペラがただの飾りであることは容易に想像が付くでしょう、それに僕は最初の、プロジェクトの発足段階から、プロペラは地球を推進させるというデザインと言ったはずです、そうでしょう!?」

 そこに返事をするものはいなかった。

 静寂。

 濃い緑に囲まれた錦景山において人がしゃべることを止めれば、簡単に静けさが来る。大森はその静けさが、嫌いだ。

 咳払いを一つ、大きく。

 よく響いて煩わしさになった。

「とにかく、」大森は目を僅かに細め周囲を見回してから言った。「スクリュウに問題はありません、この事故は飾りであるプロペラが壊れたに過ぎません、プロペラの回転が止まったに過ぎません、大丈夫、スクリュウは回転し続けています、しかし安全確認のため、一度停止させます、記者会見は、ええ、明日の正午に、プロジェクト・リーダの里見アキラ博士とともに、楢崎の本社で」

 大森は報道陣から離れ、駐車場からスクリュウの袂の研究所の入り口に向かった。

 大森はゆっくりと大股で歩きながら、スクリュウを見上げ考えた。

 どうしてこんなに大きいのか?

 分からない。

 でも。

 大きいことには意味があると思う。

 人間とは小さなものだと教えてくれるので。

 さて、そんな意味のないことを考えていたら、研究所の方から魔女たちが姿を見せた。

 発電機の彼女は、魔女の亡骸を抱えていた。

 大森は立ち止まり、目を瞑り、亡骸に向かって手の平を合わせた。

 彼女の死が人間とは無力だと教えてくれた。

 彼女の死によって初めて気付くのだ。

 過去の罪を自覚するのだ。

 捨てられない、昔話を。

 そこから掬い出された星々、それが紡ぐ瞬きとは、儚く、美しく、焼かれている叫びなのだ!

 許されることに恐怖するほどの悪がそこにある。

 目を取り除いても、耳をかみ千切っても、皮膚を焼かれても、舌を失っても迫ってくる憎悪!

 むかしむかし、と。

 天使たちが語るとき。

 天使たちはそこで何を思うのか。

 思うことを引き受けた魔女たちの真実とは?

 分からない。

 分かりたくもない。

 天使の気持ちなんて。

 想像出来ないことだ。

 だから。

 それは。

 そのこととは、ある意味では、救済でもあるのだろう。

 目を開けると、魔女たちは大森の横を通り過ぎて後ろを歩いていた。

 通り過ぎた夏のように、全てがあっと言う間の出来事だったな、と大森は思った。

 まるで夢を見ていたようだと。

 そんな風に思っていた大森の背中を突然、誰かが蹴った。

 大森は前に倒れ込み、地面に両手をつき、振り返った。

 コンバースのハイカットの底が見えた。

「くそったれ!」

 発電機の彼女の罵声は、世界中に響いたような気がした。


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