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あの娘は発電機(She Is Electric Generator)  作者: 枕木悠
終章 セレネード
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終章②

 それは突然だった。

 森村ハルカとアリスの間に沢山の小さなイエロ・サブマリンが散らばったのだ。すぐにはイエロ・サブマリンだと気付かなかった。沢山の手榴弾が転がっているのだと最初は思った。でも黄色と青と赤と白のカラーリングの手榴弾なんて、ちょっと見かけない、と思って目を凝らしてよく見ればそれはイエロ・サブマリンだったのだ。

 あまりにもそれは突然で、いくら夢の中の出来事とは言え不可解過ぎてハルカは混乱してしまった。「・・・・・・イエロ・サブマリン?」

「なんで、どうして?」混乱しているのはアリスも一緒だった。「イエロ・サブマリン?」

「これ、ゼンマイで走るみたいよ、」斗浪アイナはひょいと小さなイエロ・サブマリンを取り上げてネジを回して走らせた。チョロQみたいに小さな車輪が付いていた。同時にお尻にある小さなプロペラも回転していた。とにかく、それはとても楽しい玩具だった。「まあ、可愛いっ!」

 アイナは愉快そうに次々に小さなイエロ・サブマリンのねじを巻き、教室に床に走らせた。それがとても楽しそうだったので、幼稚園児に戻ったみたいに、ハルカもイエロ・サブマリンのねじを巻いて走らせた。「まあ、可愛いっ!」

 それを見ていた桜吹雪屋藍染ニシキと御崎ミヤビも小さな黄色い潜水艦を手にしねじを巻いて走らせた。「まあ、可愛いっ!」

 沢山の小さな黄色い潜水艦が教室の床を走る風景は、とっても可愛かった。

 アリスは膝を畳んでしゃがみ、走り回るイエロ・サブマリンたちのことを静かに見回してから真顔で言った。「なんなんですか、コレって?」

「なんなんですかって、」ハルカは止まったイエロ・サブマリンのねじを再び巻きながら言う。「これはあなたの夢でしょ?」

「あなたたちの夢でもあります、きっと何かが作用して」

「何かって?」ハルカは首を傾け、アリスの可愛い真顔をじっと見る。「何なの?」

「分からない、」アリスは生意気そうな目をして、首を小さく横に振った。「理解不能意味不明」

 その時だ。

「アリス!」

 教室の扉をノックする音と一緒に耳に飛び込んで来たのは丈旗マヨコの声。「アリス、聞こえる!?」

 アリスはウサギみたいだった。

 ピョンと跳ねて、教室の窓のカーテンに自分の姿を隠した。

 そして顔だけ出して、声がする扉をじっと眺めた。

「私だよ!」扉から声がする。

「マヨコだよ!」

「・・・・・・マヨちゃん」

 アリスはか細い声を出した。ハルカの耳にかろうじて聞こえたくらいだから、それは扉までは届いていないだろう。

 アリスの白く透き通る肌は、すごくピンク色。

 季節はずれの桜色。

 桜ピンクは恋の色。

「何してるの、アリス、」ハルカは息を吸い込み大きな声を出した。少し意地悪かな、とも思うけど。「マヨちゃんがアリスのことを呼んでいるよ、開けてあげないの?」

「そこを開けてしまえば、スクリュウは止まってしまうから、だから、私は、」

「違うでしょ、」ハルカは絶品の笑顔を作って言った。「アリスはマヨちゃんと会うのが恥ずかしいんだ」

「そ、そんなことないもんっ、」アリスは頬を膨らませて声を上げる。「恥ずかしくなんてない」

「待っていたんでしょ、アリスはマヨちゃんが夢の国から救い出してくれることを待っていたんでしょ、それって間違いなのかな?」

「でも私は、私はスクリュウを回転させて、私は!」

「アリスは!」

 ハルカは紫色に煌めき、エレクトリック・マグネットを編んでアリスのことを引き寄せ抱き締めた。

 ハルカは腕の中で暴れるアリスの耳元で言う。「マヨちゃんのいるこの世界を終わらせたいの?」

「それは私の気持ちが決めることじゃない、私の気持ちよりももっと大切なことがあるから、」アリスは泣いている。「世界は終わらせなくちゃいけないんだわ!」

「ええ、そうね、そうかもしれないわね、大切なことのために世界は終わらせなくちゃいけないのかもしれないね、大切なことってあるのかもしれないね」

 大切なこと。

 それは分かるよ。

 私には分かった。

 サブリナの慟哭の理由が分かってしまったから私は。

 一度、離れてしまった。

 自分の気持ちから。

 自分で勝手に離れてしまったんだ。

 速度を上げて。

 無茶をして、私の心と無理矢理すれ違った。

 私の心が見えないように。

 私の頭は大切なことを理解して。

 心を大切なことに染めようとした。

 でもね。

 染まらなかった。

 私の黄昏の紫色は、ずっと黄昏の紫色だった。

 心はずっと紫色だった。

 濃く滲み霞んだ景色に見え辛くなっていたけれど、心はずっと同じ色だった。

 同じ色だったんだよ。

「アリスの心は?」

「え?」

「アリスの心はなんて言ってる?」

「私の心?」

「あなたはスクリュウの発電機、スクリュウの心だわ、スクリュウの未来はアリスが決めていい、アリスの心が決めていいんだよ」

「・・・・・・私は、私は、」

「アリス!」

 マヨコの声が響いて。

「アリス!」

 マヨコの声が響いているから。

「マヨちゃん!」

 アリスは叫び紫色に煌めいた。

 教室が紫色に染まり。

 視界が全て紫色になって。

 耳の中で爆発音が響いた。

 ハルカはアリスの夢から目を覚ました。

 仰向けになって眠っていたハルカの周りには沢山の小さなイエロ・サブマリン。

 だからまだ夢の中かと錯覚した。

 しかしでも。

 重たい頭を手の平で押さえながら上半身を持ち上げれば。

 目の前でアリスとマヨコが口付けを交わしていた。

 ハルカは腕時計で時間を確認した。

 八月十五日の深夜零時丁度。

 長い時、秒針が刻まれなかった気がした。

 時計の針は思い出したように進み出した。

 チクタクと。

 スニーカの底で蹴って歩くように力強く動き出した。

 ハルカに僅かに遅れて、ミヤビとアイナとニシキは目を覚ます。

 三人とも、髪の色がいいとハルカは思った。ふと、自分の髪を触るといつもよりも艶があった。夢の中に入り、エネルギアを使ったはずなのに変なの、と思っていると四人の後ろで声がした。

「さあ、ぼけっとしてないで、さっさと帰るわよ」

 四人は振り返る。

 いつもよりも痩せて綺麗でグラマラスなマシロがいた。どうやらマシロが四人にキスしてエネルギアを注入してくれたらしい。マシロのエレクトリック・バッテリィによって四人の髪は綺麗だった。

「誰!?」

 ハルカ以外の三人が声を上げた。三人はエレクトリック・バッテリィの後のマシロの姿を知らなかったようだ。

「マシロ先生だよ、」ハルカはポツリと言った。「マシロ先生は魔法を編むとこんな風になるんだよ」

「えええええええええええ!」

 三人の絶叫はスクリュウの天辺に響いた。


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