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あの娘は発電機(She Is Electric Generator)  作者: 枕木悠
第五章 ジェネレート
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第五章④

「旅立った?」

 ハルカは驚いて声を上げた。「マヨちゃんが旅立ったって、一体全体どこに行ったの?」

「さあ、」丈旗ケンは首を横に振った。「知らないけど」

 ハルカは朝、何気なくマヨコに電話を掛けた。電話はなぜか繋がらなかったから少し心配になって丈旗家までやってきたのだ。そしたらマヨは旅立ったよ、と丈旗は簡単に言った。

「ケンはマヨちゃんのお兄ちゃんでしょ、行き先を知らないって何なの?」

「知らないものは知らないよ、」ケンはスケッチブックに鉛筆を走らせながら言う。「あ、でも、何かを探しに行くんだとか、なんとか言っていた気がするな」

「なぁに、まさか自分探しの旅?」ハルカは額に手を当てる。「さすが中学二年生って? ああ、確かにマヨちゃん、そういうタイプな感じもするしなぁ」

「あ、そういえば、電話しないでくれって」

「え?」

「マヨが伝えてくれてって言ってた、もしハルカが来たら電話しないで、探さないでって伝えてくれって言われてた、それを今、思い出しました」

「うーん、」ハルカはソファに腰を降ろして腕を組み唸った。「やっぱり優勝出来なかったからかなぁ」

「それは違うと思う」

「どうして?」

「なんとなく」丈旗はスケッチブックから視線を逸らさずに言った。「あ、勝った」

 二人は丈旗家のリビングにいた。液晶テレビは甲子園を映していた。我らがG県代表の錦景商業が今まさに一回戦を突破してところだった。画面には錦景商業の応援団が映っていて、その中心にはエクセル・ガールズの森永スズメと橘マナミの二人がいて勝利に喜び抱き合っていた。

「あいつ、なんであんなことしてるの?」丈旗が言った。「森永書記は、あういうことするタイプの女子じゃないと思ってたんだけど」

「意外とスズメみたいな女の子がやってるんだって、あういうこと」

「そういうもんかなぁ」

「ねぇ、さっきから何描いてるの?」ハルカは丈旗のスケッチブックの背中を見ながら聞いた。

「ミヤビのことを描いてる」言って丈旗はスケッチブックを回転させてハルカに絵を見せてくれた。

 ミヤビの裸体が描かれていて、ハルカはちょっと苦笑い。驚かなかったのは、その可能性を考えていたからだ。少しだけ。「なんていうか、凄く上手、でもミヤビのおっぱいはそんなに大きくないよ、お尻ももうちょっときゅっとしてる、でもくびれはそこまでないね」

「そうか、」丈旗は消しゴムを手にして絵に手を加えている。「参考になる、……ミヤビの体って柔らかいの?」

「え?」ハルカはその質問に吹き出してしまった。「柔らかいかって?」

「なんでもない、」さすがの丈旗も顔をピンク色にしていた。「ごめん」

「すげぇ、」ハルカは下唇を舐めて言う。「柔らかいよ」

「そうか、」丈旗はスケッチブックを閉じて大きく息を吐いた。「柔らかいんだ」

「ミヤビのこと諦めないんだね?」

「当たり前だ」

「私の彼女だよ、恋人だよ」

「そうだけど、それが何?」

「ミヤビは丈旗と友達になりたいって」

「俺はミヤビと恋人になりたい」

「まず友達からって言う文句がありますよね?」

「そう言う奴は本当に相手のことを好きなのか、って思うな、本当に好きだったら友達で満足なんて出来るはずがない」

「それには同感だね、」ハルカは大きく頷く。「そんなことを言う男は信じられない」

「ハルカは俺をミヤビの友達にさせたいんじゃないの?」

「別に、私は丈旗の気持ちを尊重するよ、ただミヤビは正真正銘のレズビアンだから、丈旗の気持ちに頷くことは絶対にないことだから、だから友達でも傍にいられた方が丈旗は幸せなんじゃないか、ってことを言いたいわけだ、夏休みなのに家にこもってミヤビの裸を描いているよりは健全じゃない?」

「友達になったところで幸せなわけない、余計辛い、」丈旗はテーブルの上のコーラを飲んだ。「……ああ、でも、俺はミヤビの近くに行きたい、話したい」

「でしょ?」ハルカは得意のハルちゃんスマイルを作った。「私もミヤビに色々上手く言っておいてあげるから、ミヤビだって丈旗と仲良くしたいって思ってるんだから」

「ありがとう、」丈旗は頭を抱えている。「でも、ハルカ、俺は一体全体どうした正解なんだろう? 俺も旅立った方がいいのだろうか?」

「せいぜい悩め、男の子、」ハルカは丈旗の頭を乱暴に撫でてソファを立った。「それじゃあ、マヨちゃんが帰ってきたら連絡してよ」

「うん、」丈旗は力なく頷き、そして視線を上げてハルカの全身を見た。「あ、そう言えば」

「何?」

「なんでそんな格好してるんだ?」

「似合うでしょ?」

 ハルカは手を腰に当て、真面目な顔をしてポーズを取った。「グラマラスでしょ?」

 ハルカは背中が広く開いた紫色のセクシィなドレスを身に纏っていた。スカートはヒールを履いていないと裾は地面についてしまうほど長い。化粧も大分濃い。口紅の色は真っ赤だ。シルバの無骨なネックレスを首から下げている。右手にはライジング・リボルバの三つの金の指輪。眼鏡の形も今日は鋭い。髪を縛って上げてポニーテールにしていた。このグラマラスはイリスのデザインだった。イリスがハルカに紫色のセクシィなドレスを着せたのだ。Tシャツとジーンズもいいけれどあなたにはドレスがいいわ、とイリスが言ったからハルカはこの夏はドレスを着ていよう思ったのだ。

「グラマラスというか、」丈旗は言う。「いよいよ、魔女っぽいというか」

「まあ、間違いじゃないね」ハルカはニッと笑って言う。

「パーティか何かあるの? その、レズビアンの人たちが集まって」

「パーティというか、まあ、今夜は魔女が会い集う夜になるから、まあ、騒がしくなる、という意味ではパーティと言えるかもしれないけどね」

「……それってハルちゃんジョーク?」

「私冗談なんて言ってない」ハルカは真顔で言った。


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