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あの娘は発電機(She Is Electric Generator)  作者: 枕木悠
第五章 ジェネレート
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第五章③

 錦景女子高校軽音楽部のロックンロールバンド、シナノにメジャーデビューのオファーが来たのは八月六日の土曜日だった。

 その日、十人の軽音楽部は朝から音楽室に集合していた。そしてレクイエムを奏でていた。

 尾瀬ミハルの時計が朝の八時十五分になって、彼女が目を瞑ると、他のメンバも目を瞑り、心の中で祈りを捧げた。

 朝の九時、音楽室の巨大な液晶テレビの電源を沢村ビートルズの村斑ココロが入れてチャンネルを国営放送にした。甲子園の開会式が中継されていた。ココロは大の野球好きだった。今日は皆で甲子園を見よう、という約束だった。二年のザ・フォレスタルズの三人と黒須ウタコは近くのロウソンで大量のお菓子とアイスと炭酸飲料を買い込んで来ていた。

 一回戦第一試合は我らがG県代表の錦景商業高校とE県代表の南伊予高校の対戦だった。朝の十時三十分に始まった試合は激戦の末、錦景商業が勝利した。九回の逆転劇はきっと応援団が呼び込んだものですね、と国営放送のアナウンサは言った。それくらい錦景商業の応援には気合いが入っていた。アルプススタンドには円形のステージが設置され、吹奏楽部の演奏に合わせてエクセル・ガールズの二人が踊りながら応援歌を歌い上げた。

「彼女たちはエクセル・ガールズと言って錦景市のローカルアイドルのようです、えー、先ほど披露した曲は、明後日発売の彼女たちのセカンドシングル、「エクセル・ブルー」のカップリング曲、「勝利の絶対値!」だそうです、全国流通はされないようですが、彼女たちが所属するメイド喫茶ドラゴンベイビーズ、タワーレコード錦景ターゲットビル店で購入出来るようです、通販はないようなので、ご興味をもたれた方はぜひG県は錦景市へ行ってみてはいかがでしょうか?」

 勝利の校歌終了後、アナウンサがエクセル・ガールズの情報を全国に伝えていたとき、ウタコのポケットのスマートフォンが震えた。

 画面を確認すると知らない番号だった。でも、非通知でもワン切りでもなかったのでウタコは電話に出た。「もしもし?」

 シトナル、というレコード会社からの電話だった。つまりそれがメジャーデビューのオファーの電話だった。電話をかけていた来たのはシナトルに所属するプロデューサの藤堂という人だった。君たちの音源は全て聞かせてもらった、素晴らしい、ぜひうちでデビューしないか、ということを熱っぽく語った。「すぐには決められないことだろう、だがなるべく早く返事が欲しい、メンバの皆と相談も必要だろう、とにかく君たちに会って話がしたい、明日、また電話する、いい返事を期待しているよ、それじゃあ」

 甲子園で第二試合が始まろうとしている中、ウタコは電話の内容を軽音楽部のメンバに伝えた。凄く興奮していたので、何回も言い直す必要があったけれど、伝えられた。第二試合では先頭バッタがホームランを打った。甲子園は沸きに沸いている。軽音楽部も沸きに沸いていた。

「ウタコはやりたいの?」

 冷静な眼差しでミハルは聞いた。

「はい、」ウタコは大きく頷いた。「せっかくのチャンスです、私、やってみたいですっ」

「そう、でも、」ピアノの前に座るミハルは首を傾けて髪を揺らした。「それは無理ね」

「え、え、なんで、どうしてです?」

「私とマミコとアマキは次の春には卒業しちゃうから」

「別に卒業したって音楽は出来ます」

「ごめんね、ウタコ」

「だから卒業してもロックンロールは、」

「私たち、留学することが決まっているの」

 ミハルは簡単に言った。

「え?」ウタコは頭が真っ白になった。

 留学?

 なにそれ?

 そんなの知らない。

 聞いてない。

「私はベルリン、二人はロンドン、だから卒業したらシナノは解散しなくっちゃいけない、というか、」ミハルはウタコから視線を逸らして言う。「最初からシナノは卒業するまでって決めていたことよね?」

「非情ですっ!」

 ウタコは叫び。

 そして泣いた。

 メジャーデビューなんてどうでもいい。

 ミハルが遠くに行ってしまうことがとてつもなく悲しくて。

 リモコンでテレビを消した。

 野球なんて、見ていられない。

 ココロが騒いだ。

 思いっきり睨んでやった。

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