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あの娘は発電機(She Is Electric Generator)  作者: 枕木悠
第三章 ディスコード
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第三章⑫

「ねぇ、なんでミアは、あんなこと言ったの?」

「あんなことって何?」ミアはあんなことなんて検討も付かない、という風に明るい声で言った。「あ、ミヤビ、私、これ見たい」

 ミアはギャングキネマのポスタを指差し言った。

「面白いの?」ミヤビは聞く。

「見なきゃ分からないわ、でも、そっちのラブストーリィよりは断然面白そうでしょう?」言ってミアはチケットカウンタの列に並んだ。

「確かにそうかも」ミヤビはラブストーリィのピンク色のポスタを一瞥してミアの後ろ歩く。

 日曜日なのでキネマシアタは混雑していて、カウンタには列が出来ていた。

 二人は錦景市駅前のリテーヌというビルの十一階にある錦景ピスケ7というキネマシアタに来ていた。ミアに無理矢理連れて来られた感じだった。ミヤビはあまりキネマシアタに来ない。流行のキネマを知らないし、そもそもキネマをあまり見ない。

 チケットを購入して二人はロビーのソファに座った。上映開始までまだタップリと時間があった。

「お手々を繋ぎましょう?」ミアはミヤビの手を触りながら言った。ミアの手の質感は滑らかだ。

「もう触ってるじゃん」

「ミヤビは私のことを触ってないわ」

「触ってる」ミヤビはミアの手の上に手を乗せた。

「もっと、力を入れて握り締めなさいって言ってるの、」ミアは頬を膨らませて言う。「分からない人」

「どうしてあんなことしたの?」

「だからあんなことって何?」

「ハルカの前で私にキスした、」ミヤビは周囲に聞こえないようにミアの耳元で言った。「それでミアはハルカになんて言ったの?」

「さあ、なんて言ったかな、」ミアはミヤビと触れてない手の平を天井に向けてとぼける。「ちょっと昔のこと過ぎて覚えてないわ」

「私はハッキリ覚えているよ、」ミヤビはミアに顔を近づけて睨み言った。「さっきのことだからね、ミアはハルカにこう言ったんだよ、嬉しい、ミヤビってばもう別れ話をしてくれているのね、後の二人との別れ話はもう済んだの、あ、私はミヤビの新しい恋人のミア・セイレンよ、元カノのハルカ、よろしくね」

「怖い顔しないで、」ミアは怖い顔をして言った。「私の前ではずっと可愛い顔をすること、約束して、いいわね?」

「なんであんなこと言ったんだよ、」ミヤビは今までに見たことないハルカの表情を思い出し絶望的な気分になる。「完全に誤解されちゃったじゃないか」

 ハルカは誤解してミヤビに涙を見せて席を立ち、逃げるようにマクドナルドから出て行った。ミヤビはハルカのことを追いかけようとしたけれどミアが許してくれなかった。ミアに手首を掴まれたミヤビはハルカのことを追いかけられなかった。ミアの腕は細いのに力は機械みたいに強かった。

「誤解って何?」ミアの声はヒステリックだった。「誤解って何よ、私は本当のことしか言ってないわ」

「私はハルカと別れるつもりはないから」

「何それ、酷い、最低」

「ハルカと別れるつもりもないし、先輩ともアイナとも別れるつもりはないよ」

「そのくせ、私の手を握っているわけ?」

「握っているのはミアの方だろ?」ミヤビはミアと繋がる手を上下に揺さぶった。しかし、二人の手は離れない。

「違う、握っているのはあなたの方、強欲なあなたは全てを手にしようとしているんだわ、私も、彼女たちも自分のものにしようとしているんだわ、本当にあなたって、なんて罪深い魔女なのかしら」

「ああ、そうだよ、ミア、」ミヤビは声を張り上げた。「私はハルカも先輩もアイナも、君も自分のものにしようと思ってる、嘘は言わないよ、これが私の気持ちだよ、分かってくれた?」

「分からないわ、」ミアはまっすぐにミヤビを見つめる。「私にはあなたの気持ちが全然分からない、狂っているんじゃないかって思ってる」

「そうだね、私はきっと狂ってる、こんなにミアに腹を立ててるのにさ、ミアと恋人でいたいと思っているんだから」

 ミアとキスしたいと思っているんだから。

 最低だ。

「はあ」勝手に溜め息が出た。

「……彼女たちと別れてよ、」ミアは目元を赤くして言って、ミヤビの髪に指を入れた。「お願いだから別れてよ、嫌なの、あなたが私以外の人を愛していることが、これって普通の感情だと思わない?」

「何度も言うよ、それは出来ない」

「絶対別れさせてやるんだから」

「ハルカのこと、どう思った?」

「どうって何?」

「可愛かったでしょ、」ミヤビはミアに向かって微笑んだ。「彼女にしたいくらいに可愛かったでしょ?」

「ええ、そうね、可愛かったわ、」ミアは頷く。「でも彼女にしたいとは思わなかった」

「どうして?」

「あなたじゃないから」

「もっと話をすれば、きっと好きになる、ハルカのことを分析して、魅力的な部分を知ればきっと」

「無理よ、それは、」ミアは一度下を向いて言った。「でも彼女変わってるわね、ちょっと不安定な感じ」

「不安定って?」ミヤビはミアのことを睨んだ。「ハルカが不安定って、どういうことだよ」

「生き急いでいる、って言ったらいいのかな?」ミアは中空を見ながら言う。「彼女、自分のポテンシャルを分かっていないのよ、髪の色に鮮やかさがなかった、それってつまり魔法の編み過ぎ、きっと器用なのね、それで難解な魔法も編めちゃう、でも彼女が難解な魔法を編み続けるのにはエネルギアの絶対量が不足している、簡単に言えば、無理しているはずよ、あんな調子だったら、魔女としての彼女の生涯は短くなってしまうわ、もって三年ってところね、いや、そんなにないかも」

「それって、何、アドバイス?」

「そうね、アドバイスよ、別にミヤビがハルカのことを大切に思うなら伝えればいい、ハルカも魔女としての生涯を長く楽しみたいなら私の言うことを聞くべきね、強要はしないわ、彼女の生涯だもの、知ったこっちゃないわ、」ミアは首を横に揺らして舌を出した。「それよりもミヤビ、私、ポップコーンが食べたいわ」

「いいよ、買ってくる、」ミヤビは立ち上がる。「サイズは?」

「あのバケツみたいなやつ」ミアは天使みたいに笑う。


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