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あの娘は発電機(She Is Electric Generator)  作者: 枕木悠
第三章 ディスコード
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第三章⑤

 七月九日、夕立明けの錦景市の夜。

 出会いは魔女が腰掛けるような三日月が煌めく夜だった。

 この夜、ミヤビは心霊スポットのトンネルの入り口の近くにあるロウソンの前に一人だった。

 ニシキは明日に模試を控えている。アイナはマシロの家でパワーストーンを売らなくてはいけない。ハルカは電話に出なかった。だから一人トワイライト・ローラーズだった。

 ミヤビは電話に出ないハルカにヒステリックになった。瞬間沸騰だった。ミヤビはハルカの留守電に、ありったけの愛の言葉と罵倒の言葉を記録させて通話を切った。自分でもよく次から次へ罵倒の言葉が続いたものだと思って笑った。

 そんなミヤビのことを、ゴミ箱の前で輪になって座って談笑していた錦景工業の野球部の坊主頭たちが黙って見ていた。

「なんだよ、お前ら、」ミヤビは顔から笑みを消し盛大に舌打ちして坊主頭たちを睨みつけてがなった。「こっち見てんじゃねぇぞ、やんのか、こらぁ!」

 坊主頭たちは戸惑いの表情を浮かべながら逃げて行く。

「ふん、根性なしめっ!」

 ミヤビは吐き捨てるように言ってから、冷静さを取り戻し、ふと思う。

「……ああ、最近、ホント、男過ぎない?」ミヤビは後頭部を掻きながら言った。「髪も短くしよっかな」

 ゴースト・バスタを始めてから、ライジング・ブレイドを手に入れてから、ミヤビの男性化は露骨に進んでいた。この頃はゴースト・バスタにも慣れ、幽霊に恐怖の感情を全くといっていいほど抱かなくなっていた。学校でも女子が男子に虐められたり、絡まれたりしていたら、ミヤビは女子のために拳を握って男子の顎に渾身のストレートを叩き込んだりしていた。中央高校の男女比は八対二で女子がマイノリティになる場合が多い。そういう場合もミヤビは積極的に意見し、いけすかない男子を罵倒した。口調もどんどん乱暴になっていっている。紳士ではなく、不良の口調になっていっている。喉が涸れることが多くなった。自分でもよくない傾向だと思う。

 でも。

 なんだろう。

 そうするべきだと思うんだよな。

 前のめりで。

 攻撃的に。

 強くなくっちゃって思うんだ。

 比較的仲がいいクラスメイトの安賀多タモツと斑鳩イオにも、空手部の主将に噛みついたときにはさすがに言われた。「御崎さん、いくらなんでも、やり過ぎっすよ」

 ミヤビはでも、二年の高橋さんに酷いことをした空手部の主将のことが許せなかったから、体育館裏に呼び出し拳に電気を纏わせて意識不明にした。病院で目を覚ました彼は記憶喪失になり、クリスチャンになった。ミヤビは一週間の謹慎を喰らったが後悔はしていなかった。

 さて、今夜はどうしようか。

 彼女たちがいないと、なんだか気持ちが盛り上がらないしな。

 ミヤビは一人でゴースト・バスタをしようかどうか、迷いながらギターケースを担ぎ直す。フェンダのギターケースにはストラトキャスタは入っていなくてライジング・ブレイドが入っている。ゴルフバッグよりも、釣り竿入れよりも、高校生にはギターケースの方が自然だから、ミヤビはフェンダのギターケースにライジング・ブレイドを入れて持ち歩いていた。

 ミヤビはロウソンに入った。お腹が空いたとか、喉が渇いたとかではなくて、雑誌を読もうと思ったのだ。

 ミヤビはチラリと店員を確認する。彼はお弁当コーナの品出しに夢中だった。

 ミヤビは少年誌のグラビアを一通り見て、紫色の魔女たちの方が可愛いってことを再確認してから、店員の彼がお弁当コーナの品出しに夢中なことを再確認してから、アダルト雑誌を手に取った。ミヤビがアダルト雑誌を見るのはこのときが始めてだった。ハルカに突っ込まれたら、ちょっとした出来心だったと弁明しよう。

 最近、紫色の魔女たちの裸を見ていない。ミヤビは栄養不足だった。だからその栄養を補おうとして、アダルト雑誌を手に取ったのだ。実際にページを捲り、様々な女性の裸体を見て、ミヤビはなんだか満たされる気がした。だからミヤビは夢中でページを捲り続けていた。

 そしてふと。

 視線を感じた瞬間があって。

 ミヤビははっとして振り返った。

 店員の彼だと思ったけれど、違った。

 傍に顔があった。

 近過ぎてびっくりした。

 綺麗な顔。

 可愛い顔。

 私よりも、私の彼女たちよりも、美しい人。

 人種から違う。

 黒い髪にはブロンドが混じっている。

 瞳は淡いグリーン。

 彼女はミヤビの肩に両手を置き、そのエメラルドのような瞳にアダルト雑誌のページを映している。

 そして彼女はミヤビが雑誌のページを捲らないから、手を伸ばしてページを捲った。

 ミヤビは雑誌を勢いよく閉じた。

「あ、あんた、誰っ?」

「あんっ、」彼女は悲鳴に近い声を上げた。「どうして閉じるの?」

 それがミヤビと彼女のファースト・コンタクト。


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