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あの娘は発電機(She Is Electric Generator)  作者: 枕木悠
第二章 マスカレード
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第二章⑧

 昨日、幽霊を退治してくれた人よ、とマシロは言った。「ミヤビは覚えてない? 赤いテラノに乗って現れて、幽霊を退治していった白装束にサングラスの女」

 覚えている。ミヤビは頷いた。

「彼女が里見アキラ女史」

 昨日の夜の、まるでパニックキネマのワンシーンのような出来事は強烈に脳ミソに焼き付いている。だから思い出そうすれば、簡単に思い出せる。

 そのシーンは勝手に再生を始めた。

 無理矢理魔法を編もうとしてぶっ倒れたミヤビの横にアキラの赤いテラノは停車した。

 白装束の彼女は運転席から躍り出てテラノの後ろに回りトランクを開けた。

 トランクの中には銀色の機械が見えた。エンジンのようにも見える。その機械が窮屈そうにトランクの中に収まっていた。彼女は機械に触れた。二秒遅れて、低い駆動音が機械から聞こえて来た。彼女は機械を作動させたようだ。

 彼女はギターのシールド、というコードを手に持っていた。彼女はシールドのプラグを機械に挿す。その機械はどう見てもアンプには見えない。ミヤビは中学時代に付き合っていた女の子の影響で音楽をやっていたから、その機械がどう見てもアンプに見えないということはハッキリ分かった。

 そして。

 機械とシールド経由で繋がったのはもちろんエレキギター、あるいはエレキベースっていうことはなくて。

 日本刀だった。

 アキラは日本刀を持っている。

 駆動音は徐々に大きくなる。

 地面が揺れているような錯覚がある。

 アキラが構える日本刀。

 その銀色だった刀身が紫色に変化して、それは色が分からないほどに眩しくなった。

 駆動音は耳の機能を失わせるほどになる。

 アキラは口を大きく開けて。

 吼えた。

 素人から見ても無茶苦茶な構えで、アキラは刀を横に払う。

 武士の幽霊たちはお腹から真っ二つになって、弾けた。

 続いてアキラは後方から迫る武士の幽霊たちも同じように真っ二つに斬った。

 そして幽霊たちは形を失い。

 そこに残ったのは、紅い人魂?

 そこでやっと。

 松並木が静かになった。

 そしてアキラはサングラスをはずして声を出した。「あんたたちも手伝って、早くエネルギアを回収しないとまた魂と絡んでしまうよ」

 サングラスをはずして見えた彼女の目は、勇ましい。

 そこでミヤビの意識は途絶えている。とにかく。

「覚えてるよ、里美アキラ女史、女史ってどういう意味?」

「アンタたちにも手伝って欲しいんだって、幽霊退治」

「なぜ?」ミヤビは首を傾げて聞く。

「アンタたちが魔女だからでしょ?」

「アンタたちって?」

「決まってるでしょ、えっと、なんだっけ、トワイライト、トワイライトなんとかによ」

「トワイライト・ローラーズ、」ミヤビはマシロを睨み、口を尖らせて言った。「もぉ、いい加減覚えてよね、でも、幽霊退治なんて、もし昨日みたいな状況になったら、どうしようもないぜ?」

「幽霊一匹退治したら十万円だって」

「マジで!?」ミヤビは十万円に思わず立ち上がった。「マジで!?」

「話だけでも聞いてくれば?」マシロは煙草に火を点けた。

 というわけで。

 錦景市は夜の六時。

「クォータ・パウンダセット、四つ」

 トワイライト・ローラーズの四人はいつものマクドナルドの、マクドナルドのくせに妙に雰囲気のある、いつもの席に集合した。夜の七時の天神さんに備えてのエレクトリカル・ミーティングってやつだ。お腹も減っているし、ちょうどいい。

「お誕生日おめでとう、ハルカ」

 とりあえず、昨夜、思わぬ事態でハルカの元に辿り着けなかった三人は彼女のことを祝福した。四人はコーラで乾杯。

「十六年生きてきて最高の誕生日だわ、」ハルカは笑顔でつまらないことを言ってロウソクを吹き消す代わりにコーラを一気飲みした。「本当は昨日だけど」

 クォータ・パウンダを食べながら、ミヤビはドラゴンベイビーズでのバースデイ・パーティに来なかったハルカのことをスズメがいかに怒っていたかを伝えた。

「ああ、ちゃんと謝らないとな、本気で睨まれる前に、」ミヤビの対面に座るハルカは余裕そうな表情で言う。「スズメ、意外とねっちこいからなぁ」

「ハルちゃんはサラサラし過ぎよね?」ハルカの隣に座るアイナが言う。

「そう? 普通だよ」

「それってハルちゃんのいいところだと思う、でもね、ハルちゃんが知らないところで、様々な女の子を不安にさせていることは自覚しておく必要があると思うんだ、思いませんか?」

「何の話?」ハルカはアイナの真剣な眼差しを受け流して、ニシキに視線を向ける。「ニシキは何を描いてるの?」

 ニシキは小さめのスケッチブックに鉛筆を走らせている。「十六歳の森村ハルカ」

「え、恥ずかしいなぁ、もぉ、」ハルカはそう言いながらニシキのスケッチブックを覗き込もうとする。「見せて」

「駄目ぇ、」ニシキはスケッチブックを胸に当てて絵を隠した。「途中で誰かに見られたらその絵は完成しないって思うから、後で色を付けるまで待って」

「えー、待てないよぉ」ハルカは自分の髪に手を入れながら言う。

「それで、里見アキラのことなんだけれど、」クォータ・パウンダを食べ終えたミヤビは、話題を里見アキラにシフトした。「アイナはハルカに話した?」

「うん、」アイナは頷き、ハルカを見る。「もれなくね」

「ハルカはどう思う?」

「私、」ハルカは頬杖付き魔性の目をして言う。「最近、なんだか、無性にヴィトンのバックが欲しくて」

 というわけで。

 錦景市は夜の七時。

 地上三十二階の錦景第二ビルの屋上にある錦景天神の社の前で、トワイライト・ローラーズの四人はアキラの登場を待っていた。

 しかし。

「来ない」ハルカが伸びをして言う。

「うん、来ないね」アイナが頷く。

「もしかして騙されたんじゃない?」ニシキが言ってミヤビの顔を見る。「いや、私たちを騙す意味は、よく分かんないけど」

「……もう少しだけ、待とうか?」

 そして十分くらい経った。

「来ない」ハルカが欠伸をして言う。

「うん、来ないね」アイナは頷き欠伸をした。

「やっぱり、騙された?」ニシキにも欠伸が移る。

「ああ、もう、」ミヤビはヒステリックになった。「くそったれっ」

 ミヤビは天神さんの賽銭箱の上にある鈴をガラガラと鳴らした。

「ちゃんとお賽銭入れなきゃ駄目よ」ニシキは言って、小銭をお賽銭箱に投げた。

 今度はニシキが鈴を揺らした。

 そしたら。

 急にお社の扉が開いた。

「え?」

 驚いた。

 社の扉から顔を覗かせたのは、アキラだった。

 彼女にも欠伸が移っている。アキラは目を擦り、四人の姿を確認して、一度咳払いをしてから、少し恥ずかしそうに言った。「私が天神さんだ」

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