プロローグ
幼い頃から何度も同じ夢を見る。
18才になっても、夢の中の私は5才のまま。両親に連れられて、とある貴族の家に行っている。その貴族の名前も爵位も夢には出てこないから、実在する人物かもわからない。
夢の中の私は、令嬢だというのにやんちゃな子だった。お茶をしているお母様の隣でじっとしていられず、中庭でその家のメイドたちと隠れんぼをして遊んでいた。
低木の木の陰に隠れていると、花壇に植えられている花が急に気になった。
とても綺麗だと思い、無意識にその花を摘もうとした時、急に背後から話しかけられた。
「その花、どうするの?」
「わっ!?」
メイドに見つかってしまったのかと思い、慌てて後ろを振り返った。すると、石畳の小道に立っていたのは、メイドではなかった。金色のサラサラの髪に燃えるような赤い瞳を持つ、とても綺麗な顔立ちの男の子だった。
「えっと……」
花をどうしたいかなんて考えていなかった。綺麗だから、手に取ろうとしただけ。夢の中の私は、なぜか正直に答えてはいけない気がした。言葉に詰まっていた私を見て、彼は苦笑する。
「ただ捨てるだけなら、そのままにしてあげてくれない? 花だって一所懸命咲いてるからさ」
「……わかった」
彼は私の反応を見て納得したのか、くるりと背を向ける。そこで、いつも私は彼に声をかける。
「花を摘んだりしないから、 そのかわり、遊んで!」
「えっ?」
足を止めて振り返った男の子は困った顔をしている。けれど、無邪気に話しかける私に根負けして、彼は渋々といった様子で頷いた。
「わかった。でも、ちょっとだけだよ」
「ありがとう!」
「フィリア様! こちらにいらっしゃったのですね! まあ! 坊ちゃまが見てくださっていたのですか!?」
焦った顔のメイドたちがやって来て、その男の子に何度も頭を下げた。
「後は頼むね」
私をメイドに預けて立ち去ろうとした男子の背中に声を掛けた。
「ねえ!」
「……なに?」
男の子は、また足を止めて振り返る。また困った顔をしている。
「今度会ったら、一緒に遊んでくれる?」
「会うことがあったらね」
「会う! 絶対に会うことになるわ! 私にはわかるもん!」
「すごい自信だね。まあ、いつか社交場で会うことにはなるか」
「よくわからないけど会うの! 私はフィリア・ノイズ! あなたの名前は?」
「僕の名前は……」
自分自身に腹が立つのだけれど、ここで毎回夢から覚めてしまう。というのも、私は6歳の時に階段から転げ落ちて、過去の記憶が一部抜け落ちてしまったのだ。
両親に夢に出てくる話をしても、複数の令息の名前を教えられるだけ。全ての人に会って確かめる前に時は過ぎ、私には婚約者ができた。
婚約者ができてからは、男の子の夢を見ることはなくなった。だから、婚約を破棄されて、再度夢を見始め、その相手がすぐ近くにいたと気づくことになるとは思ってもいなかった。
読んでいただき、ありがとうございます!
面白い、応援したいと思っていただけましたら、星をいただけますと幸いです。




