10 失踪劇の幕引き
翌朝、私は身支度を整えながらサキに明け方あったことを話した。サキは涙ぐんで喜んでくれて、「今度こそ幸せになってね、何かあったらいつでも相談してね」と抱きしめてくれた。
サキの方も、一晩経ってジルへの怒りが落ち着いたらしい。朝早くに部屋に訪れ、「ほんっとうに申し訳なかった!!」と謝るジルに、「今後嘘ついたら許さない」と言って、ビンタ一発で無罪放免としていた。
また、昨夜はザネイル家に泊まったらしいユリウス様がお部屋の前までご挨拶に来てくださった。
同時にネルソン様が現れ、「昨夜は騎士団長殿の我儘を通して泊まらせて差し上げたのですから、さっさと帰ってくれませんかねえ」と言いながらユリウス様に塩をかけ始めたので、また2人が言い合いをしている横で私たちは別れを惜しんだ。
そう、私は伯爵家に戻ることにしたのだ。
当主様にご迷惑をおかけしたことを謝りに行くと、誰とも話したがらなかったネルソン様が、ユリウス様や使用人と少しずつ話し始めている、とのことで、むしろ感謝された。
ユリウス様曰く、ネルソン様をさすがに無罪放免にはできないが、王家にも瑕疵があり、こんなのでも侯爵家であるという理由から、法的な刑罰ではなく、2年間騎士団の仕事をユリウス様の分までやるということで話がついたらしかった。
ネルソン様は非常に嫌がっておいでだったが、状況が状況なので呑んだとのことだった。ジルはそのまま侯爵家の使用人として残るらしい。サキへの贖罪もあるし、元々ジルコニアート家は外の家に使用人や親類を働きに出すことが多いらしい。
ノウハウを学んで帰ってこいとのことだった。サキとジルがいると私が会いに来るかもしれないとのことで、ネルソン様も了承された。
私は伯爵家に戻ると、叔父に事情を説明しに別邸へ行った。叔父はネルソン様をどうにかしたいと、今にも飛び出して行きそうな様子だったが、慌てて止めて今が幸せだから気にしていないと伝えると、頭を撫でてくれた。
ユリウス様にも叔父は思うところがあったようで、ちくちく嫌味を言っていたが、私が幸せそうなのを見て矛を収めたようだった。
それから、私たちは一緒に暮らすようになった。2人で伯爵家で穏やかな日々を過ごすうちに、すっかりユリウス様は私を名前で呼ぶことにも慣れてしまって。
あの顔が見たくて私が頬にキスをすると、真っ赤になって顔をそらすユリウス様が愛おしかった。かと思えば、溜まった仕返しとばかりに深いキスをされたりもして、私の心臓も落ち着いてばかりではいられなかった。
ユリウス様は、2年間ネルソン様に仕事の大半を預けられるが、そうはいっても仕事があるにはあるらしい。時折仕事が長引いて深夜に帰って来ることがあるが、「起きててくれてありがとう、寝ていても良いんだよ」と言い、加えて「でも夜に天使の顔が見れて良かった」なんて、甘い言葉をかけてくださる。
1年経ったあたりから、ネルソン様が伯爵家に遊びに来るようになった。ユリウス様が在宅の時にしかいらっしゃらないので、あえて狙ってきているのだと思う。
ユリウス様が、私が一人のときはネルソン様を上げてはいけないときつく仰るので、そのことをご存知なのかもしれない、と考えている。
ネルソン様は、私に騎士団内でのユリウス様のお話をしてくださるので、ついつい耳を傾けてしまう。最近のネルソン様は、「侯爵家の養子になりませんか?私の義妹でもかまいませんし、私の子どもということでもいいですねえ」と誘ってくる。
ミレーナに何の利益があるんだ、とユリウス様が毎度断ってくださるのだけれど、ネルソン様は手を変え品を変え、色々と提案をしてこられる。
最近は少しずつネルソン様の扱いに慣れてきて、適当に流しながらお話をするだけで、ある程度満足してお帰りになるのだと分かった。
そのことをユリウス様に話したら、相手もしなくて良いと言われたけれど、さすがに追い返すと後が怖そうで出来ずにいる。
そんなこんなで、私たちは新婚旅行に行ったり、領地の視察を一緒にしたり、私は伯爵夫人として慣れないお茶会を準備したりと、充実して過ごしている。
お茶会やパーティーでは、私が事故死したという話になっていたために、色々と聞かれたり言われたりしたけれど…。今となっては、の笑い話としてかいつまんでお話すると、ネルソン様ならやりかねないとして、噂も収束していったそうだった。ついでに伯爵家にネルソン様が頻繁に出入りしている理由も解明されて、貴族の皆様は納得されたようだった。
時折私も、サキとジルに会いに侯爵家へと足を運んでいる。一人で行くとネルソン様があれやこれやと話しかけに来たり、誘いを持ちかけてくるので、ユリウス様にネルソン様をお願いして、3人でまったりと貢茶を飲みながら話すことにしている。
サキとジルはあれから恋仲になりそうでならない関係を繰り返しているようで、見ているこちらがハラハラする。あと、ジルが諜報員の勉強をザネイル家に教えてもらえることになったそうで(当主様のはからいとのこと)、サキも一緒に学んでいるらしかった。
二人ともめきめきと力をつけていっているようで、ジルの抜けているところをサキが補い、サキの突っ走るところをジルが止めていると、相棒としてもうまく行っているらしい。
そんなこんなで、私も皆も、少しずつ未来に向けて足を進め続けている。
私の思いつきからとんだ失踪劇になってしまったが、こんなにも素敵な日々になるとは思わなかった。
勇気を出して逃げ出した愚かな自分を、今は褒めたい。
ーーこれにて、伯爵令嬢の失踪劇、おしまいおしまい。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!楽しんでいただけたなら幸いです!!
厚かましいかもしれませんが、面白かったら評価(☆)やブックマークをお願いします!!狂喜乱舞して喜びます!!




