影の取引 ― 闇組織《ヴェール》との接触
――地下都市。
光の届かぬ迷宮の奥で、青い鉱石がわずかに脈動していた。
追っ手の足音が遠ざかる。セレナは息を潜め、壁に背を預ける。
セレナ(心の声):「……教会の諜報部。早すぎる。
帳簿の存在に気づいたのね。」
その時、背後の影がゆらりと動いた。
闇の中から、黒いヴェールを纏った人物が現れる。
女――だが、その声には炎のような芯があった。
???:「“真実を暴く亡霊”――噂通りね。
まさか、あなたが本当に存在するとは。」
薄明かりに照らされ、女の姿が露わになる。
深紅の瞳、黒衣に縫い込まれた聖印の切れ端。
かつて教会に仕えていた者の証。
セレナ:「あなたは……?」
???:「私は《ヴェール》のエスメラルダ。
教会の“神託”に異を唱えた者たちの集まりよ。」
《ヴェール》――
聖教会の闇に抗う“影の集団”。
その存在は、地上では異端として語られてきた。
エスメラルダ:「あなたが持っている帳簿――あれは氷山の一角。
教会は“神託の儀”と称して、人間を魔石の核にしている。」
セレナ:「……人間を、魔石の核に?」
エスメラルダ:「そう。命を光の結晶に変えるの。
ルミナイト――それが人の魂の結晶だと知ったら、
民は誰一人、神を信じなくなるでしょうね。」
冷たい衝撃が、セレナの背を走る。
その瞬間、過去の記憶がよみがえった。
――企業の内部不正を暴こうとして、裏切られた自分。
――社会の“正義”が、自分を切り捨てたあの日。
セレナ(心の声):「……どの世界も同じ。
正義の仮面の下で、人を犠牲にしてる。」
沈黙を破ったのは、後ろで腕を組んでいたカインだった。
カイン:「さて、どうする?
このまま闇に潜って、生き延びるか。
それとも、光の下に出て“正義”を焼くか。」
セレナはゆっくりと仮面を外す。
金色の瞳が、闇の中で淡く光る。
セレナ:「決まってるわ。
光の下に隠れてる“嘘”を――全部、引きずり出す。」
エスメラルダの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
エスメラルダ:「いいわ。その瞳……まるで神を断罪する光ね。」
青白い鉱石の光が、三人の影を照らした。
その瞬間、どこかで金属音が鳴る。
――“真実を暴く亡霊”が、再び動き出した。
静寂の中、カインが呟く。
カイン:「おいおい……今度の標的は、神様か。」
闇が笑い、世界がざわめいた。
そして、亡霊の令嬢の反逆は、ここから始まる――。




