崩れゆく王子 ― 信仰と孤独
――王都ルミエール。
黄金の尖塔が立ち並ぶ都は、かつて「光の都」と呼ばれた。
だが今、その光は冷たく、眩しさの裏に陰を落としていた。
王太子レオンは、玉座の間に一人立っていた。
かつて“断罪の広場”で彼が下した裁き――それが、セレナという少女の命を奪った日から、
彼の中で時が止まっていた。
レオン(内心):「……私は、間違っていない。
あの断罪は、神の御心だった。
セレナの犠牲は、民に光を示すための――試練だったはずだ。」
それが、彼の唯一の拠り所だった。
“あれが正しかった”と信じなければ、彼の心は崩れてしまう。
彼は民の前に立ち、笑顔で語る。
「神の導きに従い、この国を正しき道へ導く」と。
だがその背後では――聖教会の老枢機卿たちが、密やかに糸を操っていた。
枢機卿A:「王太子殿下は純粋なお方だ。利用しやすい。」
枢機卿B:「信仰の旗を掲げさせよ。王家の威光を“神”の証に変えるのだ。」
王政と教会の境界は、もはや形だけのものだった。
貴族たちは囁く。
「王太子は聖職者の傀儡だ」と。
「神の名を借りた操り人形」と。
それでも、レオンは耳を塞いだ。
――“信じる”以外に、彼には何も残されていなかった。
◆
一方、王都大聖堂。
純白の祭壇の前で、聖女リディアが祈りを捧げていた。
銀糸の髪が光を受け、まるで神像のように揺れる。
リディア:「……神よ。今日もどうか、我らに導きを……」
その瞬間、脳裏に響く声。
“――悪魔は、王の傍に立つ。”
息が止まる。
聖なるはずの神託が、まるで呪詛のように耳を刺した。
リディア:「……“悪魔”? どういう意味……?
王太子様の傍に……そんなものが……?」
戸惑う彼女の背後で、枢機卿ジルベルトが静かに微笑む。
彼の杖の先では、薄紫の幻光が揺れていた。
ジルベルト:「神の声は時に、警告となって現れるのです、聖女殿。」
リディア:「でも……その“悪魔”とは、一体――」
ジルベルト:「それを知るためにこそ、あなたは神の御心を受けるのです。」
彼の声は穏やかだった。
だがその瞳には、“狂信”と“支配欲”が潜んでいた。
リディアの祈りに合わせて、幻術の紋が足元で広がる。
――彼女の信仰は、少しずつ塗り替えられていく。
純白の心が、幻の神託によって“神の傀儡”へと変貌していく。
◆
夜。
王城のバルコニーで、レオンはひとり星を見上げていた。
空は澄んでいるのに、胸の奥だけが重い。
レオン(心の声):「……セレナ。
君なら、どう言うだろう。
私は、まだ……正しいのだろうか……?」
その問いに答える声は、もうどこにもなかった。
ただ、遠く《ノクス》の闇で――亡霊の令嬢が微かに笑った。
光の王子と、闇の亡霊。
二つの運命は、再び静かに交差し始めていた――。




