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1-3 降下、接敵

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 イーリスティアを始めとした「リターナー(プレイヤー)」が何故、有人人型機動兵器GHギアーズヘッドを駆って〈廃墟の惑星〉に降り立つのか、その理由は惑星上に放棄された資材を回収して自身が所属する〈マザーベース〉に持ち帰ることを任務(ミッション)とするためだ。


 回収すべき資材の大半は当然ながら都市部に集中しているが、別に都市のみが人類の生存圏だった訳ではない。その他の地形にも資源や、使用者がいなくなった兵器といった物資は存在する。

 まだ装備が整っていない内はいきなり都市探索に繰り出すのではなく、そういった見晴らしが良く、敵性体や競争相手を発見し易い場所で装備の拡充にあたった方がスムーズに機体を強化できる。いわゆる「不味い狩場」は、相応に戦闘の危険性も下がり物資の探索に専念できるからだ。


 というわけで自分も、まずはフレーム剥き出しのGHを卒業すべく、側面モニターに表示されるレーダーマップと、実際にドロップシップの下部カメラが撮影する地形・立地・植生や要害といった探索の指標になり易いエリアを見比べて、自身が降下するのに最適な地形を探し求めていた。


 惑星降下艇(ドロップシップ)はリターナーが降下した後、物資をドローンポッドを介して回収するまでは大気圏上層を一定の速度を維持したまま飛行する。だからGHを降下させるタイミングはリターナーの裁量に任せられており、何なら永遠に乗り続けていても咎められることはない。……当然その間に惑星が保有する資源は他のリターナーに取られ放題なのでメリットは薄いが。一応、観光としては中々良いものかもしれない。


 そのドロップシップ上で待機したまま俺が注視するのは、レーダーマップ右上の無機質に記載された「128/300」から131、138……と増え続けている数字と、システムによって区域ごとに色分けされたエリアマップ。

 前者は一つの〈廃墟の惑星(ルインズプラネット)〉全体に降下可能な最大人数と実際に行動中のリターナーの人数。後者は区画ごとに存在する、リターナーと敵性体のおおかまな密度が高ければ色が濃くなる分布図だ。

 要はレーダーマップさえしっかり見ていれば、戦闘に巻き込まれる確率もある程度は調整できるというわけだ。今回の場合、自分が降下した後も最低で150人程度参加する可能性が残されている。戦闘中の横槍には十分注意しなければならない。


「──ここが良いな」


 参加者が170を超えた時点で自分が目星をつけたのは、まだマップ上にGHの存在がほとんどない、川沿いに面した都市。ビル群といった高層建築物が少なく、どちらかといえば街といった風情のそこから、更に南に築かれた中規模程度の施設を降下地点に定めた。


 施設で最低限の装甲や武装を整え、そこの物資にタグ付け。回収用ドローンポッドが物資を打ち上げている間に都市へ陸路で移動。本命の都市部で物資の回収と無人兵器との戦闘で稼ぐ。道中は高度な柔軟性をもって臨機応変に、後は野となれ山となれだ。


 GHをドロップシップに固定するフレームから切り離し、格納庫の床を蹴って自由落下を開始。

 機体の姿勢が遥か下方の地面と垂直になるよう維持。側面モニターの隅に追いやった高度計の数値が凄まじい勢いで減っていくのを横目に、脚部スラスターで一気に減速、機体各部のバーニアの小刻みな噴射で無事両脚での着地に成功する。


 着地点は予定通り中規模施設の外縁部。外周を囲む金網のフェンスや鉄条網の向こう側に見えるのは、GHを余裕で収容できる巨大な倉庫や横に長いオフィスビル。施設の外観がβテスト版と同じであれば、おそらくここは軍事基地だ。

 軍事基地は銃器・弾薬の獲得が容易な一方で、資源の備蓄に乏しい。とはいえそもそも都市部以外のエリアに点在する総資源量はたかが知れているし、まず最低限の武器と装甲を揃えたい自分にとっては悪くない施設だった。


 注意すべきは、各施設を繋ぐ道路に配置された無人機と不意に接敵した場合。

 プレイヤー機を視認した連中は一定範囲内の同型機と情報をリンクして集団で襲い掛かってくる。十全な装備で相対するなら兎も角、今のフレーム剥き出し、初期装備のアーミーナイフ一本だとあっという間に蜂の巣にされるので、可能な限り各個撃破を心掛ければ安定する。上手く立ち回れば、中規模基地の無人機殲滅はそこまで難しい話じゃない。


「……む」


 いざ基地に突入しようとしたタイミングで、このエリアを降下目標に指定するGHをレーダーが捉えた。数は2。小隊を組む彼らは大胆にも基地の中心部を目指して降下中だ。

 基本、GHの索敵範囲は装備で強化しない限りそれほど広くない。しかし例外的にドロップシップから降下するGHだけは確実に捕捉する。というのも地上にいるGHの頭上目掛けて降下、そのまま榴弾系の爆発物で空爆して撃破といった理不尽になりかねない奇襲を防止するためだ。

 故に、周囲に存在がバレバレのまま自由落下する降下中は対空砲火の的になり易い。普通はそれを避ける為に敵機と離れた位置に降りてから陸路を進む方が安全だ。だが相手は先に降下したGHがまだ火器を揃えられていないと踏み、敢えて中央の美味しい場所を直接取りに来た。

 正式サービス開始直後の貧弱な装備を考慮しての強行、中々頭の切れる相手らしい。そして手近な火器を回収した後は間違いなくこちらを潰しに掛かるだろう。こっちも急ぐ必要がある。


 フェンスと鉄条網を踏み砕いて基地に侵入し、正面の倉庫の扉を蹴破って内部をスキャン。薄暗い倉庫内を頭部ライトで照らし、視覚センサーが取得した情報をスクロールして使えそうな装備を探す。


 〈JUNK-ハンドガン〉、〈NNR-ノーマルヘッド〉、〈NNR-ノーマルレッグ〉。武器は最低等級、頭と脚の装甲も最低より一つ上の貧弱な装備だが、無いよりはマシ。

 コマンドを入力すると後は勝手にパーツが機体に吸い寄せられ、謎の力場が発生してひとりでにフレームと接続する。後から高い等級のパーツを発見しても装甲の着脱・交換は一瞬で完了するため、空いてるスロットがあれば即装備しても間違いはない。裸フレームよりはよっぽど良い。


 他にめぼしい装備は、ハンドガン用の低倍率スコープと共通規格のオートマチック拳銃弾3マガジン分を拾得した。残りは遮蔽にもならないジャンクと端金になりそうな物資。後で回収するためにタグ付けはしておく。

 弾薬は必須として、一般的なFPSではムダ、付けない方がマシと言われがちなハンドガン用スコープも〈ルインズプラネットオンライン〉の戦場ではかなり有用なアタッチメントだ。装備が揃っていない序盤でも、これと地形を巧く活用すれば完封も不可能じゃない。


 とはいえ相手GHは2機。ひとまずの主兵装はこれとして、迂回や回り込みを妨害するグレネードや地雷系の特殊兵装が欲しい。まだ短距離レーダーに反応がないことを確認し、向かい側の倉庫に移って物資漁りを急ぐ。


「うーん、ゲロマズ」


 目的のグレネードは2つ手に入った。しかし装甲がまた脚部アーマーでダブったし、火器に至っては|持ってない武器種の弾薬ショットガンシェルしか転がっていなかった。クソが。あれ程弾薬は対応する火器と一緒に転がしとけと要望送りまくったのに、修正されてねぇ! 持ち帰って売れば金になるが、そもそも反撃できずに撃破されたら赤字だ。


 そして、イーリスティアが毒づいている間にタイムリミットを迎えた。

 舗装路が軋む轟音とコックピットにけたたましく鳴り響くアラート。即座に倉庫から飛び出し敵機と反対方向にある建物に向かって機体を走らせる。


『いたぞ! 撃て!』


 GHの巨体を隠せる建物の裏に滑り込んだ直後、ギリギリのタイミングで舗装路を無数の曳光弾が通り抜けていった。まだフレームが剥き出しのアームやボディーに被弾していた場合、武装のランクによっては最悪撃墜されていてもおかしくなかった。


「……ライト1、ヘビィ1か」


 退避する前に確認した敵機の武装は、軽量級GH(ライトギア)がサブマシンガン、重量級GH(ヘビィギア)はライトマシンガンと、どちらもジャンク品の最低等級。装甲のランクは流石に判別できなかったが、全身を覆うには足りず、部分的にフレームが露出しているのは見えたので問題ない。おそらく最低限の武装を拾えた時点でこちらがまだ用意を整えられていないと踏み、拙速での撃破を選択したのだろう。

 確かに理論上のDPSや数の差だけを見れば、こちらが圧倒的に不利。だが、


 2対1。


 彼我の間に延びる遮蔽の無い直線通路。


 そして相手が攻め手側。


 ──この条件なら十二分にハンドガンの凶悪さを発揮できる。

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