1-2 機体選択
■〈マザーベース〉、ロビー。
どうやら母艦の内観は、βテスト時代からほとんど手を加えられていないらしい。
帰還用ゲートに立つイーリスティアの正面には、やたら広いリクライニングスペースが設けられ、両側の壁には個人用マイルーム・クランホームに繋がるエレベーターエリア。リクライニングスペースの奥、正面は出撃用ゲート。奥の左右壁際には、任務を受注するバーカウンターがある。ここからだと死角で見渡せない二階や三階にはまた別のアミューズメント施設が用意されているが、βテストでは大したものはなかった。何か変更点があるかだけ、後で確認しておくか。
「……行くか」
とはいえ、兎にも角にも出撃して物資を売り払ってゲーム内通貨を手に入れないと〈マザーベース〉の大半の施設は利用できない。故にさっさと歩き出して既に他のプレイヤーが屯する広場を突っ切りカウンターに向かう。出撃申請用のカウンターがバーの様式をとっているのは、ルインズプラネット開発者の拘りらしい。
「やあ嬢ちゃん、フリーなら俺らと組まない?」
暇そうに駄弁っていたイケメンアバターの男2人に声を掛けられるもスルー。残念ながらこちらの中身は男であるし、そもそも小隊を組む予定はない。一瞥もくれずカウンター席の側に立ち、置かれていたタブレットを操作してソロでの出撃、出撃地域はチュートリアルを飛ばし、最初からアンロックされている惑星〈ノーディア〉を選択する。程なくしてバーテンダーから渡されたキーカードを手に出撃用ゲートに向かう。
「ちょ、ちょっと聞こえてます? ちょうど3人とも初心者同士だしさ、様子見がてら──
「組まない」
素っ気なくアプローチを断ってゲートを潜る。インスタンスエリアに入ったことでまだ何か喋り続けていた男の声も途切れて聞こえなくなった。シンと静まり返った暗い空間に、一言しか喋っていないのに疲れた自分の溜め息だけが響く。
プレイヤーが立ち入ったことで格納庫の照明が次々と点灯し、奥の一つが何かに遮られ自身に影を落とす。
その原因である真正面に鎮座した巨影の威容を見上げ、口許を歪めて笑った。
「久しぶりだ。ギアーズヘッド」
乗り込む為のラダーで固定された計三機の鋼の巨人。初期も初期の武装や胸部を除いた装甲が一切無いフレーム剥き出しの姿で、それぞれがリターナーを迎え入れるハッチを開いて待っている。
フレームのみだと3機とも違いがほとんど判りにくいが、左から軽量級、中量級、重量級と、機体特性が大きく異なっている。当然この中から1機選んで出撃するわけだが、勿論選ばなかった残りの2機に乗り換えるのも可能だ。このフレームのみの3機が、〈マザーベース〉からプレイヤーに与えられた贈り物というわけだ。
軽量級GHは高い運動性とステルス性に優れた、高機動・偵察向けのフレームだ。《致命の一撃》にボーナスを得られる。
装甲を含めた機体重量が最も軽量なことで随一の加速力を誇り、短時間で敵機に肉薄しての小回りの良さを活かしたインファイト、隠密行動からの奇襲と、小器用な立ち回りが得意な機種である。
一方で総機体重量の限界値が厳しい数値に設定されており、軽量機として適正な機動力を維持する為の装甲及び搭載可能な武装は大きく制限される。装甲は紙、武装は主兵装が1〜2、副兵装も上手く組んで2つ程度と、総火力・積載力・継戦力は他の機種に大きく劣る。
中量級GHは、機動力を妨げない強靭な装甲と兵装に左右されない高い対応力に優れたフレーム。武装切り替えの際ににボーナス有り。
現地で獲得する兵装の適合値幅が最も広いのが中量級であり、重量級向け、軽量級向け装備の一部にも装備適正がある。また、多少GHに不適な装備だったとしても付与される性能低下量が低減される等、武装が揃えられずに為す術なく撃墜されるようなことになり難い機種といえる。
重量級GH、大出力のリアクターにフレームすら耐弾性を有し、頑丈且つ優れた積載力は評価が高く、βテストでは最も人気な機種だった。《一斉射撃》にボーナスを得られる。
最高速が他機種よりも速く、加速性能と旋回性能はイマイチ。積載力は3機種の中で最大。重装甲化して武装を積めるだけ積んだ姿は一見鈍重に見えるが、リアクターの性能をフルに活かした機動力は非常に高い。
加えてエネルギー兵装に対して特殊な「恩恵」があるとなれば、β時代に重量級一強と持て囃されるのもさもありなんといった性能だった。
そんな三種三様なフレーム機の中から自分は、中央に鎮座する中量級のGHを選ぶ。理由はまあ……、使用率が高い重量級GHを相手取るなら、こいつが一番やり易いのだ。それが正式サービスでも通用するかどうか、直ぐにでも確かめたい。
いつもより軽い手足を使ってラダーを伝い、胸部装甲の奥に収められたコックピットに滑り込む。正面モニター下部のスキャナーにキーカードを挿し込みメインシステムを起動。次々と点灯するモニターの一つにGHを収容する惑星降下艇とリンクした映像が表示され、無数の恒星が煌めく宇宙と、眼下に広がる青と白、緑と茶色が混ざり合った惑星の姿が映り込む。
『間もなく、大気圏への降下が開始します。地上降下可能高度到達までの間、各リターナーはGHに搭乗し待機して下さい』
そんなアナウンスが流れてから程なく、機体をラックに固定していたラダーやその他諸々の拘束が外れ、機体の制御が全てこちらの手に委ねられた。同時に、目の前の壁だと思っていた巨大な金属板が重い駆動音とともに動き始め、開いた箇所から眩い陽光が格納庫全体を照らし出した。
スライドドアの先は、灰色と茶色が混ぜこぜになった地表を高所から見下ろす景色。β時代も幾度となく目にした、出撃直前の光景だ。
「ああ、堪らないな……」
正式サービスが開始して初のランディングアプローチ。どうしても心が逸ってしまうが、目標は慎重に見定めなくては。




