1-1 正式サービス
兎に角隔日更新を目指す。
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〈廃墟の惑星〉。
外宇宙へと進出した人類が各地の惑星への入植事業を一度断念し、放棄された都市群が荒廃して見るも無残な光景に成り果てたことから、そう呼ばれている。
断念した経緯は入植惑星ごとに多岐に渡るが、共通する理由がひとつ。──自我を有した人工知能の反乱。銀河系に進出した人類が入植にあたって配備した無人自律兵器の制御を人工知能に奪われ、本来自分達を守るものに襲われた入植者達はなす術なく壊滅した。
9割もの同胞を喪い、母なる故郷さえも手離し鋼鉄の揺籠〈マザーベース〉の中で宇宙を揺蕩う人類。
それでも再起の意志は潰えることなく萌芽し、再興のための力を──資源と武力を〈廃墟の惑星〉に求めることになる。
入植時に大量に持ち込まれた資材。そして放棄された施設に居座る無人兵器すらも人類の「資源」と見做し、回収することで力を蓄積する。その為に派遣される尖兵こそが有人人型機動兵器〈GearsHead〉。
〈廃墟の惑星〉の大気圏内を周遊する惑星降下艇よりGHを都市部に投下。敵対勢力を排除した後、回収する資材及び兵装にタグ付け。作業中の回収用ドローンポッドを護衛し、ドローンポッドの推力で惑星降下艇に帰還、大気圏を離脱し〈マザーベース〉へと資源を持ち帰る。
資源の確保、逸失技術の再取得、そして惑星の奪還。
〈マザーベース〉に選ばれたGHのパイロットは「還流者」として、人類再興の為に身を投じていく──
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──それが、VRゲーム〈ルインズプラネットオンライン〉の設定だった。
OP、βテストの時と変わってなかったな。まあ、設定がコロコロ変わってもアレだし別におかしいわけじゃないが。
ムービーが終了すると身体の硬直も解かれ、薄灰色一色の殺風景な空間に降り立っていた。あるのはマネキンみたいな色の人型と、簡素なホログラムモニターがひとつ。
それが何であるか知っている俺はさっさとモニターの前に立ってキャラクリエイトを始める。
容姿はβ時代と同じ白髪翠眼。小柄で華奢な体躯の少女アバター。ルイプラはGHを降りて戦うことは不可能だ。GHを操縦するのに体格で有利不利が決まったりすることもないから、キャラクターアバターの使い途といえば、〈マザーベース〉で目の保養にするのが精々だ。
ということでマネキンの姿から女性の姿へ、声も一般的なゲームに標準搭載されたAIによるボイチェン機能で鈴の声に様変わりした。
一瞬でネカマに早変わりしたが、〈マザーベース〉のロビーでチャットに興じるつもりはなく、クランや小隊を組んで出撃する予定もないから、ネトゲに有りがちな無用なトラブルに巻き込まれる可能性も低いだろう。
残る項目も手早く埋めて、最後の項目、名前は〈イーリスティア〉と入力。既に使われていることもなく無事に通るとゲーム開始の合図、転送の光に身体が包まれる。
『ようこそ! リターナー・イーリスティア。〈マザーベース-001〉は新たな戦士を歓迎します!』
機械的な音声が耳朶を叩き、イーリスティアの視界は眩い光に染まる。──そして次の瞬間には、3ヶ月ぶりの最早懐かしいと思える〈マザーベース〉ロビーに立ち尽くしていた。