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985 次の敗者は誰だ?

 手玉の近くで片脚を浮かせては下ろすを繰り返しているクリス。


「確か、こうでしたよね」


 言いながらスキップするかのように軽くジャンプする。

 そのシルエットは先程のトモさんのジャンプキックを彷彿させた。


『さっそく真似するかー』


 苦笑を禁じ得ない。

 トモさんがミスショットしたのを見ているのに、これだ。

 失敗をまるで恐れていない。


 ゲームだから失敗しても気にしないんだろうけど。

 何であれ、かなり強烈な印象を残してしまったのだけは間違いないようだな。


『気持ちは分からなくもないんだが……』


 蹴る前に外連味をたっぷり効かせてたし。

 それにしたって影響されすぎだとは思うがね。


「行きます」


 クリスが真剣な表情を更に色濃くさせた。

 そう言った直後──


「とおっ!」


 と気合いの入った掛け声が聞こえてきた。


 声の主はクリスである。

 トモさんが合いの手を入れるように叫んだ、という訳ではない。


 どこまでも模倣するつもりのようだ。


『そこまでコピーしなくていいんだがなぁ』


 いくら形から真似るのが近道とはいえ、それは必要ないと思う。

 そういうのに気を取られすぎて失敗することだってあるんだし。


 現にクリスがボールを蹴った瞬間──


「あっ!」


 と短く叫んでいたしな。


『言わんこっちゃない』


 とは思うが、そんなことを気にしている場合ではない。


「どうした!?」


 つい大きな声を出してしまったさ。

 足でも捻ってしまったのかと思ったからね。


 遊びだからこそ怪我はよろしくない。

 そう思ったのだが、俺も慌てすぎである。


 クリスは無事に着地した。

 やはり捻挫などではなかったようだ。


「狙うの忘れてました」


 テヘペロをするクリス。


『いつの間に覚えたんだ』


 やはり俺が留守にしている間だろう。

 重ね重ね反省である。


『って、それはいいんだよ』


 自分で自分にツッコミを入れる。

 良くはないが横に置いておく。

 反省なら既にしているし。


 それよりもガクッときたんですよ?

 俺の「どうした!?」という問いかけに対する答えがこれだもんな。

 エリスやマリアが「やっぱり」と言いたげに苦笑していたさ。


「何だ、そりゃ!?」


 思わずツッコミを入れてしまったのも無理からぬことだと思いたい。


 で、結果がどうなったか。

 マッセ自体は成功した。

 手玉はトモさんの時よりも急カーブを描いて近くにあったボールを弾いたのだ。


 弾かれたボールはポケットに向けて進むことはなかったけどね。

 しかしながら、それで終わりではない。


 手玉はカチンカチンと音を響かせ次々と別の的玉に当たっていく。

 弾かれた的玉が別の的玉に当たったりもした。


「ふわぁ……」


 リオンが呆気にとられていた。


「これは……」


 レオーネも同じように呆然と呟く。


「凄いねー」


 ミズキも感心している。


「呆れたものだな」


 苦笑するツバキ。


「いやー、いいものを見せてもらったね」


 トモさんは楽しげだ。


「これだけ当たりまくれば、確かにそう思うよ」


 俺も釣られるように笑う。


「これで、ひとつもポケットインしないんだから凄い」


「そうでもないみたいだよ」


 言いながらフィールドの片隅を指差した。


「え?」


 怪訝な表情でそちらを見るトモさん。

 的玉のひとつがユルユルとコーナーポケットへと向かって転がっていた。


「おおっと」


「いつの間に?」


「そうですね」


 トモさんだけでなくエリスやマリアも驚いている。


「あら?」


 撞いた本人が気付いていなかったくらいだからな。


『なんだかドサクサに紛れる感じがするな』


 そういった印象を後押しするような転がり方をしているのが、また面白い。

 スピードも力感もない。


 だが、コースは絶妙である。

 コーナーポケットへ向けてゆっくりと転がっていく。


「いい具合だ。

 これはもしかするのではないか」


「そうだね、ギリギリっぽいけど」


 期待感をにじませながらツバキとミズキがボールの進み具合を予想していた。

 確かにポケットに落ちるかどうかの微妙な進み具合だ。


 が、それがハラハラさせてくれて楽しい。


「行けーっ」


 リオンなどはボールに声援を送っているくらいだ。

 友達の活躍を見ると力が入るみたい。

 レオーネは笑みを浮かべてそれを見守っていた。


 その間もボールは転がり続ける。

 ポケットに近づくにつれジリジリした感じの動きになっていくのだが。


 前のめりになりそうな焦れったさを感じる。

 そしてボールはポケットギリギリで止まった。


「「「「「あぁーっ……」」」」」


 固唾をのんで見守っていた皆が嘆きまじりの吐息を漏らす。


「勿体ないわね」


「しょうがないですよ」


 エリスが苦笑とともに呟くとマリアが応じた。


「惜しかったな」


「もうちょっとだったね」


 ツバキとミズキも残念がっている。

 が、俺は皆とは違った印象を持っていた。


『まだだな』


 微妙なバランスでポケットの縁ギリギリにボールがあったからね。

 皆は止まったことに気を取られてそれに気付いていないみたい。


 次の瞬間、止まったと思われていたボールが揺らいだ。

 ワンテンポ遅れてゴトンと音がする。


「「「「「あっ」」」」」


 残念がっていた一同がボールの落ちたポケットに視線を集めた。

 と同時に──


「ノオオオォォォォォッ!」


 トモさんが両手で頭を抱えて叫んだ。


「どっ、どうしたんですか?」


 クリスが焦ったようにトモさんに声を掛けていた。


『あれだけ絶叫されれば気にならないはずがないよな』


 まあ、当人は答えられる状態ではなさそうだ。

 愕然として立ち尽くしている。


 だから俺が代わりに答えることにした。


「落ちたのがトモさんのボールだったんだよ」


 そう、クリスがまぐれで落としたのは3番。

 トモさんが失敗を装ってポケットから救出したはずの的玉であった。

 苦労が水泡に帰したのでは叫びたくもなるというもの。


「それは申し訳ありませんでした」


 苦笑しながら謝るクリスである。


「3番がトモくんのボールだったんだ」


 ミズキが言った。


「まさか、あのボールだったなんて……」


 リオンは呆然としている。

 言葉通り、まさかの思いで一杯なんだろう。

 わざと失敗したトモさんにまんまと騙された訳だ。


「だから俺は「どうかな」って言っただろ」


「そういう意味だったんですね」


 今になって俺の言葉がどういうことか理解できたようだ。

 気付いていなかったことに苦笑している。


「妙技とか言ったのは、わざと失敗したときに疑われないようにするためだったのね」


 エリスが感心していた。


『珍しいな』


 こういうことは敏感に感じ取るエリスなんだが。

 どうやら気付いていなかったみたいだ。


「すっかり騙されました」


 マリアも真面目な顔で唸っている。

 同じような顔をして頷くレオーネ。


『さすがプロの役者は違うってことかな』


 まあ、向こうでの本業は声優だけどさ。


「旦那は気付いておったようだな」


 ツバキが指摘してきた。


「まあね」


 そんなことより、リオンである。


 見ればショボーンと落ち込んでいた。

 そして申し訳なさそうにトモさんの方を見る。


「なんだか、すみません」


「ハハハ、ゲームなんだから気にしなくていいさ。

 それに落としたのはリオンじゃなくてクリスだよ?」


 トモさんが穏やかな様子で答えている。

 どうやら落ち着いたようだ。

 切り替えが早い。


 この調子なら次のゲームに影響せずプレーできるだろう。


「で、旦那はどのように気付いたのだ?」


 ツバキは気になるようで追及してくる。


「やはり、あの小芝居の時か?

 アレにはしてやられたが何か癖でもあったと?」


「マッセ直前のことを言っているなら違うよ」


「何と!?」


「それより前。

 3番がツノった瞬間だ。

 短い時間だけど焦ってたからな」


「よく見てたねー」


 トモさんが苦笑する。


「なるほど。

 それは見落としていた」


 ツバキはしきりに頷いている。


「ハルくんはトモくんの怪しい挙動を見逃さなかった訳ね」


『怪しいって、どうよ?』


 本当に弟には容赦がない女である。


「ちょっと焦ってたくらいだよ。

 別に挙動不審ではなかったさ」


 俺も援護してもらったからお返ししておかないと。

 この程度のことがお返しになるかは分からないけど。


 間違っても「借りは返したぞ」とは言えないとは思う。


 なんにせよ、これで敗者は俺とトモさんの2人である。


『野郎ばっかだな』


読んでくれてありがとう。

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