966 奢りか否か
結構なんだかんだと話し込んでしまった。
「それじゃあ遊びに行きましょう」
「「「「「はーい」」」」」
ベリルママが切り上げにかかって、ようやく終了。
皆でゾロゾロと秋祭りの会場へと繰り出す。
「行くわよ、ナタリー」
「はいっ」
会場に入った途端に走り出す婆孫コンビ。
「あー、行っちゃった」
それだけではない。
元小国群のドワーフ組も乗り物などの施設に視線が釘付けになっている。
瞳なんてキラキラ輝いていますよ。
「うひょぉー、何じゃアレはっ!?」
「敷地内に入るまで見えない仕掛けにするだけのことはあるのう」
仕掛けっていうか幻影魔法だけどな。
「どれも凝っておるわ。
見たこともないような建築様式ばかりじゃぞ」
「こうしちゃおれんわい」
「そうじゃ、是非とも間近であの巨大施設を見ねばな」
「もちろんじゃ」
爺さんたちは欲しかった玩具を手に入れた子供のような興奮ぶりだ。
「行くぞ、皆の衆」
「「「「「おうっ!」」」」」
一致団結な雰囲気を放ちながらダダダダダーッと駆け出してしまった。
かと思えば──
「いい匂いがする」
ミーンが屋台ゾーンから漂ってくる微かな匂いに釣られていきなりダッシュ。
「あ、ちょっと!?」
「待ちなさい!
ミーンったら、もうっ」
スーやシーオが慌てて追いかけるハメになっていた。
で、女子組も似たような感じでパーティごとに解散していたり。
マイペースにもバラバラに別れていった。
特に止める理由はないけどね。
自由行動なんだし。
「みんな目当てが違うってことか」
「ハルトくんは、どうしたいの?」
ベリルママは俺にベッタリだ。
そう考えると、気を遣ってくれた面子がそこそこいるってことだろうか。
全員ではないので親子水入らずな感じにはなっていない。
「ハルトはんのお薦め、教えておくんなはれ」
「あ、それは知りたいですね」
「私も興味あるわ」
「お薦めの場所へレッツゴー!」
こんな感じで亜神組はほとんどが同行していた。
中でもアフさんは前のめり気味だ。
ちなみにラソル様は何気に落ち込んだままである。
アフさんの「坊やだからさ」の台詞は思った以上にダメージが大きかったらしい。
『イタズラ好きなのに……』
何処でショックを受けるのか分からないものである。
そんな訳でルディア様はラソル様に付き合って残留を選択していた。
「えーっと……」
自分たちだけ行ってしまうのは気が引ける。
が、どう声を掛けていいのか分からない。
ベリルママたちを待たせているから、もたつく訳にはいかないんだが。
俺が迷っていると──
「気にせず行くが良い」
ルディア様から声を掛けてくれた。
「兄者を放ってはおけぬのでな」
なんだかんだ言っても双子の兄妹ってことだな。
監視も兼ねているんだけどね。
「ですが……」
「心配はいらぬ。
我らも落ち着いたら回らせてもらおう」
そうルディア様は言うけれど、持て成す側としては引っ掛かりを感じるのだ。
なんだか除け者にしているみたいでさ。
「……………」
なおも迷っているとルディア様が苦笑した。
「自由行動なのだろう?
一緒に行動する必要はあるまい」
ここまで気を遣われてしまっては引き下がるしかないだろう。
このままでは押し問答になるだけだ。
皆も待っていることだし。
「はい」
別行動と割り切ることにした。
ホストとしては微妙なところだけどね。
「じゃあ、屋台の方へ行きましょうか」
あれこれと話し込んでいる間にお昼御飯の時間に突入していたし。
まあ、ここに到着した時点でそこそこな時間ではあったのだけど。
特に反対もなく屋台のコーナーへと向かう。
向かうというか──
「ダッシュでゴー!」
アフさんが短距離転送魔法を使っていた。
『転送魔法はダッシュじゃないと思うんですがね』
ツッコミを入れても無駄だとは思う。
「そんなのノリに決まってるよぉ」
とか言いそうだもんな。
「そんなことよりクレームがつきそうだな……」
無意識で愚痴を呟いてしまった。
「あら、誰からクレームが来るの?」
ベリルママが俺の愚痴を聞き逃さず聞いてくる。
「主にミーンですが」
そして、おそらくはシーオも不満には思うだろう。
文句を言ってくるかは微妙なところだが。
「ああ、そういうこと」
ベリルママが苦笑した。
「そう言えば屋台の匂いに引き寄せられるように走っていたものね」
「ええ」
「後から来るはずの私達が先に来ていれば……」
「ヒガ陛下、ズルい。
移動に魔法を使った」
『ほらな』
目の前まで走ってきたミーンが文句を言う。
魔法を使ったのは俺じゃないんだが。
ミーンにしてみれば重要なのはそこじゃない。
俺も一緒に移動している事実のみが問題となるのだ。
ただ、プウッと頬を膨らませて怒っているあたりは子供である。
『一応ギリギリ未成年だもんな』
子供っぽかろうが可愛げのある怒り方なので、あまり面倒だとも思わない。
それに対処法は知っている。
この状況下でのみ有効な方法ではあるが。
「好きなものを奢るから機嫌を直せ」
その一言でミーンの膨れっ面が元に戻った。
「分かった」
御覧の通り、実に簡単に納得してくれるのだ。
だからといってチョロいとか言ってはいけない。
言ってはいけないが『それ、なんてチョロイン?』とか思ったのも事実。
どうにか心の中で気合いを入れ直して口走らないようにしたけど。
余計なことを言わなければ機嫌を損ねられることもないからな。
希にエスパーみたいに勘の鋭い者に感付かれたりはするのだが。
それでも言わなければ致命傷にはならない。
口は災いの元という言葉もあるくらいだしな。
学校でも教えているぞ。
だからといって身に沁みて理解できているとは限らんけどな。
「屋台の御飯で釣られるとか安っ」
タイミング良く追いついてきたシーオのように。
本人は軽くツッコミを入れてきたつもりなのだろう。
が、聞かされる側としては──
『ええい、余計なことをっ』
恨めしく思えてしまう状態だ。
『せっかく助かったと思ったのに無駄に波風を立てようとしてくれるじゃないか』
そう文句を言いたくなったが、ミーンの機嫌の方が重要だ。
シーオは無視してミーンの方を見る。
「ヒガ陛下、シーオ姉は自腹でいいって」
「ちょっ!?」
ミーンも俺がヘソを曲げかねないと思っていたらしい。
向こうの方から火消しに動いてくれた。
シーオが何か言いかけるがミーンが視線を向けただけで怯んだ。
「そうか、ならスーとミーンだけ奢ろう」
俺もミーンの思惑に沿う返事をする。
こっちに矛先を向けられちゃ敵わんからな。
「そりゃないわよっ」
シーオが抗議してきた。
「難癖をつけてきたのはシーオ姉」
『難癖とは大きく出たな』
俺自身はそこまで言われた気はしない。
俺に対してミーンがごねれば話は別だったが。
まあ、八つ当たり以外でそうなる理由は見当たらないのだけど。
何にせよミーンが機嫌を損ねたのは間違いない。
その矛先はシーオにのみ向けられているのは不幸中の幸いか。
「私のことを安いと言うならヒガ陛下の奢りはなしでいいということ」
正論で攻めるミーン。
「うっ」
シーオはタジタジだ。
「それに買うのは禁止とは言われてない」
「む……」
確かにその通りだ。
楽しむべき秋祭りでそんな無粋な真似はできない。
「だから買うのは自由」
「ぐっ」
たかが自腹か否かという話で姉を凹ませるミーンの手際が凄い。
姉妹だけあって追い詰め方を分かっている。
「シーオ姉も好きなものを買って食べればいい」
「ぐぬぬ」
ミーンの攻撃がやまない。
ずっと私のターン状態だ。
シーオはさっきから唸ることしかできていない。
「ミーン、そのくらいにしておきなさい」
そこにスーが初めて割り込みをかける。
別に遅れて到着した訳ではない。
ずっと2人のやり取りを見守っていた。
俺には分からんが、ここぞというタイミングがあるのだろう。
「お昼御飯はお姉ちゃんが買ってあげるから」
「むぅ、分かった。
これくらいにしておく」
やや不満そうにしながらも素直に引き下がるミーン。
「うわーん、スー姉、愛してるー」
半泣きでスーに抱きつくシーオ。
妹以上に幼さを見せる次女である。
外見的には明らかに順当な3姉妹なんだがね。
末っ子がませているのは世の常なのだろうか。
「はいはい、よしよし」
苦笑しながら受け止めるスー。
まるでお母さんである。
『板についてるもんなぁ』
ずっとその役割を務めてきたからだろう。
さすがと言う以外に言葉が見つからない。
ただ、このまま話を終わらせる訳にもいかなかったりする。
奢ると言ったのに奢らずに終わってしまいそうだからな。
読んでくれてありがとう。




