965 神様の教習所?
土下座組に声を掛けていたベリルママも話が終わったようだ。
そう思ったのだが……
「さて、じゃあ次ね」
まだ何かあるようだ。
『何だろうな?』
ちょっと想像がつかない。
話の続きを待つしかなさそうだ。
何を言われても驚かないよう心の準備だけはしておこう。
「今回の件でラーくんは筆頭亜神を解任されることとなりました」
『は?』
静寂が訪れる。
想定外の言葉に己の耳を疑ったさ。
が、それも束の間のこと。
「「「「「ええ─────っ!?」」」」」
皆で一斉に驚くこととなってしまった。
予想以上に厳しい処分である。
そこまで重く責任を問われるものだったとは誰も思わなかったようだ。
もちろん俺も含めてな。
これは神官ちゃんのいる前では言えない話だろう。
責任を感じてしまうはずだからな。
それこそ、もっとこうすべきであったと自分を責めるのではないだろうか。
アニスたちが連れ出してくれて良かったと思う。
「あ、処罰としてじゃないのよ」
皆の様子を見てベリルママが訂正を入れてきた。
「「「「「は?」」」」」
今度は一斉に首を傾げてしまう。
罰する以外に何があるというのか。
「亜神の後継者を育て見出したことが功績として認められたの」
「「「「「え?」」」」」
皆で困惑するほかなかった。
イタズラが功績?
質の悪い冗談にしか聞こえない。
が、ベリルママがそんなことを言うはずがないんだよな。
後継者を云々という話も普通に考えれば妥当な話だと思うし。
それに口振りからするとベリルママ自身が決めたことではなさそうだ。
「もちろんシーニュさんが亜神になると決まった訳じゃないわよ。
あくまでその可能性が出てきたということなんだけど」
そこまで聞いてピンと来るものがあった。
「善業のカウントだ」
俺の呟きにベリルママが苦笑する。
「その通りよ」
何だか話がおかしな方向に進み始めている。
ラソル様のイタズラが功績になるということが解せないのだが。
それでも神官ちゃんの積み上げた善業がラソル様の導きによるものという事実は確かだ。
「これまでのイタズラも功績としてカウントされていたのがねぇ……」
ベリルママが困った顔で溜め息をついていた。
ストレートには言わないけれど、これは神のシステムがらみの話だろう。
ただ、ひとつ疑問が湧いてくる。
「功績として認められたことと筆頭亜神の解任とどう関係してくるんですか?」
そこなのだ。
処罰でないということだけでも驚きなのに。
いや、処罰でないから驚きなのか。
『一体なんなんだ?』
そう思っているのは俺だけではないようだ。
皆も俺の質問に同調するように頷いている。
「これから忙しくなるから筆頭亜神としての仕事をしていられなくなるのよね」
「「「「「………………………………………」」」」」
静まり返ってしまった。
そしてジーッとベリルママを見る。
俺だけじゃなくて皆が疑わしげな視線を向けていた。
『ラソル様が仕事をしてたって?』
皆そういう目をしている。
イタズラが仕事というなら頷けるんだがね。
事実かどうかは別にして、イメージとして忙しく働くラソル様が思い浮かばない。
「もうっ、本当の話よ」
そう言いながらも苦笑するベリルママ。
俺たちの言いたいことも分かるのだろう。
「こういう時にラーくんの信用が紙より薄いのは分かるんだけど」
「酷いよ、ベリル様っ」
思わずといった感じでラソル様が抗議していた。
「皆もそう思うよね?」
振り返って皆の方を見てくる。
『何故うちの国民に同意を求めるんだ?』
ルディア様がラソル様に厳しいのは分かるんだけどさ。
エヴェさんやリオス様たちだっているのだ。
まずは同僚と言うべき亜神の皆さんに声を掛けるべきだろう。
「諦めろ、兄者」
ルディア様が素っ気ない感じで言い放つ。
「どうしてさ~」
「日頃の行いを軽視しすぎだ」
『誰だって、そう思うよな』
だというのに──
「大丈夫だよ」
胸を張って堂々と言うのがラソル様である。
『その自信はどこから来るんだ?』
ビックリだ。
おそらくラソル様に振り回された経験のない新規国民組に期待しているんだろう。
ラソル様の本性を知らないからな。
そこに太陽神に対する信仰心の集まり具合を加味していると考えられる。
「大丈夫やおまへんで、ラソルはん」
エヴェさんがツッコミを入れてきた。
「シーニュはんみたいな人がいてるんを期待してたんでっしゃろけど」
促すような仕草で新規国民組の方へ視線を向ける。
そこにいた面々は困惑顔で互いに顔を見合わせたりしていた。
最終的には判断材料を求めて古参組の方を見るという始末。
そこで空気を読めば結果は火を見るより明らかだろう。
皆の視線に同情は含まれていなかった。
どう控えめに見てもラソル様に同意しているとは言い難い。
「ああっ、何故だ!?」
驚愕の表情で頭を抱えるラソル様。
「何故て言われてもなぁ」
エヴェさんは肩をすくめて苦笑するばかり。
「日頃の行いだ」
ルディア様はにべもない。
「でしょうね」
リオス様も同意した。
「暇さえあればイタズラばかりするからこうなるんだ」
フェム様は説教くさくなっている。
無理もないけど。
「こういう時にピッタリな言葉を知ってるよ」
アフさんが不意にそんなことを言い出した。
「坊やだからさってね」
『何処で覚えてくるんだか』
「アフさんに言われたよ……」
ガックリと崩れ落ちるラソル様。
「誰が子供じゃ、ゴルァ!」
アフさんがガルガルと吠えている。
「誰もそんなことは言ってないぞ」
「言ってないですね」
「そうだっけ?」
フェム様とリオス様に指摘されると簡単に引き下がってはいたけどね。
「とにかくベリル様は酷くないということだ、兄者」
最終的にラソル様の抗議はルディア様によってバッサリ切り落とされていた。
「脱線しちゃったわ。
ごめんなさいねー」
軽い調子で謝ってからベリルママは話を再開した。
「結論から言うと、ラーくんは教習所に通うことになるのよ」
「「「「「は?」」」」」
話の再開早々に全員で間抜け面をさらしてしまった。
「教習所って……」
自動車の運転免許を取得するとかじゃないよなと思いながら、つい呟いていた。
「新神のための教習所よ」
俺の呟きに合わせるようにベリルママが言う。
周囲が静まり返った。
『新神って言ったよな』
間違いない。
だが、どうにも自信が持てなくて隣と顔を見合わす者が続出。
無言で聞き間違いなどではないことを確認し合っていた。
「「「「「ええ─────っ!?」」」」」
俺もビックリ、皆もビックリだ。
「神様って免許証が必要なんだね」
「教習所に通うからって免許証があるとは限んないでしょ」
ミズキとマイカが掛け合い漫才をしている。
絶妙なタイミングのボケとツッコミだ。
まあ、ミズキのは単なる天然ボケなんだが。
それにマイカも引きずられてしまっている。
『ツッコミどころはそこじゃねえだろ』
「あるわよ、免許証」
『あるんだ……』
「いやいや、そうじゃなくてですね」
ベリルママまで脱線しかけたのを、どうにか止める。
「新神ってどういうことですか?」
それを聞かないといけないだろう。
「ラーくんが管理神に昇格することになったのよ」
「「「「「なんだって────────っ!?」」」」」
さっきから皆で驚いてばかりだ。
「どどどどういうこと?」
「落ち着きなよ、マイカちゃん」
ミズキが混乱するマイカを宥めにかかっているが。
「イタズラを続けてたら神様になれるって、なんじゃそりゃあ─────っ!」
抑えきれていない。
俺も同感だけどな。
ラソル様のことをよく知る面子は、皆そうだと思う。
「教習所って、そんなに忙しくなるんですか?」
マイカを放置して念のための確認をする。
通うと言うからには戻ってくることが前提だと思うのだが。
通常業務がこなせなくなるほどであるなら相当だ。
「講義なんかはそうでもないんだけどね。
実習は課題が終了するまで続けられるから……」
「つまり、どのタイミングで終わるか読めないと?」
「そうなのよ。
特に仮免許の取得後は年単位で帰ってこられなくなるのが普通だし」
「おおぅ」
さすがは神様になるための教習所と言うべきか。
実習の時間が普通に年単位とは。
「あ、仮免あるんだ」
吠えていたはずのマイカが何気ない感じで入ってくる。
「あるわよ。
仮免許がないと教習所の外で実習できないもの」
そんなところまで自動車教習所に似ているとは思わなかったさ。
それ以上に教習所の外での実習という言葉に不安を覚えるんだけど。
『あのラソル様が神様として実際の世界で実習だって?』
仮免取得後の先のこととはいえ……
イタズラし放題じゃないのか?
読んでくれてありがとう。




