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887 次のチェックポイントでは……

 人魚組はあーでもない、こーでもないとやっていたけど……


「そこまで。

 時間切れだ」


 ツバキの宣言にガックリと肩を落とした。

 結局、絵は描けなかった訳だ。

 アスカミに絵心があっても描くべきものが分からなければ描きようがない。


「「「「「ああ~っ」」」」」


 あえなく撃沈した人魚組が落胆の声を漏らす。

 もちろん獲得ポイントは0点だ。


「この失敗は教訓にするしかなかろう。

 次の観察ポイントでは忘れぬよう観察するのだな」


 そう言いながらツバキが得点のスタンプを押す。

 ナギノエたちは、その数字を穴が空くほど凝視していた。

 なのにションボリ状態。

 無理と知りつつ、スタンプされた数字が増えないものかと願っているようにも見える。


 こういうゲームに不慣れな者たちが陥りやすい罠だ。

 意図的に仕掛けた罠ではないんだがな。

 それでも見ているだけのはずの俺が悪者に思えてくる。


「早く行かんと無駄にポイントが減っていくぞ」


 見かねたようにツバキが促した。

 ハッとしたように顔を上げる一同。


「いけませんね」


「はい、落ち込むのは後でもできます」


 ナギノエとヤエナミが表情を引き締める。

 そのやり取りを見て残りの面々も真剣な面持ちで頷いた。


「行きましょう」


「「「「「はい」」」」」


 ナギノエの呼びかけに返事をする一同。

 そうして彼女たちは再び歩き始めた。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 スクリーンを見ながら溜め息が漏れた。


「観察ポイントでは周囲をよく見るようにって注意されてたはずなのになぁ」


 思わず、ぼやきたくもなろうというものだ。


「しょうがないよ、ハルさん。

 ツバキ女史が言ったように彼女たちには教訓になったさ」


 トモさんは人魚組を庇っているっぽい。


「まあ、無駄ではないじゃろうな」


 苦笑するシヅカ。


「そうですよ」


 フェルトも同意した。

 皆の言う通りである。


「確かにな」


「それに良いネタを提供してもらったと思えば、逆に美味しいと思わないかい?」


 ちょっと意地が悪いことを言い出すトモさんだ。

 だが、そうやって弄ることで人魚組がより注意深くなることも計算に入れている。

 ちゃんと配慮はしているのだ。


「あんまり弄りすぎないようにね」


 相手から誤解されたりすることもあるから注意しないといけない。


「そうですよ、アナタ」


「お主は調子に乗って失敗するタイプじゃからな」


 奥さんであるフェルトだけでなくシヅカも分かっているようだ。


「お、おう……」


 トモさんが照れくさそうに返事をしていた。


「それじゃ、他のチームも見てみよう」



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 次に注目したのは黒猫3兄弟。

 チェックポイントで待ち受けるカーラの前にやって来た。

 横並びになって腰を落としながら右手を差し出す。


「「「姐さん、課題をお願いしやす」」」


「誰が姐さんだっ」


 カーラが威嚇するように牙を見せて唸った。

 まあ、冗談だと分かっているので本気ではないが。


「これが課題よ」


 スパッと切り替えて背後のホワイトボードを引っ繰り返す。


「おっ、文章問題ですかい」


 ニャスケが待ってましたとばかりにニヤリと笑う。


「兄者、俺はこういうのより絵を描く方がいいなぁ」


 ニャンゾウが少しだけ渋い表情をした。


「そうか?」


「そうだよ。

 遊ぶときまで勉強っぽいのはなぁ」


「ハハハ、そりゃあ言えてる」


「とりあえず読もうぜ、兄者たち。

 時間がもったいないよ。

 タイム計測もしてるんだしさー」


 そう言ったのはニャタロウだった。


「「それもそうだ」」


 2人の兄が末っ子の意見に同意する。


「えーっと、なになに?」


 ニャンゾウが首を突き出してホワイトボードの文章を読み始める。


「まずは……

 池の前に5リットルと3リットルが量れる容器がある、か」


「読めたぞ」


 ニャスケが再びニヤリと笑う。


「容器とは異なる量の水を確保するって問題だな」


「そうみたいだな。

 これらの容器だけを使って4リットルの水を確保せよだってさ」


「俺、この問題の答え知ってる」


 ニャタロウが呟いた。


「「ならばニャタロウが答えるといい」」


 2人に促されて頷くニャタロウ。


「まず、5リットルを量る」


「「ほうほう」」


 2人が相槌を打つ。

 カーラは無表情で黙ったままだ。

 表情から正解が読まれないようにしているからだろう。


「その水を3リットルに流し込む。

 そうすると2リットルが残る。

 3リットルを空にしてから2リットルを流し込む」


「「おおっ」」


 2人にも答えが分かったのだろう。


「そうすると3リットルの容器には1リットル分の空きが残る」


「「うんうん」」


 ポイントゲットを確信してか、ニャスケとニャンゾウから笑みが漏れ出していた。


「後は5リットルをすくってから空きの分を流し込めば4リットルが残る」


「「よっし! 正解だ」」


 2人がガッツポーズを決めた。


「まだよ」


 そこにカーラが釘を刺す。


「3リットルから量る方法も答えてね」


「「なんとぉ─────っ!?」」


 仰け反るニャスケとニャンゾウ。


「それも知ってる」


「「おおっ、やるではないかニャタロウ!」」


 兄たちは一喜一憂している。


「3リットルを2回すくって5リットルへ移す」


「なるほど、分かったぞ」


 ニャスケがポンと手を叩いた。


「俺も分かった」


 ニャンゾウが頷く。


「じゃあ、兄者たちが答えるといい。

 俺はもう答えたからな。

 手柄の独り占めは良くない」


「おし、任せろ」


 何故か腕まくりをするニャスケ。


「俺も、俺も」


 同じように腕まくりをするニャンゾウ。


「2回目で1リットルが余るから、これを移し替えればいいんだ」


 そこまで言ったニャスケがニャンゾウを見る。


「5リットルを空にして流し込めば、最後の仕上げだよな」


 兄を見返したニャンゾウが頷きながら行った。


「その通りだ」


 ニャタロウが頷く。


「「後は3リットルをすくって1リットルに追加するだけだ」」


 最後は2人で答えていた。

 いつも一緒の兄弟だけあって息もピッタリである。


「正解だ」


 ニャタロウは淡々と告げた。


「「よおし、パーフェクト達成だ!」」


 そう言いながらニャスケとニャンゾウがハイタッチした。

 喜びを全身から発散するかのようだ。


「違うと思うぞ、兄者たち」


 ニャタロウだけはテンションが上がらない。


「「なんでだっ!?」」


 水を差された格好になった2人が弟に詰め寄る。


「俺にも分からん」


 ニャタロウの返事に2人はガクッとずっこけた。


「「はあっ!?」」


 訳が分からんとばかりに声を裏返らせる。


「これ以外に答えがある訳ないだろ」


「そうだぞ」


 ニャスケの言葉に同意するニャンゾウ。


「俺だってそう思いたいよ」


 ニャタロウはそう言いながらも嘆息した。


「けどなぁ……」


 カーラの方を見る。

 2人も釣られるようにして目を向けた。


「それだと満点はあげられないわよ」


 カーラの言葉にニャタロウが落胆の溜め息をつく。

 兄2人が解答しているときにカーラの様子も見ていたからこその反応だ。

 正解を言っているはずなのに反応が薄いことに嫌な予感を覚えたんだろうな。


 だから淡々と正解を告げたのだ。

 まだ終わりじゃないと。

 そこに理由も根拠もない。

 それでも肌で感じ取ったものを信じた訳だ。


「「何故っ!?」」


 解答することに夢中になっていた2人には信じられないようだが。


「何故でも答えは、まだあるから」


「「「マジっすか……」」」


 3兄弟が頭を付き合わせて考え始める。

 だが、煮詰まったも同然の状態だった。

 簡単には答えが出てこない。


 それなりに時間が経過したところで──


「容器をそれぞれ45度に傾けるとか、どうだ?」


 ふと気付いたようにニャスケがそんなことを言い出した。


「「おおっ、半分ずつで4リットル!」」


 今度はニャンゾウとニャタロウがハイタッチの体勢に入った。


「まだ、あるわね」


 すかさずカーラが告げたことで、ずっこけて空振りに終わったけど。


「「「マジっすか!?」」」


「マジよ」


 驚いて詰め寄る3兄弟に素の状態で返すカーラ。


「あ、それと時間切れだから」


 更にとどめの一言である。

 3兄弟がガックリと地面に手と膝をつくのであった。


読んでくれてありがとう。

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