886 見学者と参加者
疲労回復ポーションを使った後の女子組はちゃんとダッシュを封印していた。
それだけでウォークラリーの運営がやりやすくなったように感じる。
実際に働くのは俺じゃないんだけど。
「歩いているのを見るだけだと物足りないね」
トモさんがそんなことを言ったが、もっともな意見である。
「仕方なかろう。
森の中なんじゃから」
シヅカが返答したような状況だからだ。
大して変化がないのでは数分も見ていれば飽きてしまう。
変化があるにしてもコース図に合わせて作った分岐した道程度。
コマ図と言われる記号のような図を元に正解の道を探りながら進む。
遭難は避けたいので難しいものにはしていない。
それでも、いくつかの女子組チームが焦って道を間違えたりしたけどね。
間違った場合はすぐに行き止まりになるようにしているので、すぐに復帰してきたけど。
「もうしばらくの辛抱ですよ」
フェルトがどうにかフォローしようとそんなことを言った。
観察ポイントやチェックポイントに到達することを期待しているのだろう。
そういう場所なら確かに変化もあるけど。
「現在位置を見る限りだと──」
トモさんがスクリーン上に表示させたマップに視線を向けた。
コースのラインといくつかの色分けされた光点が表示されている。
赤い点は各自動人形の現在位置。
緑色は観察ポイント。
黄色い点はチェックポイントである。
当然のことながら赤い光点がジワジワと移動していた。
ほとんど等間隔である。
スタートの待ち時間の差が維持されている訳だ。
こんなことでもスタートダッシュに意味がなかったことが証明されてしまう。
「どのチームも時間かかりそうだよ」
トモさんの言うようにポイント到着はしばらくなさそうだ。
「コース設定をミスったなぁ」
思わずぼやいてしまった。
「こうして見ると後半にポイントが偏っておるな。
主よ、デッドヒートを演出しようとしたのじゃろ?」
シヅカの言う通りである。
「ああ、その通りだよ」
「極端すぎたね」
トモさんの指摘が耳に痛い。
「後半で飽きが来ないようにという配慮も感じられますが」
フェルトがフォローしてくれる。
だが、そのような事実はない。
「残念だが、そこまで考えていない。
単純に面白そうだからそうしたまでだ」
前半の延々と続く道程のことは、ほぼ無視していた。
「後悔している。
反省はしていない」
「「おいっ!」」
トモさんとシヅカのダブルでツッコミが入った。
「ハルさん、かますなぁ」
苦笑するトモさんである。
「反省しなければ次も同じミスをするではないか」
シヅカが真面目なことを言ってくるが、そういうことではないんだよな。
「後悔してなきゃ、またやりそうだよ」
「どちらにせよダメではないか」
トモさんの指摘にシヅカが呆れた視線を向けてくる。
「いや、冗談なんだけど」
そう言うとシヅカには苦笑されたけどね。
一方でトモさんは少し考えるような仕草を見せる。
しばし考え込んで──
「なるほど!」
ポンと手を叩きながらトモさんが言った。
「どうしたのですか、アナタ」
フェルトが問いかける。
「冗談という言葉でハルさんの言いたかったことが分かったんだよ」
「言いたかったことですか?」
フェルトが俺の方を向いた。
「そんな深い言葉であったか?」
シヅカが怪訝な表情を浮かべる。
「いや、そんな大層なことじゃないよ。
単にギャグを重複させているだけだから」
「よく分かりませんが?」
「重複しているようには思えんぞ、主よ」
そんなに注目されると実に言いづらい。
こういうのは面と向かって言うようなことじゃない。
「ギャグだけに逆とか言ってみる今日この頃」
そっぽを向きながら言ってみた。
「「……………」」
女性陣は呆気にとられている。
盛大に滑ったのは間違いないだろう。
実に寒い状況だ。
真冬の北風にさらされた気分である。
身構えて聞かれると、こうなるのは分かっていたさ。
俺としてはサラッと流してもらえればと思っていたのに。
ついトモさんに恨めしい視線を送ってしまう。
『おにょれ~』
視線を受けた本人は吹き出しそうなのを堪えていたせいで気付いていなかったけど。
なんか身悶えているし。
これは俺の発言が面白かったからじゃない。
予想通りに俺が滑ったことが面白かったのだ。
そうなると、仕返ししてやりたくなる。
つまらんことを考えた俺の自業自得なんだがね。
それでも被害を拡大させてくれた礼はしたいところだ。
まあ、この状態なら笑わせてしまえば腹筋崩壊でしばらく苦しむだろう。
『何かネタはないものか』
ひとつだけ閃いたものがあったが、笑うかどうかは微妙だ。
ギャグではないしトモさんにしか通じないネタだからな。
「ここで永浦氏なら「おい、笑え」とか強要するんだろうけどさ」
『どうだ?』
トモさんが更に身を捩る。
耐えているようだ。
「ブハッ!」
そして堪えきれずに吹き出した。
「永浦くんを使うなんて反則だー」
そう言うなりゲラゲラと笑い出す。
「滑らせてくれた礼だ。
これで痛み分けとしようじゃないか」
じっくりと堪能してもらわないとな。
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結局、観測点を増やすことになった。
斥候型自動人形を倉庫から転送魔法で指定した所に送り込んだ。
各ポイントは注目ポイントなので言わずもがなである。
後は臨時生徒のチームと臨時講師たちの所へも。
後者は必要なさそうに思えるかもしれないが連携用だ。
万が一の事態になった場合、映像情報があった方が対応しやすいからな。
さすがに先程のような不測の事態はもう発生しないとは思うけどね。
転送した自動人形たちは即座に活動を開始した。
すぐにスクリーンに反映される。
「お、画面が細かくなった」
トモさんがスクリーンを指差しながら言った。
「じゃが、細かすぎて見づらいのう」
確かにシヅカの言う通りだ。
分割画面が細かすぎる。
俺は幻影魔法の術式を変更して対応することにした。
スクリーンを拡大。
これで大と極小だった画面分割を大と小へと修正。
「少し見やすくなったかな」
首を捻るトモさん。
「じゃが、ゴチャゴチャして別の意味で見づらいのじゃが?」
「数が多いからね」
更にいじって大と中と極小へとサイズと分割方法を変更。
極小は静止画像にして見出し代わりにする。
何か変化があったら中サイズの分割画面と入れ替えるようにした。
「とりあえずは、これで様子を見よう」
今現在、中画面にはそれぞれ生徒がいるポイントが映っている。
それぞれ課題が出されようとしているところだ。
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ハイアラックネのツバキが待ち受けるチェックポイントに人魚組のチームが到着した。
このチームにはヤエナミやナギノエたちがいる。
最近は、学校に通いつつ農業関係で頑張っていた。
陸上の生活が楽しくて仕方ないようだ。
「ここでは代表者に絵を描いてもらうぞ」
ツバキが赤い瞳をキラリと輝かせ不敵な笑みを浮かべた。
人魚組の一同がたじろぐ。
自信なさげに互いの顔を見合わせていた。
「ヤエナミ、描けそう?」
「無理言わないでください、ナギノエ様。
我々が絵を描く機会なんて今までなかったじゃないですか」
「マリナミは?」
「上手には描けませんよぉ?」
「じゃ、じゃあ、クノミカ」
呼ばれたクノミカは無言で頭を振る。
「ユリノエはー……」
目を閉じて何も言わないユリノエ。
「立ったまま寝たふりしないでよ」
仮に目を開いても眠そうな顔をして反応しないだろうが。
残るは1人。
一縷の望みを託すように全員が視線を向けた。
「アスカミ?」
ナギノエが怪訝な表情で最後の1人に呼びかける。
用意されていたスケッチブックにサラサラと何かを描き込んでいくアスカミ。
呼ばれたことには気付いていないようだった。
なかなかの集中力だ。
「これでどうですか?」
仕上げてからツバキに見せる。
それはツバキの肖像画であった。
「「「「「上手ぅー」」」」」
写実的で見事な出来だ。
「これは見事ね」
感心したように頷きながらナギノエが褒めた。
「ありがとうございます……」
アスカミはそんな風に言ってもらえるとは思っていなかったらしい。
物凄く照れくさそうにしていた。
『まあ、地味子さんだしな』
俺も見た目も性格も地味だからという理由で失礼なあだ名をつけている。
なんにせよ、意外な特技と言えるだろう。
ヤエナミたちは絵を描いたことがないと言っていたから、学校で覚えたのかもしれない。
「見事なものよな」
ツバキも感心している。
「が、描いてほしいものは違う。
先程の観察ポイントで見たであろう風景だ」
盛り上がっていた人魚組の一同が固まってしまった。
ろくに観察していなかったのがバレバレである。
もちろんコースを引き返すことは許されない。
読んでくれてありがとう。




