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885 スタートダッシュなどするものではない

 シヅカが電話で他の臨時講師たちに連絡を取っている。

 スタートダッシュのせいでヘロヘロになっている生徒たちに対応させるためだ。


 自動人形の中継から位置は割り出せるので仕事としては楽だとは思う。

 その分、俺が情報提供していることが言わなくてもバレてしまうのだけど。


「どうやらハルさんの保険が無駄にならなかったみたいじゃないか」


 大半の女子組がトモさんの指摘通りの状況だ。

 走れるところまで走った。

 根性はかなりのものだとおもうし、そこだけは評価に値する。


 が、歩くことすらままならなくなるまで走るのはどう考えても計画性がなさ過ぎだろう。

 当然のことながら座り込んで回復待ちに時間を費やしているのが現状だ。


 彼女らの消耗具合を見れば全般を通して歩いた方が早くゴールできると思う。

 仮に同じくらいのタイムだったとしても後の疲労度が変わってくる。

 競技が終わると飯ごう炊さんもあるというのに……


『ほとんど余力を残さず走りきるとか何を考えているんだか』


 そのくらい消耗していた。

 プレッシャーに負けてしまったことは明白だ。


『まったく、焦りすぎだ』


 短期間で強化するとは言ったが、何から何まで全力でやれとは言ってない。

 むしろメリハリをつけるように言ってあったくらいだ。

 午前中の特訓でそのあたりが飛んでしまったのは容易に想像できる。


「そのかわり後で奥さんたちに何を言われるやら」


「そりゃあ決まってるよ」


 得意げにトモさんが言った。


「何さ?」


「過・保・護、だよ」


「くっ」


 もはや否定できないのが悔しいところだ。


「認めたくないものだな」


 思わず口をついて出る言葉は無意識のものだった。

 が、それをトモさんは拾う。


「自分自身の若さ故の過ちというものを」


「赤い人の台詞を言ったつもりはないんだが」


「ハッハッハ、気にしてはいけない。

 これは条件反射というものだよ」


「ホントかよぉ」


 ちょっとゲンナリだ。

 これで本当に奥さんたちから過保護なんて言われたらガックリきそうである。

 そうならないことを願いつつスクリーンを見た。


「お、子供組だ」


 6チームのうちのひとつに近づいている。

 クローズアップして音声も拾うとしよう。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 4人組のチームが座り込んでいるところにシェリーがタタタッと駆け寄った。


「「「「ふぁっ!?」」」」


 気配や足音を消して近寄った訳でもないのに慌てた様子を見せる4人組。

 周囲の目配りができていない証拠である。


 まあ、今は遊びの時間だし咎めるつもりはない。

 それについては、だが。


「お姉さんたちー」


 シェリーがしゃがみ込んでコテンと首を傾げながら声を掛けた。


「大丈夫ー?」


「大丈夫かニャ」


「大丈夫なの?」


「「大丈夫?」」


 後から追いついてきた子供組の面々が同じようにして問いかける。

 が、4人組には余裕がなかった。


「「「「……………」」」」


 言葉を失った状態で固まっている。


「おーい」


 シェリーが1人の眼前で手を振って呼びかける。


「ひゃうっ!?」


 飛び上がらんばかりに驚く女子冒険者。


「アハハ、ビックリしたー」


 笑いながらそんなことを言っても説得力がない。

 が、女子冒険者にはそこまで読み取る余裕はなかった。


「あうはぅー……

 ごごごめんなさいっ」


 焦ったようにワタワタと手を落ち着きなく動かして謝っている。


「別に怒ってないよー?」


 不思議そうに首を傾げるシェリー。

 どうして謝っているのか分からないのだろう。


「ええっと、その……」


 語るべき言葉が見つからずに目を泳がせる女子冒険者。


「「「「「んー?」」」」」


 子供組が一斉にコテンと首を傾げる。


「あううぅっ……」


 待ちの体勢に入った子供組を前にして女子冒険者はテンパってしまった。

 沈黙の間が続く。

 女子冒険者はダラダラと冷や汗をかいているっぽい。


『あー、これは待つだけ無駄だな』


 精神的に追い詰められてしまって余裕のよの字を取り戻すこともままならない状態だ。


「で、お姉さんたちどうしたの?」


 結局はシェリーが質問した。

 このままでは話が進まないと悟ったようだ。


「えっと、えぇっとぉ……」


 どうにか答えようとする女子冒険者。

 だが、頭の中は真っ白になっているらしく満足に答えられずにいた。


『その状態でよく質問が聞き取れたものだな』


 ギリギリのところで判断力が残っているようだ。


「お腹が痛いのかニャ?」


 なかなか答えられない女子冒険者にミーニャが問いかける。

 ブルブルと首を横に振ることで、どうにか返事をしていた。


「それとも足を痛めたの?」


 続いてルーシーが次の質問をする。

 それにも女子冒険者は頭を振って答えた。


「「固形ポーションいる?」」


 ハッピーとチーが回復用ポーションを差し出すが。


「だだだ大丈夫ですっ」


 ようやく言葉で返事をして断っていた。


「「「「「あれえーっ?」」」」」


 女子冒険者たちが座り込んで辛そうにしている理由が分からずに首を傾げる子供組一同。

 そこに駆け寄ってくる影がふたつ。


「レオーネとリオンだニャ」


 ミーニャがそう言いうと同時に2人が現場に到着した。

 子供組が2人を取り囲む。


「何だ、どうした?」


「ええっ!? ちょっと、何?」


 到着するなり身動きの取れない状況になってレオーネとリオンが泡を食う。


「この人たち、つらそうニャ」


 レオーネたちを見上げるミーニャが女子冒険者たちを指差す。


「助けてニャー」


 訴えるミーニャ。


「助けてあげてなの」


 ルーシーも懇願する。


「「助けてー」」


 ハッピーもチーも瞳をウルウルさせて頼み込む。


「でも、疲れ切ってて喋ることもままならないみたい」


 そしてシェリーが女子冒険者たちの状態を報告する。


『なんだ、分かってるじゃないか』


 思わず苦笑が漏れた。

 横を見ればトモさんたちも同じように苦笑いだ。

 シヅカなどは呆れ顔であった。


「彼奴らは本当にしょうがないのう。

 最初に疲労回復ポーションを渡しておけば良かったのじゃ」


 しかもスクリーンに向かってツッコミを入れている。

 向こう側には聞こえないから独り言になってしまうんだがね。


「それだとあんまり意味がなかったと思うぞ」


「何故じゃ?」


「またダッシュするに決まってるからだよ」


「それは否定できぬな」


 渋い表情で唸るシヅカ。


「まあ、レオーネたちのお手並み拝見だ」


「そうしようかの」


 俺たちは再びスクリーンへと視線を戻した。

 ちょうど子供組の包囲網が解けたようだ。


「何故こうなったかは分かっているわね」


 レオーネが女子組の前に進み出て少し冷たさを感じさせる口調で告げる。

 子供組はその姿をハラハラした様子で見守っていた。

 声を掛けようとしたらリオンにウィンク付きで止められたからだ。


「「「「はい……」」」」


 意気消沈した様子で答える女子冒険者たち。


「今回は警告で済ませます」


 そう言いながら疲労回復ポーションを配布する。


「次も同じことをしたら大幅に減点しますよ」


「「「「はひっ」」」」


 厳しめに言われた女子冒険者たちがビシッと姿勢を正す。


「それでもダメなときは晩御飯ぬきですからね」


 レオーネは最後に一瞬だけ軽く凄んでみせた。


「「「「ひ─────っ」」」」


 隣同士で抱き合うように震え上がる女子冒険者たち。

 その程度で済んでいるのは殺気がこもっていなかったからだろう。

 子供組を前にしている状況で震え上がっていたことを考えると絶妙な加減と言える。


『まあ、午前中にあれだけ自力の差を見せつけられたらな』


 それでいてレオーネには緊張しながらも普通に接することができているのが不思議だ。

 最初から教え導く側の人間として見ているからだろうか。

 よく分からないが、知っても意味はなさそうなので追及はしない。


「では、その固形ポーションを使い速やかに競技に復帰するように」


「「「「はいっ」」」」


 ビビりながらも指示通りにポーションを口にして復帰していく。

 シワシワになった顔のままで立ち上がって早足で去って行った。


「疲れてただけニャ?」


 ポカーンと見送っていたミーニャがリオンに問うた。


「ええ、そうよ」


 苦笑しながら肯定するリオン。


「「「「「なーんだ」」」」」


 脱力する子供組一同であった。

 こんな具合に他の女子組も似たような状況で復帰していく。

 子供組のように生徒側から接触するということはなかったけどね。


「思った以上に臨時講師の手際が良かったようじゃな」


 横で見ていたシヅカが再び口を開いた。

 感心したように、うんうんと頷いている。


「あのなぁ……」


 苦笑と溜め息が同時に出てしまう。


「なんじゃな?」


「シヅカも臨時講師だろう。

 自画自賛しているように聞こえるぞ」


「何を言い出すのかと思えば……」


 溜め息を返されてしまった。


「妾のことなど端から除外しておるわ」


 ドヤ顔でニンマリと笑みを浮かべるシヅカであった。


読んでくれてありがとう。

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