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881 それは本当に臨海学校か?

 砂浜を生徒たちがダッシュしている。


「もっと全力で走れー!」


「魔法の制御を忘れたらアカンでー!」


 レイナとアニスはスパルタ主義のようだ。

 併走しながら同じことをしているけどな。

 自分たちが修行を始めた頃のことを思い出しているのかもしれない。


 一方でミズキとマイカは砂浜の両端で座禅を組んでいた。

 ベリルママの可変結界を真似しているようだ。


『最大負荷は3倍くらいかな』


 それでもレベル515だと維持できる時間は長くはなさそうである。

 効果範囲を考えると仕方のないところか。


 かなり消耗するようだし。

 そのために2人がかりで交代して張り直している。

 座禅を組むのは魔力回復を促進させるためだろう。


「待っている間も魔法制御を忘れてはいけない」


 スタート地点でダッシュ待ちの列に向かって声を掛けるノエルさん。

 こちらも厳しい。

 へばっている相手には治癒魔法を使っているけどな。


 そういう面子は結構多い。

 中でもヘトヘトになっているのは風と踊るの面々を初めとした女子組だ。


「きついっす」


「厳しいっす」


「めげそうっす」


 ダッシュが終わった3人娘が砂浜に倒れ込む。


「「魔力の制御を手放しちゃダメだよぉ」」


 ゴール地点にいたメリーとリリーがすかさずチェックに入った。

 そうは言うが、魔法が使えるようになったばかりでは魔力制御も容易ではない。


「走り終わってもー、気を抜いちゃダメですよ~」


 スタート地点へ戻る面子を見ていたダニエラも声を掛ける。


「ここで気を抜けば身につくものが大きく減るぞ」


 ルーリアがダニエラの後を引き継いで3人娘たちを注意した。

 この言葉が効いたらしく──


「「「うぃーっす」」」


 返事をしながら3人娘はノロノロとだが立ち上がる。

 そして、どうにか魔力制御を再開。


『昨日まで魔法の習得に難儀していたとは思えない上達ぶりだな』


 もちろん、初心者レベルとして見た場合のことだ。

 臨海学校が終わる頃までにそこを卒業できれば充分だろう。


 うまくすればレベル80くらいに達するだろうか。

 婆孫コンビにも及ばない。


 そしてあの2人も来ているからにはレベルが上がる。

 差は簡単には縮まらないだろう。

 が、たかが数日ということを考慮に入れて考えれば驚異的な成長だ。


 もちろん並大抵のことではレベル80まで到達できない訳で。

 参加生徒の中で最もレベルが低いが故に大変な思いをしている訳だ。


 逆にそうであるからこそ可変結界での負荷は等倍なんだが。

 仮に倍とは言わないまでも何割か負荷がかかっていたら今頃はダウンしていただろう。

 そういう意味では妻組のさじ加減は絶妙だと言える。


 3人娘たちに続いて残りの風と踊るの面々がゴールラインを超えた。

 同時に出発した他の女子組もやや遅れてゴールしていく。


 倒れ込みはしなかったが、かなりキツそうだ。

 誰もがゼーハーと激しく喘いでいた。

 無表情がデフォルトのウィスでさえ顔を歪めているほどである。


「「はーい、キツいからこそ魔力制御だよー」」


 双子ちゃんたちは明るく言っているものの生徒たちには厳しい御言葉だろう。

 魔法で負荷をかけながらのダッシュは、朝からもう何本も行われているのだ。


 魔力制御をすることで魔力の回復は促進される。

 が、身体的な疲労は蓄積していく一方だ。


 離れた場所から見学している身としては見守ることしかできない。

 応援のために声を掛けるのも休憩時に限られるし。

 でないと皆の集中を乱してしまいかねない。


「なあ、ハルさんや」


「なにかね、トモさんや」


 まるで爺婆の会話のような語り出しである。


「これは臨海学校なんだろうか?」


「えっ、違うんですか?」


 フェルトが驚きを露わにして聞いてくる。

 知らないから無理もないけど。


「どう見ても運動部の合宿だよ」


 トモさんのツッコミが的確だ。


「否定はしない」


「ドウシテコウナッタ?」


 わざわざ仕事用の声を使ってそんなことを聞いてくるトモさんである。


「いや、強化合宿とか言ったら新人たちが畏縮しそうな気がしたから」


「ものは言い様という訳かい?」


「一応は嘘にならないよう、後でフィールドワークとかもするぞ」


 今回の臨海学校で運営には関わらないようにしているが内容は把握している。

 企画立案は俺だからな。


「何をするんですか?」


 興味深そうにフェルトが聞いてきた。


「まずはウォークラリーかな」


「ウォークラリーですか?」


 キョトンとした表情で聞き返される。


「屋外で行うゲームというか娯楽の一種だな。

 コース図と呼ばれる簡略化されたアイコンの指示を頼りにゴールを目指すものだ」


「スポーツではないのでしょうか?」


「何だかオリエンテーリングとの違いがよく分からないんだけど」


 夫婦で質問コンボが来た。


「スポーツと言えなくもないけどね。

 移動する速さを競うオリエンテーリングとは決定的に違う部分がある」


「「それは?」」


「ウォークラリーにも勝敗はあるが移動時間だけでは決まらない」


「そうなんだ」


 トモさんが妙に感心しつつも首を捻っている。

 何か記憶に引っ掛かるものがあるようだ。


「課題がいくつか設定されていてクリアしたポイントも加味される。

 途中で観察が必要な場所なんかもあって後に出てくる課題に関連しているんだ」


「そうかー、あれはオリエンテーリングじゃなくてウォークラリーだったんだ」


 どうやらトモさんは混同していたようだ。

 俺も長らくそうだったんだけどね。

 違いを知ったのは大人になってからだった。


「やったことあるんだ」


「中学の頃にね。

 それっきりだけど」


「俺もそんな感じだったよ」


 出身地が違っても似たようなことをやるものだと少し感心させられた。


 が、フェルトがほったらかしなのはよろしくない。

 このあたりで切り上げておこう。


「あとね、ウォークラリー以外にもイベントは考えているよ」


「何ですか?」


 手持ち無沙汰だったフェルトが聞いてきた。

 その前にトモさんが引くような気配を見せたからというのもあると思う。

 トモさんはフェルトに分からない話題で軽く盛り上がったことに気が引けているようだ。

 なんだかんだ言って気配りを忘れない男である。


「飯ごう炊さんとキャンプだな」


「耳慣れない言葉です。

 飯ごう炊さん、ですか……

 キャンプはテントを張って寝泊まりすることですよね」


「ぶっちゃけると飯炊きと野営なんだけどな」


「ホントにぶっちゃけたっ」


 トモさんがたまらずといった感じでツッコミを入れてきた。

 フェルトは困惑している。

 そりゃそうだろう。


「それって普通に野営するのと何が違うのでしょうか?」


 こういう風に聞かれるのは明白だからだ。


「悲報、臨海学校が偽装されていた件について」


 トモさんが妙なツッコミを入れてきた。


「偽装じゃないぞ。

 合宿的要素が含まれた臨海学校だと言ってくれ」


「だって、ただの野営じゃないかー。

 ブーブーなブーイングものだぞー」


 トモさんがブーたれる。

 ただ、その口振りは棒読みチックだ。

 本気じゃないという配慮はしているらしい。


「ほほう、ただの野営だって?」


 そんなことしようとすれば現場の人間からクレームがつく。


「そうだー。

 ただの野営だー」


 棒読み風味のまま拳を突き出してコールを始めるトモさん。

 完全に遊んでいる。


『よかろう。

 ならば遊びに付き合おうじゃないか』


「飯ごう炊さんのメニューと言えば?」


「っ!?」


 一瞬の間があった。

 想定外の問いかけだろうから無理もない。

 むしろ、そこから──


「カレーライスー!」


 ノリノリで拳を突き出してコールした反応は見事だと思う。


 ただし、良く通る声であったのは明らかにミスだ。


「「「「「っ!?」」」」」


 魔法で向かい風を制御しながら砂浜ダッシュを繰り返す面々の耳に届いてしまったさ。

 ダッシュ待機中の何人かがシュババババッと参上してきましたよ。


 可変結界の3倍負荷もなんのそのといった具合である。

 まあ、いつものようなキレはさすがになかったがね。


 ちなみに呼んでもないのに参上したのは主に妖精組だ。

 中でも真っ先に飛び込んできたのは子供組だった。


「カレーにゃ!

 カレーにゃ!

 お祭りニャー!」


 興奮した三毛猫なミーニャが実に嬉しそうだ。

 えらいやっちゃな感じで小刻みに跳ねるような感じで踊っている。

 確かにお祭り状態だった。

 カレーとお祭りの因果関係がよく分からんがね。


「バンザーイ!

 トロットロのカレーだよー」


 シェルティー顔のシェリーが俺の周りをちょこまかと駆け回って喜んでいる。

 カレーは飲み物派には反論されそうなことを言っているが。


「陛下ー、晩御飯はカレーなのー?」


 ロシアンブルーなルーシーが俺の顔を下から覗き込むように聞いてきた。

 昼は弁当だと予告されているから晩御飯と推理したようだ。


「「カレーですか?」」


 両サイドからチワワなチーとパピヨンなハッピーが追随するように聞いてくる。


「おうよ、自分たちで協力して作るんだぞ」


「「「「「やった─────っ!!」」」」」


 俺の返事に子供組一同が喜びを爆発させた。

 いや、俺の前に飛んで来た全員が、だ。


「それだけじゃないぞ」


 バンザイを連呼し始めていた妖精組がピタリと止まった。


「砂浜でテントを張ってキャンプファイヤーだ」


「「「「「ヒャッホ────────ッ!」」」」」


 奇声を上げて何処かの原住民のように踊り始める。


「子供だねぇ」


 トモさんがそんなことを言うが、その目は微笑ましいものを見るそれだ。


「だって子供だぞ」


「ハッハッハ、そうだった」


 わざとらしく笑うトモさん。

 これはツッコミを入れられることを狙っての発言だな。

 しかしながら本物のツッコミはここからだ。


「これでも、ただの野営と言えるかね?」


「「「「「違いまーすっ!」」」」」


 返事を聞きたいはずのトモさん夫婦ではなく妖精組が挙手をしながら即答した。


「違いますね」


 遅れて苦笑しながらフェルトが答えると──


「ただの野営は撤回しよう」


 トモさんも続く。


「これはもはやスペシャルな野営だっ」


 何故かガッツポーズで主張してきたけど。


『妖精組のノリに感化されたな』


 まあ、楽しそうだから特に止める理由はないさ。


読んでくれてありがとう。

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