878 ようこそ、ミズホ国へ『ジェダイトシティ・後編』
城での宿泊が初めてということもあって多いに盛り上がる3人娘。
だが、何時までもそのままという訳にはいかない。
朝食を食べた時間が早かったこともあって、お腹が鳴ってもおかしくないしな。
「盛り上がるのはそのくらいにしておけー。
飯を食う時間がなくなるぞー」
「「「はーい」」」
素直に応じる3人娘である。
「それじゃあ昼飯に行くか」
「「「うぃーっす」」」
ホントに軽い。
微妙に滑っている気がするのだが、当人たちは気にしていないようだ。
なんにせよ予定している食堂へと向かう。
皆もちゃんと後ろを付いて来た。
ただし、落ち着きはない。
あっちを見たり、こっちに気を取られたり。
それは他の面子も同じらしい。
「あの、ひとついいですか?」
歩きながら女子冒険者の1人がおずおずと手を挙げた。
「何かな?」
クルリと体の向きを変える。
そのまま立ち止まらずに後ろ向きで歩く。
ここでムーンウォークでもやってみようかと気紛れを起こしたのだが。
「「「危ないっすよ」」」
すかさず3人娘が注意してくれたので調子には乗らないでおく。
単に歩くだけでも特に問題はないんだが、周囲にはそう見えてしまうのは仕方がない。
ムーンウォークなど驚いてはくれるだろうが、余計に心配させてしまうだけだ。
今の状態でも質問しようとしてきた女子冒険者などは申し訳なさそうにしている。
「じゃあ、これで」
理力魔法で地面から少し浮いた状態でスルスルと移動する。
女子組は揃って大口を開けた状態になった。
「魔法で飛んでいる。
後ろの状態も把握できているから心配は無用だ」
質問ちゃんに向けてウィンクして見せた。
「は、ぁ……」
呆気にとられてはいるが、移動しているからか完全な放心状態にはならなかったようだ。
「それで聞きたいことがあるんじゃないのか」
俺がもう一度、声を掛けると質問ちゃんも我に返った。
些か泡を食ったような様子でアタフタとした後で、気を取り直して聞いてくる。
「この地面、石じゃ無いような気がするんですが」
そう言って舗装路を一瞥した。
「目の付け所がいいな。
そう、石材じゃない。
この舗装路は魔物の素材で作られている」
「「「「「おーっ」」」」」
皆が感嘆の声を上げ、内壁の外側とは異なる舗装路に注目する。
「じゃあ、建物の屋根も魔物の素材ですか?」
質問ちゃんの言葉に今度は皆の視線が上を向いた。
見るものすべてが物珍しいからこその反応だろう。
それほど内壁の内と外では差がある。
外側は西方人にあまり違和感を感じさせないように配慮しているからな。
異国情緒が感じられるようにしているが元のジェダイト王国風である。
西方人にとっては、まだ馴染める感じだ。
一方で内側はミズホ色が色濃く出ている。
建築様式にしてもまるで違う訳で。
舗装路や屋根瓦が目立つのは当たり前と言えた。
「言われてみれば道と屋根が似た色をしてるわね」
「そうかなぁ?」
「そのものって感じじゃないね」
「でも、似てる」
「確かに同じ材料を使っていそうにも見えるけど」
誰かが、そう言ったところで俺に視線が戻ってきた。
「あれは瓦といって煉瓦のように焼いて作ったものだ」
「「「「「おぉ───っ」」」」」
再び感嘆の声が上がる。
「色が似ているだけだったんだぁ」
女子冒険者の1人が残念そうに言った。
「意外なような」
「そうでないような」
顔を見合わせながら、そんなことを言っている女子冒険者たちもいる。
その後は、あれこれと質問を受け付けることになった。
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「はいよー、到着ぅー」
結局、後ろ向きで浮遊しながら目的の食堂の前まで来てしまった。
すれ違う国民たちには生暖かい視線を向けられつつ挨拶されたよ。
思い出すと微妙な気持ちになるので、着地して店の前に立つ。
「と、透明な扉だ」
「これ、どうなってるの?」
「凄ぉーい!」
質問タイムのお陰で慣れたのか3人娘たちよりも先に女子冒険者たちが反応した。
「やっぱり魔物の素材なのかな?」
なかなか鋭い者がいる。
自問する感じなので答えなかったが、魔物樹脂製だ。
「この扉も自動で開くから固まったりするなよー」
先に予告して1歩前に踏み出した。
スッと横に開くドア。
「「「「「おおーっ!」」」」」
どよめく一同。
「ホントに開いたぁ」
「これこそ、どうなってるの?」
「たまげたなぁ、もー」
などなど、発する言葉は様々だが皆一様に驚いていた。
「ほら、行くぞ」
「「「「「はーい」」」」」
促すと、先程とは違ってついて来てくれた。
予告は大事だね。
無駄な時間を費やさずに済んださ。
とにかく中へと入る。
大勢引き連れてのことなので席はメールでの予約で確保済みだ。
店員に案内されて奥の部屋へと向かった。
「こちらです」
「はいよー」
扉のない部屋に入ると、先客がいた。
「陛下、お待ちしていました」
席を立ち頭を下げるガブロー。
今日は側近くんたちがいない。
「おー、お疲れー。
待ち伏せかー?」
「人聞きの悪いことを言わないでくださいよ。
新しい国民の皆さんに挨拶に来ただけです」
困り顔で苦笑するガブロー。
そんな姿を見て女子組一同は困惑気味である。
「ああ、紹介するよ」
皆の方へ振り返りながらアイコンタクトを送る。
驚くかもしれないから心の準備はいいか、と。
一瞬で周囲の空気が引き締まった。
上手く通じたと思いたい。
「ジェダイトシティの領主を任せているガブローだ」
「「「「「─────っ!」」」」」
皆、驚きはしたものの声はどうにか抑えていた。
アイコンタクトは無駄ではなかったようだ。
「初めまして、皆さん。
ただいま御紹介にあずかりましたガブローです」
優雅に一礼する。
慌てて皆も頭を下げていた。
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ガブローは皆が席に着く前に帰ってしまった。
「慌ただしかったな」
去るにしても余裕を見せてほしかったところだ。
本人のいないところで注文をつけても意味はないがね。
「気を遣ってくれたのではないですか?」
俺の言葉にフィズがフォローするように言ってきた。
確かに、そういう向きはある。
若干ではあるが畏縮気味の空気が流れていたし。
慣れるまで時間がかかることを考えると、落ち着いて食事ができなくなるだろう。
だが、実際はガブローが忙しいからなんだよな。
南部地域のドワーフ国を迎え入れた影響でしばらく忙しいのだ。
秋祭りまでには平常運転に戻っているはずだけど。
まあ、わざわざ説明することではない。
せっかくリラックスしている女子組の雰囲気が変になりかねないし。
「おー、そうだな」
話が続かないよう適当な返事をしておいた。
「そんなことより注文は決まったのかー?」
メニューと睨めっこの一同を見渡して聞く。
「カレーライスにしまっす」
「ハヤシライスにしまっす」
「ホワイトシチューライスにしまっす」
3人娘が真っ先に返事をした。
俺は注文用のタブレットをタッチして選択していく。
『此奴らはシェアするつもりだな』
合理的に3種類の味を楽しめる訳だ。
スッと手を挙げる者が1名。
「おー、ウィスか。
何にするんだ?」
「豚丼定食」
「はいよ」
「私もそれを」
「私も」
「自分もお願いします」
次々と手を挙げて同じものを注文するとアピールする女子たち。
他にも何人かが便乗してきた。
その中にはフィズやジニアも含まれている。
『メニューの中でも写真付きのものは食い付きが違うな』
湯気を上げるオーク肉を使った豚丼と具沢山の豚汁は確かに魅力的だ。
そこに山盛りのサラダまでついてくる。
健康に配慮する女子の心理を読んだ構成の定食だ。
その後も注文は絶えることなく続き、あっと言う間に全員分を選択し終わった。
「じゃあ注文するぞ」
ポチッと画面にタッチして注文を確定させる。
程なくして──
「失礼いたします」
店員が次々と料理を運んできた。
女子組はポカーンとそれを眺めるばかりである。
運び終わっても彼女らは固まったままであった。
「早く食べないと冷めるぞ」
俺はそう言ってから自分のチキンカツ定食に箸をつける。
「どどどどどうしてっ!?」
「こんなにっ」
「はやいんすかっ!?」
3人娘の連携質問攻撃に俺の箸が止められた。
「説明は後だ。
今は食べろ」
「「「えーっ、なんでー!?」」」
食い下がってくるが無言で定食を食うことでシャットアウトする。
『下手すりゃパニックになるからに決まってる』
とは言えないからな。
調理済みの料理を店の亜空間倉庫で保管して注文があったら引っ張り出すだけ。
ミズホ国基準では普通のことなんだけど。
空間魔法は西方じゃ幻の魔法だし。
どういう反応されるか読めないんだよな。
読んでくれてありがとう。




