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869 黙れ、金ピカ

 連中が次の行動に移る前に割り込みをかける。

 これ以上、好き放題させるつもりはない。

 様子見をしていたように思えるのは連中を鑑定していたためだ。


 まあ、鑑定そのものより内容を見て呆れていた時間の方が長いがね。

 とりあえず風魔法で声を飛ばす。


「俺の身内を笑ったのはお前らか」


 一斉に振り向くが、そこには誰もいない。


「なんだぁー?」


「誰もいねーぞぉ?」


「どうなってる?」


「知るかよぉ」


 チンピラ冒険者どもが首を傾げている。

 が、魔法と気付かねば何がどうなっているのか分かるはずもない。

 それは地元冒険者たちも同じ。

 彼らも似たような反応をしていた。


「俺も笑ってもらおうじゃないか」


 今度は逆方向だ。

 先程よりも過敏な反応で振り向こうとする一同。

 そこまでしても誰もいないんだがね。


『その必死さを待っていたのさ』


 振り向く瞬間を狙って俺は別の魔法を使った。


 隣にいるウィスには無言で壁際を指差しておくのも忘れない。

 そちらを見たウィスが一瞬だけ目を丸くした。

 が、声を発するのは堪えきる。

 そのまま頷いて壁際に向かった。


 一方でチンピラ冒険者どもは訳の分からない状況にキレていた。


「おい、ふざけんなよ!」


「舐めた真似してんじゃねえぞっ」


「ぶっ殺す!」


「まずは、この2人からだっ!」


 ダガーを手にしたままのチンピラが大きく振りかぶった。


『いきなりか』


 フィズにダガーを向けたときと同じだ。

 短絡的過ぎるだろ。

 羽交い締めされて人質状態だった女子冒険者にダガーの切っ先が向けられていた。

 が、しかし……


「なにぃっ!?」


 ダガーは振り下ろされなかった。

 そこに女子冒険者はいなかったからだ。

 代わりのものが羽交い締めにされていたけどな。


「なんで女が魔物になってんだよぉっ!?」


 正確に言えばホブゴブリンの死骸である。


「うわあっ!」


「汚えっ!」


 羽交い締めにしていたチンピラどもが死体を放り出す。


「どうなってんだぁ!?」


「知るかっ!」


「ざけやがってぇっ!」


 転送魔法で入れ替えた結果だ。

 風魔法で注意を引き付けた上でやっているから、転送魔法と気付いた者はいないだろう。

 女子冒険者は壁際で横たわっている。

 入れ替え前から気を失っていたから、そのままにしておいた。


「どうした?

 余裕がないぞ。

 チンピラ丸出しだな」


 今度は声を飛ばさず喋りながら前に出た。

 俺の前にいた冒険者たちが左右に割れていく。


「「「「「賢者だ!」」」」」


 そしてチンピラどもの前まで視界が開けた。


「本物だっ」


「賢者が来たぞ」


「いつの間にっ!?」


「なんでもいいっての!

 賢者様が来たらこっちのもんだ」


「おお、そうだな」


「頼むぜぇ、賢者様ぁ」


「アイツらをどうにかしてくれー」


 地元冒険者たちの期待する声が聞こえてくる中を前に進み出る。


「随分と大仰な登場の仕方をしてくれるじゃないか」


 それまで黙りだった金ピカが唐突に口を開いた。

 自分に酔い痴れているとしか思えないようなキザな仕草でこちらを指差してくる。

 完全に上から目線だ。


『何だ、コイツ?』


 ナルシズムに満ち満ちた仕草が実にイラッとする。

 指差されたことにも苛立ったが、それ以上だ。

 ジャラジャラと音を立てるアクセサリーが耳障りで仕方がない。

 これなら世紀末風パンクファッションな連中の方が遥かにマシである。


「勇者であるこの僕より目立つなんて罪だよ」


 金ピカは俺を指差したままポーズを変えた。


『確かに自称勇者だな』


 驚きを禁じ得なかった。

 ウィスの報告を疑った訳ではない。

 風と踊るの面々に渡してあるスマホのお守りアプリが常駐起動しているからな。

 呪いのアイテムであろうと無効化してくれる。


 俺が驚いたのは、ここまで己に酔い痴れたバカが本当に存在するということに対してだ。


「この上なく重い重い罪だ」


 金ピカが苦悶するような表情を浮かべ片手で己を掻き抱くような仕草をした。

 両手でないのは、ずっと俺の方を指差したままだからだろう。


『気持ち悪ぅー……』


 俺と同じように思っている者が多いようだ。

 誰もが身震いしたり嫌悪に顔を歪ませたりしていた。


 例外は金ピカの仲間だけだろう。

 連中はヘラヘラしていた。

 大方、自分たちのボスを怒らせたバカな奴とでも思っているに違いない。


『果たしてバカはどっちだろうな』


 そう思う間も金ピカの芝居くさい話が続く。


「だが、その罪は僕が美しいからだ」


 訳の分からないことを言い出した。


『大丈夫か、コイツの脳みそ?』


「思わず嫉妬するのも頷ける」


 一言ごとに大仰なポーズを取る金ピカ。

 黙っていたときは見た目だけが鬱陶しいのかと思っていたが、大間違いであった。

 喋った方がよりウザい。


「ああ、なんて罪作りなんだ、僕はっ」


『知らんがな』


 思わずエセ関西弁でツッコミを入れてしまった。

 内心でだけど。


「だが、安心するがいい」


 ジャラリと一際派手にアクセサリーが鳴った。

 体の向きを変え踊るように指差す手を切り替えたからだ。


『いちいち人を指差して鬱陶しい奴だな』


「もうすぐ君は嫉妬することもなくなるだろう」


 クネクネと体を捩る金ピカ。

 本人としては踊っているつもりなのだろうか。


 それにしては途切れ途切れで中途半端だ。

 踊っては己に酔い痴れることを繰り返しているせいだろう。

 もはや何をしたいのか分からなくなってきた。


『そのうち歌い出すんじゃないだろうな』


 もしも途切れることなく踊り歌うように台詞を紡ぎ出していたなら。

 ミュージカルっぽく見えたかもしれない。

 気持ち悪いクネクネダンスのせいで素人くさいとしか思わなかっただろうけど。


 いずれにせよ、西方にミュージカルは存在しない。

 演劇は娯楽として存在するようだけどな。


「この世とお別れするのだからねっ」


 右脚を軸にしてクルリと1回転。

 そしてクネッと体をしならせて止まる。

 フィニッシュは両手で指差してきた。

 自己陶酔の笑みまで浮かべている。


「……………」


 呆れ果てて言葉が見つからなかった。

 とにかく、すべての動作がウザい。

 いや、すべてだ。

 動作も台詞も何もかも。


 息をしていることすら鬱陶しい。

 コイツらの存在自体が罪なのだ。


「フフン、どうやら恐怖に戦いているようだね」


 サッと前髪をかき上げる金ピカ。


『まだ、ミュージカルもどきを続けるつもりかよ』


 とっくの昔に冒険者たちは引き切っている。

 ドン引きなど、とっくの昔に通り過ぎていたさ。


 にもかかわらず白けきった雰囲気の中で演じ続けられるとは……

 金ピカの度胸だけは大したものだと思う。


 単に神経が並外れて太いだけかもしれないが。

 もしくは何処かに羞恥心を置き忘れてきたか。


「貴様のバカさ加減に呆れていただけだ」


「なっにぃっ!?」


 オーバーアクションで仰け反って驚く金ピカ。

 本気で驚いているのか芝居なのか、サッパリ分からん。


「きっ、君はっ、大いなる勘違いをしているようだねっ」


 動揺しているのか喋りはじめが吃音になっていた。

 そんな状態でも軽く踊ってからのポージングは忘れない。


『もはや病気だな』


「この僕がっ、バカであるはずなどないのだよっ!」


 かなり必死なようだ。

 ナルシズムと嫌みに溢れた今までの余裕のある笑みは鳴りを潜めていたからな。


「うるせーぞ、金ピカ」


「きっ、金ピカぁ!?」


 またしても吃音。

 しかも最後の最後で声が裏返っている。

 誰が見ても動揺しているのは明らかだ。


 それでも踊るのだから筋金入りである。

 だが、ここで奴に主導権を握らせるつもりはもうない。


「ピーチクパーチクさえずりやがって鬱陶しいんだよ」


「ピッ!?」


 血相を変えて仰け反る金ピカの表情は引きつっている。


「「「「ギャーハハハハハッ!」」」」


 俺が挑発したはずなのにチンピラどもが笑い転げていた。

 もしかすると仲間からも似たような陰口をたたかれていたのかもな。

 それが噴出したと。


 目の当たりにした当人にしてみれば屈辱以外の何物でもないだろう。

 金ピカは白目でもむくんじゃないのかというくらい憤怒の表情を浮かべていた。

 身内の裏切り行為と受け取ったようだ。


「おまけに奇妙なダンスまで披露しやがるし」


「きっ、ききききみょ────────っ!?」


 不完全な単語を叫ぶ金ピカ。


『あー、頭の方が先に壊れちゃったかー』


「気持ち悪いったらありゃしねえっての」


「きいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


 とうとうヒステリックに叫ぶしかできなくなった。


『壊れるのが早かったな』


 元々まともな精神構造をしていなかったのだろう。

 ナルシズムに浸ることで均衡を保っていたのかもしれない。


「貴様は売れっ子俳優にでもなったつもりなのか?」


 今度は言葉も発さなかった。

 これが返事だとばかりに抜剣。

 仲間であるはずのチンピラどもを4人全員、瞬く間に斬り伏せた。


読んでくれてありがとう。

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