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852 仕事は順調?

 ダンジョン内での作業は滞りなく進む。


 設置そのものは位置決めだけが手動の半自動で楽々だし。

 国民以外に見られないようにする必要があったけど、それも対処は簡単。

 幻影魔法や光学迷彩を駆使させてもらいましたよ。


 これは俺たちだけじゃなく先行していた皆も同じ。

 良い案があるなら、それを実践してもいいとは言ってある。


 作業状況の確認のために報告は必須としておいたので、いずれにしても確認できるはず。

 既にスマホの方に動画が送信されてきている。

 かなりの件数だ。


『これ全部、確認すんのかぁ』


 こんな時こそ【多重思考】の出番である。

 もう1人の俺を大勢呼び出して人海戦術。

 と言いたいところだが……


 ひとつ問題があった。

 いくら複数の俺がいても報告が上がってくるスマホは1台なのだ。

 確認できる動画は一度にひとつ。


『こいつは盲点だったな』


 単に俺が抜けているだけとも言うが。

 そんな訳で今後のことも考慮して対処することにした。

 とりあえず報告の確認のため、もう1人の俺を呼び出す。


『地道な作業でスマンがよろしく頼むわ、俺』


『任せろ、俺』


 対処が終わってから確認するという手もある。

 だが、それだとしばらくは確認済みがひとつもない状態が続く訳で。

 あまり好ましくないと判断した。


 そんな訳で対処と同時進行で確認していく。

 現状だと早送り再生で時間短縮をするくらいしか手がないのがもどかしい。


 次いで対処要員としてもう1人の俺チームを結成。


『ファイルサーバーを用意するぞ』


『なるほど、そちらに添付ファイルを流すのか』


『別々のスマホでサーバーにアクセスすれば複数を同時に確認できるな』


『オンラインストレージというやつだな』


『ついでにグループウェアも開発か』


『ふむ、合理的だな』


『ハード開発は1人で充分だがソフトの方は頭数が必要か』


『グループウェアは複数のソフトの集合体だからな』


『それじゃあ始めるぞ』


『『『『『おー!』』』』』


 軽いノリの掛け声で開発が始まった。

 が、俺が参加する訳にはいかない。

 昼寝でもするなら体を動かさなくて済むのでありだとは思うがね。


 生憎とここはダンジョン内で、作業中だ。

 そんな真似ができようはずもない。

 実際にはベルとナタリーがライトの設置作業をするのだけど、俺にも仕事はある。


 カモフラージュと動画撮影はドルフィンとハリーがやってくれるから問題ないけどさ。

 ただ、前者に関しては面白い報告が上がってきていた。


『俺よ』


『報告動画確認担当の俺か。

 何か問題でもあったか?』


『そうではない。

 面白い報告があった』


『どういうことだ?』


『情報共有すればわかる』


『了解した』


 各々の作業に支障を来さないようリンクに制限をかけていたが一時的に解除する。

 すぐに面白い報告というものが何なのかを把握した。


『戦闘音で他所のパーティを近寄らせないのか』


 意図的に魔物を引っ張ってきて戦闘を行うという発想がユニークだ。

 さすがに完全に他のパーティーを近寄らせないようにはできないがね。

 その場合は幻影魔法で作業内容だけ見せないようにしていた。


 これでも充分に対応できている。

 苦戦している訳でもない戦闘に横槍を入れるようなマナー違反な連中は出ていない。

 この前提が崩れると厳しいかもしれないが。


『魔力の節約か』


『そういうことだ』


 戦闘までして魔力を節約する必要性はないのだがね。


『これはベルやナタリーの参考にしろってことなんだろうな』


『メールの本文には書かれてはいないが、おそらくは』


 これはハリーたちが動画撮影してくれていることと関係がある。

 今日の仕事が終わった後で婆孫コンビには動画を見て勉強してもらう予定なのだ。


 他のチームとの違いを確認させて足りないものを認識させる。

 目配りや確認の仕方などのような単純なものだけではない。

 工夫で魔力消費を抑える発想も勉強になるはずだ。


 そういう積み重ねがレベルアップへとつながる訳で。

 今回、ベルたちはほとんど戦闘することはないだろう。

 それでも多少はレベルが上がると俺は踏んでいる。


『大変だとは思うけれど頑張ってレベル100に到達してもらわないとな』


 さすがに今回の仕事でそこまで至ることは無理だけど。

 それでも動画の持つ意味は大きいと思う。


 え? 撮影なんかで仕事しているハリーやドルフィンと違って俺は何もしてないって?

 今回の俺の役目は運転手のようなものだ。

 冒険者ギルドに寄り道せざるを得なかった分、出遅れてしまったからね。


 そんな訳で要所で転送魔法を使って距離と時間を稼いでいる。

 距離的には半分くらいだと思う。

 どうしても歩かざるを得ない場所も多いのでね。

 入り口や階段付近なんかは他のパーティと遭遇しやすいし。


 他の場所でもアリバイづくりを考慮してちょくちょく歩きを挟んだ。


「お疲れ」


「あ、どうも」


 このように、すれ違うパーティと挨拶を交わすような場面も何回かあった。

 あるいは向こうが戦闘中で、その脇を通り抜けたりとか。

 場合によっては分からないように魔法で援護したりもしたけどな。


 その時、遭遇したパーティは通路で戦っていた。

 俺たちは向こうへ抜けたかったんだけどね。

 乱戦になっているせいで完全に塞がれる格好だったのだ。


 まあ、すり抜けは不可能じゃなかったけど。

 何となく嫌な予感がしたから背後で待機した。


 それを勝手に横槍を入れようとしていると勘違いされたらしい。


「手出ひ無用ら!」


 リーダーらしき剣士に強い口調でそんなことを言われた。

 あまりに必死になりすぎて噛み噛みである。

 こういう輩は負けそうになっても助太刀を求めたりはしない。

 見かねて助けると戦闘終了後にゴネ倒すような礼儀知らずが多いんだよな。


「あー、はいはい」


『早く終わんないかなー』


 適当に返事をしつつも、そんなことを考えながら待っていた。

 敵の魔物はゴブリンの大型種であるホブゴブリンだ。


 浅い階層では単体で出現することが多いが、今回は群れていた。

 頭数は互角の4体と4人。

 そこそこ経験のありそうな冒険者たちが負けるような相手じゃない。


 そう思ったのだが、様子がおかしかった。

 動きが鈍い。

 1人などはホブゴブリンの体当たりを躱しきれなかった。


「うわっ!」


 体勢を崩してホブゴブリンと共に倒れ込む。

 運の悪いことにその冒険者はマウントを取られてしまった。

 しかも倒れた時の衝撃で手から剣がすっぽ抜けている。


「くそっ」


 その冒険者は為す術なく殴られ始めた。

 仲間のフォローはない。

 それどころではないからだ。


「なんなんらっ!?」


「ヒるかよっ!」


 単調な攻撃を躱すことなく、わざわざ盾で受け止めている。

 しかもホブゴブリン程度の攻撃を受けて反撃する余裕がないのはおかしい。

 ゴブリンより力があるとはいっても、所詮はホブゴブリンなのだ。

 本来ならここまで追い詰められるはずがない。


『おかしいと思ったら……』


 拡張現実の表示をオンにしてみたら、すぐに理由が分かった。


[麻痺]


 全員仲良く状態異常のアイコン表示。


 詳しく見てみると罠にかかってガスを被ったようだ。

 その直後、戦闘になってしまったらしい。


 麻痺の状態は中程度。

 これではまともに体が動く訳がない。


 どうりで回避ができない訳だ。

 したくても思い通りに体が動かないんじゃね。


 突進は回避しきれず武器を落とし。

 単調な攻撃も受けるしかなく反撃ができないと。


『あー、こりゃ全滅コースだな』


 こんな状況になっても──


「助太刀はいるか?」


「ひらんっ!」


 断ってくるんだが麻痺で呂律が回っていなかった。

 思えば最初の言葉も焦って噛んだんじゃなかったということだ。

 どう考えても自力でどうにかできる状態ではない。


『しょうがねえなぁ』


 助ける義理はないのだが、目の前で死なれても寝覚めが悪い。

 俺は連中に分からぬよう魔法を使った。

 ホブゴブリン1体の膝裏にエアスマッシュの威力を絞ったものを叩き込む。


 奴はバランスを崩して仲間を巻き込みつつ倒れていった。

 倒れ込む先にはマウントで殴っているホブゴブリン。

 勢いのついた状態で倒れ込まれれば、もつれるように押し流されるしかない。


「う……」


 殴られ続けていた男は、どうにか危機を脱することができた。

 しかしながら男の顔面は腫れ上がっている。

 すぐに起き上がれる状態ではない。

 このままでは再び攻撃を受けることになるだろう。


『出血大サービスだ』


 治癒系の魔法で麻痺を解除する。

 バレないように少しずつだ。

 アイコンの表示はすぐに変わった。


[軽度麻痺]


 ここで魔法をキャンセル。

 完全に回復させると気付かれる恐れがあるからね。

 そうなると連中が絡んできかねない。

 面倒事は真っ平ゴメンである。


 麻痺は残るけどな。

 が、この状態なら動けるはずだ。

 感覚は変かもしれんが知ったことではない。


 俺の目論見通り、冒険者たちの反撃が始まった。

 ホブゴブリンのうち2体は倒れこそしなかったが、大きくバランスを崩している。

 そこに冒険者たちの攻撃がまともに入った。

 一撃でホブゴブリンたちが沈んでいく。


 残るは倒れ込んで起き上がれずにいる2体。

 倒れたことでダメージを受けたのか動きが緩慢になっていた。

 そこへ男たちの振り下ろす剣が突き立てられる。


 初心者キラーとも言われる魔物だが攻撃を受けると弱い。

 残りのホブゴブリンも、あっさりと絶命するのであった。


 ただ、冒険者たちも無事とは言い難い。

 1人は前が見えているのか怪しいほど顔を腫れ上がらせている。

 残りの面子もヘトヘトで座り込んでしまった。


「「じ────────っ」」


 ベルとナタリーが俺の方を見ている。

 完全に気付いている顔だ。

 余計なことを言われてトラブルになるのはゴメンである。

 冒険者の連中に見られないよう注意しつつ人差し指を口に当てると2人は小さく頷いた。


読んでくれてありがとう。

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