851 待ち合わせと物々交換と
風と踊るの面々が重苦しい雰囲気に包まれていた。
短槍使いの3人娘までもが暗くなるとは思わなかったさ。
「いや、スマン。
聞いちゃいかんことだったみたいだな」
さすが俺。
デリカシーがなさ過ぎ。
こういうことは、もっと状況を把握してから聞くかどうか判断すべきだった。
元ぼっちの本領発揮だ。
『てゆーか、自慢にゃならんわ!』
1人でやって虚しいセルフボケ&ツッコミである。
「そんなことないっす」
「そうっすよ」
「むしろ聞いてほしいっす」
必死な様子で3人娘が訴えてきた。
口調が微妙に変になっているのは、必死になりすぎるあまりなのだろうか。
ヒョロッとさん1号2号を見た。
「お前たち、賢者様の都合も考えろ」
「そうだぞ」
生真面目コンビの言いそうなことだ。
「「「はーい……」」」
3人娘がションボリと沈み込んでしまった。
斥候女子はボンヤリしている。
我関せずと言う感じではなさそうだけど。
自分に構わないでくれ的な雰囲気を醸し出しているせいだろう。
『どこまでもマイペースだな』
それはともかく風と踊るには事情があるようだ。
「まあ、そう落ち込むな。
急がなくても良いなら後で話を聞くぞ」
デリカシーのないことをした詫び代わりだ。
野郎が相手なら気にすることなくスルーしたと思うけどな。
「「「ホントっすか!?」」」
落ち込み状態から急浮上で復活する3人娘。
『忙しない奴らだな』
思わず苦笑が漏れそうになった。
真剣に悩んでいるみたいなので【千両役者】でカモフラージュしたけどな。
「おい、お前たち」
リーダーのフィズが呆れながら3人娘に注意しようとしていた。
説教を聞かせることになるのは可哀相だ。
「そう目くじらを立てるなよ」
俺は擁護することにした。
「あの、ですがっ」
フィズは俺の方へ振り返り戸惑いの表情を見せる。
「御迷惑をおかけする訳にはいきません」
俺は特に迷惑だとは思っていない。
だとすると──
「話を聞くだけで事件に巻き込まれたりするようなことなのか」
そんな風に勘繰りたくもなる。
「いえっ、そういう訳では……」
フィズは否定したが、その割には言い淀んでいる。
一瞬、何かを隠しているのかと思った。
後ろめたさを感じないせいか、そういう雰囲気はなかったけどな。
かわりに遠慮しつつも聞いてほしいというような期待感が見え隠れしていた。
『面倒くせー奴だな』
そうは思うが、嫌な感じはしない。
諦めムードを漂わせているためだろうか。
「だったら気にしなくていい。
俺が構わないと言ってるんだ」
「すみません」
ガバッと頭を下げるフィズ。
それを見た3人娘がすぐに反応する。
フィズに倣って頭を下げた。
「「「よろしくお願いしまーすっ」」」
とはいえ謝るのではなくお願いしているのだけれど。
これはフィズに対してプレッシャーをかけるのが目的だろう。
このまま押せ押せで要望を拒否させないようにというのが狙いのはず。
俺が自分たちの要求を断らないという確信を持ったからこその行動だと思われる。
もちろん俺へのアピールも兼ねているのは疑いようもない。
『ちゃっかりしてるなぁ』
それでいて嫌みがない。
ハキハキした態度が裏表を感じさせないからだな、きっと。
まあ、嫌いじゃない。
「お願いします」
ジニアも先の4人のような最敬礼状態ではないがお辞儀した。
サブリーダーも3人娘の意図したことに乗っかるようだ。
斥候女子ウィスも流れに乗ってきた。
ただし軽く会釈するだけ。
フィズ寄りなのか多数派なのかが分からない。
案外、自分だけ頭を下げないのは目立つからとか考えていそうだ。
「だそうだぞ、リーダー」
頭を上げたフィズの表情には諦観があった。
「本当に申し訳ありません。
お願いしてもよろしいでしょうか」
「もちろんだ。
これから一仕事してくるから、その後でいいか?」
「はい」
その後は待ち合わせのあれこれを決め解散となった。
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手続きを済ませた婆孫コンビたちと合流して冒険者ギルドを出た。
ダンジョンへ向かうべく外へ出る門の方へと向かって歩き出したのだが。
防具屋から出てきたビルに出くわした。
「おう、賢者様じゃないか」
なんだか落ち込んでいる様子だが、俺を見つけると表情を明るくした。
「さっきはサンキューな」
「再会記念なんだから気にするな」
「そうはいかんよ。
恩知らずな人間にはなりたかねえ」
それだけは譲れないとばかりに胸を張る。
そこまで言うなら俺から言うことは何もない。
「ところで何かあったのか?」
話題を変えるとドンヨリした空気がビルの周囲に復活した。
「盾が売れなかった」
ガックリと肩を落とすビル。
「ああ、盾を売って二刀流のための剣を買おうとしたのか」
「そうなんだ。
ここに来るまでに路銀として結構使ってしまったからなぁ」
情けない表情でビルがぼやく。
「お金がないのですか?」
そう聞いたのはナタリーだ。
何をどう考えたのかは分からないが、驚きの表情を見せている。
そのせいか、つい口出しをしてしまったらしい。
「無いとも有るとも言えるな」
訳が分からないという顔をするナタリー。
ベルは小さく頷いているので見当がついているのだろう。
「当面は食っていけるぐらいは持っているさ」
ビルが苦笑する。
何日分かは分からないが生活費は残していると言いたいのだろう。
「だが、いざって時のことを考えるとな。
残りの金を使って剣を買うのは怖い」
どうやら、色々と考慮した額は残しているようだ。
で、残っている額では余力がない状態なのだろう。
剣を買うこともできるが、それをしてしまうとギリギリで怖いということらしい。
思った以上に堅実である。
「だから盾を売って足しにしようとした訳ですか」
ナタリーも理解できたようだ。
「そういうことだ」
自嘲気味の笑みを浮かべるビル。
「その盾、俺が買い取ろう」
「はあっ!?」
唐突な提案にビルが固まってしまった。
「代金はこの剣だ」
言いながら腰に下げたポーチから2本の剣を引っ張り出す。
「なっ!?」
ビルが面白いくらいに飛び上がっていた。
『まあ、普通は驚くよな』
ポーチみたいな小さな入れ物から大きな物が出てくるんだから。
「収納系の魔道具だ」
「お、おぉ……」
説明を受けたビルだったが、まだ少し動揺を残していた。
すぐに受け入れられるものでもないよな。
だが、この状態が俺には都合が良かったりする。
俺は無理に剣を押し付けた。
「ほら、これと交換だ」
訳が分かっていないであろうビルが、そのまま受け取る。
「うえっ!?」
同時に奇妙な声を上げていた。
「じゃあ、代金として盾は貰うぞ」
言うが早いか、ハリーがビルの背後に回って背負っていた盾を回収。
そして俺に渡してきた。
「とりあえず売らずに取っておく」
ポーチに収納すると見せかけて倉庫へと仕舞い込んだ。
「思い入れがある物なら買い戻しにも応じるぞ」
ここでようやくビルが我に返った。
「おい、いくらなんでも釣り合いが取れないだろう」
なかなか鋭いことを言ってくる。
確かに2本の剣は見た目こそ地味だが、そこそこの業物である。
ただし、俺が作った訳ではない。
死蔵品の中から引っ張り出してきた代物だ。
たまたま二刀流で使うための対になった剣があったのでね。
特に術式は記載されていないので手頃だと思ったのだ。
「ふむ、剣2本に盾だけではダメだと言うんだな。
ならば腰に下げている剣も預かっておこう」
今度はドルフィンがビルの剣を腰から鞘ごと引っこ抜いてきた。
『追いはぎかよ』
ツッコミは心の中だけに留めておく。
俺もその剣を受け取ってしまう訳だからな。
「無茶苦茶だな、おい」
「そうか?」
剣を受け取りつつ、これまたポーチ経由で倉庫へと送った。
「こっちも盾と同様に売らずにおく。
必要なら頑張って稼いで買い戻すことだ」
「あのなぁ……」
ビルが呆れたように溜め息をついた。
「盾は寿命寸前だったから売れなかったんだぞ」
売れなくて当然、納得の理由である。
「長く使った相棒だから思い入れがないと言ったら嘘だがな」
「なら修繕しておこう。
買い戻す時は修繕費もいただくさ」
「だから、なんで買い戻す前提なんだっ」
「なんとなく?」
「俺に聞くなっ」
「まあ、そういう訳だから頑張れ」
「何がそういう訳なんだっ」
先程からビルは間髪入れずに連続でツッコミを入れてくる。
煙に巻いて脱出しようかと思っていたのだが。
ままならないものだ。
読んでくれてありがとう。




