831 シーザーズは妖精種である
『ヤベッ、またか』
やっちまった感がハンパない。
妖精種だからビビらせることもないだろうと高をくくっていたが……
『強面顔ってのは想定外だった』
しかも体はデカいし、見た目はまんま獅子だしな。
魔物と思われていたとしても不思議はない。
ここはパニックになる前に対処するしかないだろう。
まずは詰めずに魔方陣を描いたせいで拡がっている彼らを集めにかかるとしよう。
「整列!」
俺の号令にシーザーたちがシュババッと集まってくれた。
みんな顔は怖いが良い子たちである。
まあ、その顔が怖いせいで背後の面々はほとんどがビビっているんだけど。
お陰で固唾をのんで見守るような空気が背中越しに伝わってくる。
ビビりまくってパニックになるのだけは回避できたようだ。
ミズホ組が落ち着いているのも、その助けにはなっているだろうか。
「お座り」
ちょこんと座るシーザーズ。
足並みが揃った感じで統一感がある。
『いいぞ、完璧だ』
だからといって訓練によるものじゃない。
各々が最速で反応した結果だ。
ちょっと凄いと思ってしまった。
そして──
『これならいける!』
内心で俺はガッツポーズをしていた。
現に外野は静まり返っているからな。
ビビって声すら出せないのではない。
呆気にとられて声を出すことさえ忘れているのだ。
「楽にしていい」
俺がそう言うと、シーザーたちは伏せに近い形となり顔だけ上げた。
よく見ると猫がくつろいでいる時に見せる足先を曲げた香箱状態だ。
なかなか肝が据わっている。
見てくれだけじゃない。
これは期待以上だ。
「諸君、リラックスしてくれているようで何より」
「「「「「ゴロゴロゴロ」」」」」
喉を鳴らして一斉に返事をするシーザーたちだ。
『香箱といい喉で鳴くのといい、君らは猫なのかっ?』
軽く調べただけなので詳しいところは知らなかった。
俺の勝手なイメージとして犬っぽいと考えていたのだが修正する必要がありそうだ。
見た目は獅子っぽいから猫に近いかもしれない。
「さて、君たちを呼び出したのは仕事をお願いしたいからだ」
俺がそう言うと、一斉に首を傾げてきた。
怖い顔をしているのに仕草は可愛い。
「なぁに、土属性の妖精種である諸君からすれば簡単な仕事だよ」
これで興味を失うようなことがあれば帰ってもらうしかない。
一からやり直しである。
「報酬は俺の魔力を腹一杯だが、どうかな?」
そう聞くと尻尾がブンブンと高速で振られた。
召喚の時に受けた俺の魔力は気に入ってもらえたようだ。
了承されたようで何よりである。
『マリカを初めて召喚した頃のことを思い出すな』
どうやら俺の魔力は妖精種にとっては好ましいもののようだ。
ちょっと嬉しくなった。
一方で慌てふためいているのがオルソ侯爵である。
ダダッと駆け寄ってきて何かを言いたげにあわあわしている。
「どうしたよ?」
「どどどどうしたもこうしたも、ああありませぬっ」
どもりまくっている。
焦っているのが丸わかりだ。
何を焦っているのかは、よく分からんが。
「落ち着けよ」
「これが落ち着いていられますかっ」
「そうか?」
「魔物を召喚して使役するのは分かりますが──」
不用意な発言のせいでシーザーズの機嫌が悪くなる。
そしてヤンキーが威圧するかのような、しかめっ面になった。
彼らが人間の言葉を喋ることができたら──
「ああん?
いま何つった?」
きっとこう言っているように見えただろう。
実際は魔物扱いされて嫌だなと感じている程度だと思われる。
現に殺気は放っていない。
シーザーは割と温厚らしいし。
見た目とのギャップが大きいってことだな。
そのせいでオルソ侯爵がガタガタ震えている。
「魔物じゃないぞ。
そんな風に間違えるから不機嫌になるんだ」
あうあうと口は動くが喋ることができないオルソ侯爵。
『ビビりすぎだ』
そのせいでシーザーたちが困惑してる。
首を傾げて「どうしたの?」と言いたげである。
「ひいっ」
息をのむような悲鳴を上げるとか失礼なオッサンである。
「此奴らは妖精種のシーザーだ。
助っ人として召喚した。
何の心配もいらないから下がってろ」
「ででででですがっ」
またしても、どもりまくりに逆戻りだ。
「なんだよ?
まだ何かあるのか?」
「ままままりょきゅがががっ」
「……………」
度盛りまくってる上に噛まれたら何がなにやらサッパリだ。
「もしかして魔力って言ったのか?」
当てずっぽうで言ってみたらガクガクとぎこちない感じで頷かれた。
「召喚した上に報酬で魔力を渡したら俺がぶっ倒れるとでも?」
再びガクガクで頷くオルソ侯爵。
「この程度で倒れるようなら、こんな真似するかよ。
昨日だってガンガン魔力使ったんだぞ。
開拓して畑作って水路も作ったし。
ダンジョン探索でも魔力は使ったぞ。
それで、その帰りに橋を架けたんだが?」
そう言った途端にオルソ侯爵の必死な雰囲気が消え去った。
「あ……」
指摘されて、まともに戻るだけマシなんだろうか。
それとも気付くのが遅すぎると言うべきか。
いずれにせよ、すっかり昨日のことが抜けてしまっていた訳だ。
『そこまでビビるか?』
顔が怖くて魔物っぽく見えれば大人でも充分にビビるか。
しかも百頭を軽く超える集団だし。
「失礼しました」
トボトボと下がっていくオルソ侯爵であった。
「心配してくれてサンキューな」
一声くらいはかけておく。
勇気を振り絞って出てきてくれたんだし。
「あ、はい」
完全に意気消沈しているが、そこまでフォローできるほど余裕はない。
この地でもすることは山ほどあるのだ。
まずは開墾である。
「よしっ、それじゃあ始めるぞ」
休めの香箱スタイルから自発的にお座りへと戻るシーザーたち。
やる気は充分なようだ。
「俺の指定する範囲の地面を軟らかい土に変えてほしいんだ」
こっくりと頷く一同。
「堅さはこのくらい」
そう言って全員の前に地魔法で拳大の土を作り出す。
パアッと輝かせるような笑顔で俺の方を見てくる。
尻尾なんて振りまくって残像だらけだ。
「食べていいぞ。
それは確認用のおやつだ」
許可を出した途端に一斉にかぶりついてガツガツと一心不乱に食べる。
『また誤解されそうな食べ方だな』
背後のあちこちで短い悲鳴が上がったりした。
どう見ても飢えた肉食獣の食事にしか見えなかったからな。
迫力満点すぎてビビったとしてもしょうがないとは思う。
「堅さは覚えたな」
満足げな顔で一斉に頷くシーザーズ。
「深さはこのくらい」
両手の手振りで指定すると、また頷きが返ってきた。
「範囲は──」
言いながら光魔法を発動。
地面にラインを引いた。
「向こうの光の線で囲った内側全部だ」
振り向いて俺の指差した方を見てから再びこっくり頷いた。
「それじゃあ頼んだぞ」
俺がお願いすると俺の指定した範囲へダダダダッと駆け出して散っていく。
そして横一線に並んだ。
真上にジャンプしたかと思うと、ギュルギュルと凄い勢いで縦方向に回転し始める。
地面に着地したかと思うと──
「「「「「ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!」」」」」
高速回転に見合うだけの音を発しながら走り始めた。
ただ、音の割には地響きは少ない。
その証拠に現場組は驚きはしてもビビってはいない。
地震に比べれば遥かにマシだろう。
地元住民は震え上がっているがね。
初見じゃ音だけでも怖くなるのは無理からぬところだ。
『スゲー、紅い車輪だ』
一糸乱れぬ動きで駆け抜ける。
が、回転の割に土が巻き上げられるようなことがない。
彼らの走った跡は俺がサンプルで作った土の塊と同じ色に変わっていた。
鑑定してみると、堅さも同じになっている。
深さまで指定通りだ。
『なるほど、あの回転がミソなんだな』
移動のためだけだと思っていたら大間違いである。
真下に連続で地魔法を打ち込むためとは考えたものだ。
しかも回転で魔力を増幅させている。
瞬く間に畑が出来上がっていくのに消耗が少ない。
「速えしスゲえな。
さすがは地属性の妖精種だ」
「我々は必要だったのでしょうか」
キースがこんなことを言い出すくらいだ。
「ここまで現場組を連れて来たのは皆だぞ」
そのあたりを忘れてもらっては困るのだが。
まあ、目の前の光景を見せつけられると、そういう気分にもなるか。
「そうは仰いますが……」
釈然としないものを感じているのだろう。
運転手だけでは物足りないといったところか。
仕事がしたくて仕方ないなんてブラック企業の経営陣が知ったら喜びそうだな。
過労で倒れられても困るので、そんな真似はしないけど。
「仰るもオシャレもないんだよ。
アイツらと同じ仕事量で開拓したら化け物扱いされるぞ」
「……否定はできませんね」
キースが渋い顔をした。
それだけ速いペースで農地に適した土地が出来上がっていく。
もし、ミズホ組に任せていたら俺ほどではないにしてもドン引きされた恐れはある。
伊達に獣っぽく見えるシーザーたちを使っている訳ではないのだ。
読んでくれてありがとう。




