803 嵐を避けると壁がある
64話を改訂版に差し替えました。
司令官に会うまでもあれこれがあった。
簡単に言うと顔パスといかなかったのだ。
現場の下っ端がオルソ侯爵を見知っていないから当然と言えば当然だ。
面倒なので傷つけずに無力化して押し通ったけどな。
で、サクサク進んで大きなテントに入る。
そこに司令官がいた。
「オルソ卿!」
驚愕の表情で固まる司令官。
突如の侵入者に殺気立つ騎士たちが、その声に驚愕の表情で振り返った。
そりゃそうだ。
司令官より上の上司が現場に来るなど想定外もいいところだからな。
「すまんが状況が変わった。
此度の戦争は行わぬ。
天候が回復しだい速やかに撤収せよ」
「ど、どういうことですか?」
動揺を隠しきれず司令官が聞き返していた。
「説明は後だ。
今は命令を徹底させよ」
「はっ!」
司令官はその表情に動揺を残しながらもオルソ侯爵の命令に直立して承服した。
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嵐の中では命令の伝達も遅くなるだろうと結界を展開した。
それによる混乱が発生することも分かっていたがね。
「嵐がやんだ!?」
「いや、違う!
俺たちの上だけ避けているんだ」
「本当だ……」
「どうなっている!?」
あちこちで似たような感じで駐屯地は混乱していた。
この状況を予測しながらも最終的にはこちらの方が早く終わると踏んだ。
他にも現場の人間を混乱させる状況はあるのだが。
ひとつ増えたくらいならば問題ないと考えた訳だ。
「それよりも、アレは何だ!?」
「デカい」
「壁?
いや、城壁か?」
「長すぎだろ」
「いつの間に……」
「何処まで続いているんだ」
「見張りは何をしていた!?」
「無理を言うな!
あの嵐の中で見張りに立つ方がどうかしてるだろ」
「そもそも嵐のせいで視界不良だったんだぞ」
「それにしたって一晩でどうにかなるものじゃないだろう」
「どうにかなったんだよ。
でなきゃ貴様の目もおかしいってことになるだろうが」
「ぐっ」
「とにかく撤収準備だ」
「そうは言ってもな」
「そうだぜ」
「これは司令官閣下からの命令だぞ」
「うっ」
「わ、わかった」
冷静な人間がいたお陰で俺が観察していた小隊は他よりも早く動き始めるのであった。
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司令官は怒りの形相を隠そうともしていなかった。
「申し訳ありません!」
直立して報告する騎士の頬が赤く腫れている。
誰かに殴打されたのは疑いようがなかった。
だが、この場にその犯人はいない。
いたら俺が殴っている。
「いや、断じてお前の失態ではない」
司令官が断言した。
「そうだ、司令官の言う通りだぞ」
オルソ侯爵も肯定する。
「まったく、何を考えておるのかっ」
司令官が吐き捨てるように言った。
「上官の命令を拒否するなどありえんのだ」
苛立ちながら愚痴を漏らしているが、それで解決する訳でもない。
「困ったことになりました。
いかがなさいますか?」
オルソ侯爵がカーターに問いかけている。
伝令が走っている間に司令官と側近たちに状況を説明した直後からこんな感じである。
俺の方はチラ見するが直接的に指示を仰ぐようなことはなくなってホッとしている。
「我々も聞いていたから状況は分かるよ」
カーターがそう答えながら俺の方を見た。
「ハルト殿ならどう動くかな?」
「命令拒否をどう判断するかで変わるな」
「うちだと謹慎かな」
「じゃあ取っ捕まえて監獄農園送りにするさ」
「ハハハ、確かにそれも謹慎みたいなものだね」
「そういう迷惑なタイプは死ぬまで謹慎でいいんだよ」
「言えてるね」
司令官たち現場の人間は「監獄農園?」と首を傾げている。
が、オルソ侯爵は神妙な面持ちで頷いていた。
輸送機の中で[不可]判定された連中がどういう目にあったか説明してあるからな。
「オルソ侯爵は妥当だと思うかい?」
カーターに話を振られてオルソ侯爵は戸惑った様子を見せる。
「自由に言ってくれて構わないよ。
率直な意見を聞きたいんだ」
「今は非常時です。
このような状況下での命令拒否は厳罰に処すべきかと。
特にあの男は今回の戦に限ったことではありません。
日頃から実家の威光を笠に着て数々の目に余る振る舞い。
処分が軽いということはあっても重いとは誰も思わんでしょう」
この言葉に現場の人間たちもうんうんと頷いている。
「生温いってさ」
「あのな、カーター……
俺に丸投げする気だろ」
「あ、分かった?」
悪びれた様子もなくイタズラがバレた子供のような表情で笑っているし。
「まったく……」
ちゃっかりしているよ。
「じゃあ連行してきて全員でボコればいいんじゃないか」
その結果がどうなろうと俺は関知しないがね。
「ボコ……
なんだって?」
カーターが知らない言葉に目を丸くしていた。
「ボコるだよ、カーター。
ボコボコになるまで殴ることを短縮した言葉だ」
「へえ、便利な言葉だね」
こんなことで感心されてもとは思うのだが。
他の面々も「ほぉ」とか「なるほど」とか言ってるし。
「とにかく俺が、そのふざけた突撃部隊の指揮官を連れて来る」
そう言った途端に司令官たちが慌て始めた。
「お、お待ちくださいっ」
「どうしたよ?」
「まさか、お1人で突撃部隊に挑まれるおつもりですか!?」
「そのつもりだけど、それが何か?」
「むむむ無謀ですっ」
「あの部隊に何人いると思っておられるのですかっ」
「あまりにも無茶ですっ」
司令官だけでなく、その側近までもが止めてきた。
他国の王を危険にさらす訳にもいかないと必死になる気持ちも分かる。
自分たちの責任問題に発展するだけではすまないと考えているはず。
なかなか常識的な考えを持っているようだ。
オルソ侯爵が任命したのだったか。
ならば信頼できるだろう。
それ故に彼らを力ずくで黙らせるような真似はしたくない。
彼らを納得させるには俺のことも突撃部隊のことも知る人物に確認するのが一番だ。
「無茶だと思うか、オルソ侯爵?」
「そのご質問にお答えする前に確認しておきたいことがあります」
即答せず質問返しをしてきた。
「何が知りたい?」
「手加減の手段をお持ちですか」
『そう来たか』
城を壊す時に派手な魔法を使ったからだろう。
大人数を相手にするのを苦にしないのは証明したようなもの。
だが、殲滅と生け捕りは違う。
難易度は後者の方がずっと上だ。
「殺さずに黙らせる方法ならいくらでもあるぞ。
さっき無理に押し通った時に見せただろ」
「確かに、あっと言う間に眠らせてしまいましたが……」
「結界の範囲も見ただろう?」
「なんとっ!?
それでは全軍さえも……」
途中で言葉を止めたが、そこまで言ってしまっては意味がない。
司令官たちの顔色が変わる。
「まさか……」
「御冗談でしょう」
「そんなバカな……」
指揮官や側近たちが呆然とする中、現場サイドの騎士たちがガタガタと震えだした。
伝令に向かった面々だ。
「どうした?」
顔を青ざめさせた騎士の1人に司令官が声を掛けた。
「いっ、いえっ、信じてもらえないと思い伏せていたのですが……」
「馬鹿者っ!
異状を発見したなら報告しろ。
要不要の判断はこちらでする」
司令官の鋭い叱責が飛んだ。
「「「「「申し訳ありませんっ!」」」」」
「お前たち全員か……」
呆れた様子で司令官が肩を落とした。
「まあ、いい。
それで何があったというのだ」
「嵐が我々の駐屯地を避けています」
「何を言っている?」
怪訝な表情を浮かべる司令官。
「嵐が止んだだけではないのか」
「止んでいないんです。
まるで見えない何かに押し退けられたように避けているのです」
「それはハルト殿の結界魔法だよ」
カーターが種明かしをした。
「「「「「なっ!?」」」」」
現場組が一斉に見開いた目で俺を見てくる。
「でっ、ではっ、あの延々と続く城壁もっ?」
それを聞いてきたのは別の伝令騎士だった。
「なんだとっ!?」
司令官が目を剥いて驚きの声をあげる。
「結界だけではないのかっ」
司令官のその声に突き動かされ側近の1人がテントを飛び出していった。
「そっちに関しては先行させたうちの面々がやったことだ。
戦闘狂と評判の突撃部隊の指揮官を止めるためにな」
「「「「「……………」」」」」
俺以外にも常識外れのことができるという事実に現場組が絶句する。
「司令官、見てくればいい。
百聞は一見にしかずと言うぞ」
読んでくれてありがとう。




