794 待ち時間に処理していく
オルソ侯爵にだけ構っている訳にもいかない。
王族は処理したので既にモブ扱いで構わないが。
他にもリストラすべき連中はいる。
そこで[可]と[不可]で判定して選り分けていくことにする。
このバランスが難しい。
明らかな[可]が少なく[不可]があまりにも多いのだ。
どちらかと言えばという条件をつけても[不可]に軍配が上がる。
[可]に[普通]を加えないと逆転することはない。
この[普通]が曲者である。
言い換えれば[どちらでもない]のであって、どちらにでもなり得るからだ。
朱に交われば赤くなるという諺もあるしな。
良い方に影響を受けるように指導する必要がある。
だが、それをするのは俺たちミズホ組ではない。
ここは今日からエーベネラント王国の領土だ。
ならばカーターが責任を持って統治しなければならない。
現状では元々の領土の統治だけでも大変だろう。
今まで政治的なことには関わらせてもらえなかったのだ。
爺さん公爵の手助けはあるとは思うが、新領土の情報がない状態では厳しいものがある。
それらを把握している者たちに任せる形が現実的だろう。
明らかに[可]と判定した面子の出番だ。
そこに一応は[可]とされた者たちをつけていく。
教育は重要である。
が、待ったなしの状況では現場で指導していく形しかとれない。
教育機関を用意して一から叩き込めない点に不安は感じるが……
そんな訳で──
「カーター、使えん連中を向こうに集めていく」
完全にぶち抜いた外壁側を指差しながら行動に入る。
「オルソ侯爵の説得は?」
土下座した奴の相手はしたくない。
幸いなことに土下座されているのはカーターだ。
「それは俺の仕事ではない」
この状況下における責任者的立場にあるのもカーターだからな。
「ハッキリ言うなぁ」
苦笑しながらもカーターは頷いていた。
「まあ、頑張ってくれ」
「あまり期待しないでくれよ」
説得を始める前からガックリ肩を落とすカーターであった。
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「こいつは……」
俺が指差すと霊体化したローズが一瞥する。
『くー』
失格、だそうだ。
「アウト」
言うと同時にクイックメモライズと呪いのコンボをプレゼント。
これで目の前にいる品位の欠片も感じられない風体の上級貴族は地位を失った。
ちなみに消音の魔法は指差す前に使っている。
威圧しているから、その段階で文句など言えるはずもないが。
たとえわずかでも何かを言う余地など与えるつもりはない。
バーコードの戯言で懲りたからね。
ローズに失格判定されるような輩だ。
何を言い出すか分かったものではない。
それがクイックメモライズがもたらす痛みで叫ぶ瞬間であっても油断はできない。
故に消音の魔法なのだ。
本人は痛みに叫ぼうとも周囲には口パクしているようにしか見えない。
【読唇術】で言っていることが読めてしまうので、口元を見てはダメだ。
幻影魔法で口元は大口を開けた状態に見せかけておく。
堪えきれない痛みにのたうち回ろうとするので、ちょうどいい。
なかなかの暴れっぷりになるところだが、そこも抜かりなく対応している。
俺ではなく後続のミズホ組の面々によってだけれど。
「暴れるな」
片腕を捻り上げて悪趣味上級貴族の男を押さえ付けるリーシャ。
それでも奇妙な踊りを披露しようとする男。
腕の痛みよりクイックメモライズの痛みの方が上なのだろう。
「暴れるなと言った」
リーシャの拳が男の腹部にめり込む。
体をくの字に折り失神する男。
それを見ていた周囲の連中が瞬時に顔色を悪くさせていた。
ガタガタ震え始める者までいる。
あれでは、かなり手加減していると言っても信じないだろう。
本気でやらなくても爆散するか大穴が空くというのに。
まあ、そんなスプラッタなシーンを披露するためにこんなことをしているのではない。
リーシャは男の服を掴んで持ち上げると大穴の方へ向かっていった。
続いてダニエラが俺の後ろに来る。
「次はお前だ」
運ばれていった男の隣にいた女を指差した。
身形の良い服を着ているが、男ほど下品な雰囲気はない。
装飾品だけが不釣り合いにゴテゴテした感じになっていたが。
拡張現実で確認してみたところ、男の妻のようだ。
男が連れて行かれても不服は微塵も見せなかったが。
『くー』
マシ、とローズが判定を下す。
「お前は向こうへ行け」
判定を始める前に確保した空きスペースを指し示す。
「よろしいのでしょうか?」
おずおずと遠慮気味に聞いてくる。
「あの男の悪事に荷担していないようだからな。
借金の棒引きを条件に婚姻を迫られた身では情すら湧かぬだろう?」
「何故それを……」
鑑定したからだ。
種明かしをするつもりはないがね。
「次だ」
隣の上級貴族を指差す。
こいつの服や装飾品はマシな部類だったが、不摂生ぶりはバーコード並みであった。
引きつった笑みで媚びてくるのが鬱陶しい。
場合によっては[普通]と判定されることも考えられるがね。
『くっ!』
論外! だそうである。
こういうタイプは鑑定すると碌なことがないのは分かっている。
故にどんな罪状があるのかは見ない。
「貴様は最悪だ」
言いながらクイックメモライズ&呪いを撃ち込む。
痛みで暴れそうになった瞬間にダニエラが膝蹴りをかましていた。
派手目なアクションにポヨンと跳ねるふたつの何か。
ついつい視線が吸い寄せられてしまう。
実に抗いがたいが仕事中なので我慢我慢。
不摂生男を見ると、沈み込んでいくところであった。
結果はもちろんノックダウン。
『容赦ねえな……』
腕を捻ることもしないとは。
可愛い顔して恐ろしい娘さんである。
恐ろしいとか言っちゃいけないな。
俺の奥さんなんだし。
とにかくダニエラも伸びた不摂生男を運搬する。
こんな感じで次々と判定と処理を実行していった。
「こんなものかね」
上級貴族たちの判定が終わったところで一息つく。
結局のところ、上級貴族とその家族の中で[可]と判定されたのは1人のみであった。
言うまでもなく悪趣味男と無理やり結婚させられた女だ。
彼女が下級貴族の家の出身ということを考えれば、上級貴族は全滅と言っていい。
オルソ侯爵は例外である。
判定もしていないし。
と言うより、するまでもない相手だ。
カーターの方を見たが、説得は難航している様子がうかがえる。
「ハル兄、まだまだ残っている」
ノエルが俺のそばにスルスルと寄って来て言った。
こんなところで休んでいる場合じゃないと言いたいのだろう。
「ここで半分は終わったようなものだ」
「意味が分からない」
小首を傾げるノエル。
「確かに、人数的には始まったばかりと言っても過言ではないと思いますが?」
ノエルの疑問に乗っかるように聞いてきたのはカーラであった。
「私も分かりません」
リオンも同意する。
他の皆もうんうんと頷いていた。
「半分は言い過ぎだが、気疲れするような輩は減っていくからな」
「気持ちの問題は無視できない」
俺の言葉にノエルが神妙に頷いた。
「それは大きいですね」
カーラも同様である。
その原因である上級貴族は論外とか最悪とか判定される連中ばかりだった。
背景事情を知ってしまえば、確実に血の雨が降ったことだろう。
故に鑑定はあえて封印した。
国民が受けてきた仕打ちの報いを受けさせるために。
コイツらの残りの人生は農業漬けだ。
体力がない?
無くても働かなくてはならない。
糧が得られずに死んでしまうからな。
他に道がなければ必死になるだろう。
死ぬ気でやることになってもノウハウがない?
それは呪いと一緒に叩き込んだクイックメモライズで刻み込んである。
随分と甘やかしているように見えてしまうことだろう。
だが、ノウハウを叩き込んだのはこの連中のためではない。
この国の復興のためである。
税率はこの連中が吸い上げていた時と同じにすることをカーターに提案する予定だ。
コイツらから搾り取っても大した足しにはならない。
それでも生かさず殺さず搾り取る。
搾り取ると言うことが、どういうことなのかを思い知ってもらわないとな。
ただ、この国の民がこの程度で溜飲を下げるとも思えないが。
色々な仕打ちを受けてきているだろうし。
多少のザマアはあると思いたい。
「やはり減りますか」
リオンの目先は判定結果に向いているようだ。
「トップに近いほど毒されているからな。
遠い位置にいる連中ほど影響を受けにくい」
そうでなくては困る。
下っ端まで全滅となれば、リストラではなく求人が必要になってしまうからな。
「さあ、続きだ」
並ばせた下級貴族を先頭から判定していく。
「セーフ」
上級貴族の時のように指差してローズの判定した結果を言い渡していく。
「次もセーフ」
初っ端から[可]の判定が連続するとは思いもしなかった。
ラッキーだ。
そう思っていたら──
「コイツとコイツはアウト」
反動の判定かのように[不可]が続く。
騎士を除く下級貴族で半々ぐらいがアウトになった。
残るは騎士と兵だ。
それぞれ上級貴族と同数程度ずつが引っ掛かった。
残りの数の方が多いのは言うまでもない。
読んでくれてありがとう。




