780 リサーチ&デストロイ?
すみません。
遅くなりました。
「まず知りたいのは税率がエーベネラントと比較してどうかだ」
カーターが爺さん公爵の方を見た。
政治に関わらない日常を送ってきたが故に情報がないのだろう。
目で「分かる?」と問いかけている。
爺さん公爵は、心配無用とばかりに頷いていた。
政治に関われないという意味では似たような状況だったはずなんだが。
そこは年の功というやつか。
いや、公爵としての矜持があるのだろう。
いずれにせよ独自に調べていたようだ。
「つい先日までの我が国よりも重いですな」
即答した。
「あ、下げたんだ。
良かったー。
あれは酷いと思っていたんだよね」
カーターが安堵している。
『そんなに高かったのか』
まあ、誰が原因なのかは容易に想像がつく。
元凶は骸骨野郎で間違いないはずだ。
『どれだけ散財していたんだか』
呆れて開いた口がふさがらなくなりそうだった。
「徴収した税金の使い道は分かるか?」
俺の質問に爺さん公爵は困ったような表情を浮かべた。
それはそうか。
いかに友好国になったとはいえ、自分の国の内情を明かすようなものだからな。
「構わない、カッツェ。
ハルト殿は信頼できる」
「ですが……」
「教えてくれないか。
私も知りたいと思っていたんだ」
カーターの懇願混じりの指示を受けて爺さん公爵がしばし逡巡する。
「……分かりました」
やがて、ゆっくりと息を吐き出すと了承してくれた。
その表情から渋った様子は感じられない。
カーターをそれだけ全面的に信頼しているということだ。
でなきゃ会って間もない俺のことを信用して国の機密情報をさらせるはずがない。
苦手なタイプの爺さんだが、どこか憎めないと思った。
俺は嫌いじゃない。
むしろ気に入った。
『これは裏切れないよな』
裏切るつもりなど毛頭ないのだけれど。
「まずは通常の支出についてですが」
そう前置きして爺さん公爵が説明を始めた。
「贅沢をする嫌いがありました」
見栄っ張りな生活をする傾向にあったということだろう。
「ですが、著しく常識を外れている訳でもなかったのです」
些か困惑の表情を浮かべながら補足説明がされる。
それを聞いてカーターが、何処か呆れを感じさせる表情で溜め息をついた。
「ああ、そうなると伯爵じゃないな」
「カーター様?」
何を言っているのか理解できなかったのだろう。
爺さん公爵が首を捻りたそうな顔をしていた。
「先王の見栄っ張りな性格は知っているよね」
どうやら俺の読み通りらしい。
ただし、骸骨野郎ではなくアンデッドにされた王たちが贅沢をしていたようだが。
生前からの習慣を変えなかった結果のようだ。
『それをさせなかったのが骸骨野郎ってことか』
王たちが死人になったことを周囲に気付かせぬためと思われる。
離宮の襲撃後は変えていた可能性がある訳だ。
「そういうことですか。
では、シェーデルの思わくは絡んでいないのでしょうな」
「だね」
2人で頷き合う。
普段通りだったのなら特に聞くことはない。
「では、余剰金はあるのだな」
確認したいのは、そこである。
「そうですな。
戦争をすれば、すぐに底をつくでしょうが」
「そんなに余裕がなかったのか」
カーターが顔をしかめた。
身内の散財ぶりに情けなくなったというところか。
「いえ、桁違いに高額な何かを数点ほど購入しているのです」
「何かだって?」
訳が分からないとばかりに困惑しながらカーターは首を捻っている。
「何を購入したのか分からないのかい?」
そんなことがあるだろうかと言わんばかりだ。
「はい、申し訳ありません」
爺さん公爵が項垂れる。
「いや、責めているわけじゃないんだよ」
カーターが慌ててフォローする。
「うちの会計担当がそんないい加減な仕事をしているとは思わなかったのでね」
「帳簿上は問題がないのです」
「どういうことかな?」
カーターが首を捻ったが、これは俺も同じだ。
矛盾しているからな。
帳簿で問題がないなら、何を買ったのか分からないなんてことは無いはずだが。
訳が分からんと言おうとした時である。
「あ!」
ふと、閃いた。
「ハルト殿、どうしたんだい?」
カーターが問いかけてくる。
だが、俺に向けている視線は何かを期待するそれだった。
俺が答えを導き出したものと思い込んでいるかのようなワクワクぶりだ。
『思いつきに過ぎないんだがな』
確かに筋は通ると思う。
が、根拠はない。
こじつけと言われれば、それまでなのだ。
にも関わらず、まるで正解に違いないと言われているようで、実にやりにくい。
「該当するブツが無いんじゃないか?」
「そ、そうですっ」
興奮気味に爺さん公爵が前のめりになった。
今にも椅子から腰を浮かしそうだ。
「何か心当たりがおありでしょうか?」
「帳簿上の品目は、もしかして美術品じゃないか?」
「っ!?」
爺さん公爵が頬を引きつらせて絶句してしまった。
思った以上に衝撃的な質問になったようだ。
確認だけするつもりが、何もかもお見通しと思われてしまったかもしれない。
『まさか、そんな訳はないよな』
とは思うのだが、どんどん顔色を悪くしていくのを見てしまうと断言しづらい。
「カッツェ?」
カーターの呼びかけに、ノロノロとした動作でそちらを見ようとする爺さん公爵。
「ハルト殿の言ったことは事実かい?」
「は、はい」
どうにかといった感じで答えが返された。
動揺が抜けきっていないようだ。
「桁違いに高額の美術品ね。
見栄っ張りの連中でも躊躇すると思うんだが……」
腕を組んで考え込み始めたカーター。
程なくして俺を見た。
「伯爵だ」
「そう考えるのが妥当だろうな」
「でも、何故?」
「証拠がないから断言はできないが、魔道具だろう」
「「「それだっ!」」」
カーターや爺さん公爵だけでなく、フェーダ姫までもが立ち上がってハモっていた。
「なぜ気付かなかったんだろう」
「確かに、そうですな」
「証拠がないから確定情報じゃないぞ」
「でも、それしか考えられないよ」
カーターの意見にうんうんと頷く爺さん公爵とフェーダ姫。
その後、証拠もない決めつけはミスを生む元だと言って聞かせることになった。
「とにかく何かあった時に動ける予算はあるんだな」
「それは、はい。
あまり余裕はありませんが……」
「借金がないだけマシだ」
こういう時にありがちなのが、山ほど借金を抱えている状態だ。
それが無いだけでも後の苦労が減るというもの。
「問題はスケーレトロだ。
国庫に余裕があると思うか?」
そこまでは爺さん公爵も知らないはず。
推測するしかできないのは承知の上で聞いた。
意見のひとつとして参考にはできるだろう。
数字には強そうだし、的外れなことは言うまい。
「有るか無いかで言えば無い方でしょう。
あそこはバーグラーとの戦争に明け暮れていますからな。
借金を抱え込んでいるか否かは、何とも言えませんが……」
「税金の多くが戦争に費やされていると?」
「そこは間違いないでしょう」
「エーベネラントが勝っても損害を賠償させるのはほぼ無理だな、これは」
現実とは時として残酷である。
戦争に勝とうが負けようが損をするのが確定したようなものなのだから。
しかも戦争をするしかない状況に引きずり込まれようとしている。
『厄介なことだ』
「王家の国民からの支持や人気は?」
「ありませんな。
税率の高さに加えて強制的な徴兵が行われておりますゆえ」
「圧政ってやつか」
「はい」
「だとすると逆らう奴は有無を言わさず投獄する口か」
「相手によりますな。
貴族ならば、それは正しい認識でしょう。
平民は殺されるか前線に送り込まれるかのようです」
余計に酷い。
「その様子だと、かなり恨まれていそうだな」
よく今まで暴発しなかったものだと感心させられる。
だが、そんなものなのかもしれないと思い直す。
似たような事例を知らない訳ではないのだ。
元現代日本人としては直接的に見ることはなかったが。
それでも歴史の授業やニュースなどで見聞きしてきた。
「はい、噂に聞くバーグラーほどではないようですが」
「どうだろうな。
噂なんて膨らんだり余計なものがついたりするもんだぞ」
「それはあるかもしれませんな」
「どのみち、国民からすれば最悪の国って訳だ」
「仰る通りかと」
だからこそ躊躇う要素は完全に消えたと言っていい。
「じゃあ、気兼ねなくやれるな」
「どういうことです?」
「スケーレトロ王家を潰すんだよ」
「何ですとっ!?」
興奮して立ち上がってしまう爺さん公爵。
対してカーターとフェーダ姫は落ち着いている。
2人は「ああ、やっちゃうんだ」くらいの感覚のようだ。
『短期間で、ここまで慣れてくれるとはね』
シノビマスターとの手合わせを見せた甲斐があった。
「どうやって……」
聞きかけて途中で言葉を失ってしまう爺さん公爵。
無理もない。
想像も見当もつかないだろうからな。
「戦争にならないズルい手ってやつを使うのさ」
「は?」
呆然と立ち尽くす様を見て、俺は不敵に笑ってみせた。
読んでくれてありがとう。




