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778 到着したけど……

「よくぞ、御無事でっ……」


 爺さん公爵の膝が落ちる。

 そのまま天を仰ぐように涙を流し嗚咽し始めた。


「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


『吠えてんのか泣いてんのかどっちだよ』


 厳めしい顔をした爺さんがこの状態だと迫力がある。

 側近がビビってわずかに後ずさったしな。

 カーターは苦笑するだけで動じていなかったけど。


「大袈裟だなぁ」


 カーターの一言に爺さん公爵はカッと目を見開いた。

 流れる涙もそのままに勢いよく立ち上がる。


「何ろぉっしゃいまぅかっ!?」


 泣いてるせいで噛んだのかと思わせるような発音だ。

 本人もそれが分かったのだろう。

 唇を引き結んでグシグシと袖で涙を拭う。


 直後から涙は流れなくなった。

 切り替えが早い爺さんだ。


「自分は寿命の縮まる思いで心配したのですぞっ」


「あー、それはすまない」


 食って掛かる爺さん公爵にカーターは気圧され気味だ。

 それでも穏やかな笑みは崩れなかったが。


「ありがとう。

 心配かけたね」


「なんと勿体なき御言葉っ!」


 拳を握りしめて感動する爺さん公爵。

 感情の振れ幅が大きい。


『血圧、大丈夫か?』


 思わずツッコミを入れたくなってしまった。


「私の心配はしてくださらないのですね」


 フェーダ姫にツッコミを入れられアタフタする。


「いっ、いえっ、決してそのような……」


「冗談です」


 クスクスと笑われていた。

 ホッと安堵する爺さん公爵。


 その後は、俺たちの紹介や礼と報酬の話になったりした。

 報酬は別にいらないんだが。


「そういう訳には行きませんぞっ!」


 爺さん公爵に力を込めて言われてしまった。


「殿下や姫様の恩人に何も返さずなど、我が国の見識を疑われてしまいます!」


「んな大袈裟な……」


「何を仰いますか!」


 爺さん公爵の鼻息が荒い。


『面倒くせえ』


 こういうタイプは暑苦しくて苦手だ。


「好きにしてくれ。

 俺は友達を助けただけさ。

 それで何かを要求するのはお門違いだ。

 そんなのは友達とは言わないからな」


 俺の言葉に爺さん公爵が険しい表情で顔を真っ赤にしている。


『あれ、怒らせた?』


 礼儀知らずとか思われたのだろうか。

 否定できない。

 物凄くありそうな話だ。


「なんという……」


 爺さん公爵が俯きながらブルブルと肩を振るわせた。


『あ、ヤバい』


 そうは思うが、これを止める手立てがない。

 敵なら問答無用でぶん殴るところだが、そうも行かない相手だ。

 最悪のパターンにはまり込みそうになったら魔法で眠らせるとしよう。


「なんという奥ゆかしさっ!」


「は?」


「感動いたしましたぞっ、ヒガ陛下っ!」


「えー……」


 何をどうしたら、そうなるのか。

 小1時間は問い詰めたくなったさ。

 面倒くさいから、やらんけど。


 爺さん公爵が続けて何やら捲し立てるように喋っている。

 が、俺は聞いていない。

 それだとマズいかもしれないので音声をテキストに変換しつつログだけ取っているが。

 万が一の時にはカンストした【速読】スキルでログを一気に読み込むまでだ。


 結局は何事もなく終わったが。

 ただし時間は十数分ばかり無駄に費やしたけどな。

 カーターが止めなかったら、まだ続いていたかもしれない。


 ちなみにテキストログを後で確認したら同じことを何度も言っていた。


『危ない、危ない……

 無限ループ地獄にハマるとこだったんだな。

 完全無視で聞かなくて正解だったか』


 無駄に精神力を削られるところだった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 翌朝、朝食のもてなしを受けた。

 メインは塊肉の蒸し焼きという朝から食べるにしてはヘヴィな代物である。

 後は白パンに野菜スープというシンプルなメニューだった。


 それなりに旨いとは思うが、些か食べにくい。

 俺はテーブルマナーを無視して好きにやらかすことに決定。


 まずは塊肉をフォークで突き刺して持ち上げる。

 この時点で給仕を務めるメイドたちが目を丸くしていた。

 そのまま齧り付くつもりかと言わんばかりに凝視してくる。

 それらを無視して風魔法を使った。


 塊肉をスライスして更に1枚1枚戻していく。

 すべて風魔法で行っていた。

 魔法が自在に使えるのはカーターにはバレているので遠慮はしない。


「す、すごい……」


 俺のそばにいたメイドが呟くのが聞こえた。

 他にも似たような呟きやゴクリと喉を鳴らすのが聞こえる。

 俺は素知らぬ振りを通した。


 続いて、白パンを横半分に切断。

 薄切り肉を何枚か挟んでサンドイッチにしてから食べていく。


「ヒガ陛下、私のも頼めるかい」


 カーターが塊肉にフォークを突き刺して待ち構えていた。

 同席していた爺さん公爵が吹き出さんばかりに目を丸くしていたが、気にしちゃいない。


「私もお願いします」


 フェーダ姫も続く。

 メイドたちも目を白黒させていた。

 とはいえ、うちのメンバー全員が既に俺の真似をしていたんだけど。

 どちらに驚いていたのかは分からない。


「はいよ」


 リクエストに応えて肉とパンを処理する。

 カーターたちがサンドイッチに仕上げて食べ始める。


「こっちの方が食べやすいね。

 しかも美味しく感じるよ」


「本当ですね」


 爺さん公爵は何かを言いかけたが、結局は口出しを控えてくれたようである。

 それ以後、薄切り肉のサンドイッチは王城での定番料理となったという。

 それを聞いたとき意外と融通の利く爺さんだと思った。

 暑苦しい性格をしているのは玉に瑕だけど。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 食後は謁見のまではなく応接間に通された。

 応接間と言うには、やたらと広い場所である。

 俺たち全員が椅子に座っても、空間にゆとりを感じるほどだ。

 その辺はゲールウエザー王国の王城でも似たようなものだけど。


「お話は伺いました」


 爺さん公爵が話し始める。


「スケーレトロと戦争になるのは避けたいのですが」


「たぶん無理だね」


 カーターが答えた。


「断言されないのですね」


 爺さん公爵が驚いている。

 カーターの占いの正確さを知っているようだ。


「これという結果が見られないんだよね」


「それ、俺が介入しようとしているからだな」


「そうなのかい?」


 カーターが驚いた様子で聞いてきた。


「まだ方針を決めてないからな。

 結果がどうなるか流動的なんだろう」


「おおー、なるほど!」


 感心しているけど、それでいいのだろうか。


「介入と仰いましたな」


 爺さん公爵が何か問いたげに話し掛けてきた。


「友達に喧嘩を売る奴は俺が潰す」


「しかし、それでは我々の……」


 何かを言いかけた爺さん公爵だが途中で言い淀み、最後までは語らなかった。

 だが、言いたいことは何となく分かる。

 他国が介入すれば国の面子が保てないからな。


「じゃあ傭兵として雇ってくれるか?

 依頼料は友達価格で安くしておくからさ」


「そんな無茶苦茶なっ!?」


 座っていた椅子から立ち上がる爺さん公爵。


「ヒューゲル公爵、落ち着こう」


 カーターが苦笑しながら宥めにかかってくれる。


「そうですよ。

 ヒガ陛下は凄いんです。

 一騎当千の強者なんですよ」


 何故か、この場についてきてしまったフェーダ姫もフォローしてくれる。

 少なくとも本人はそのつもりだ。

 まあ、俺が[一騎当軍]の称号を持っていることは知らないだろうけど。


「そういうことではないのです」


 どうにか落ち着きを取り戻した爺さん公爵が座り直した。


「いかに強くとも他国の王族の方々を最前線に送り込むなどしていいはずがありません」


「最前線じゃなきゃいいのか。

 だったら後ろから大魔法をぶっ放すのでもいいんだけど」


「ぐっ……」


 答えに詰まっている。


「ダメです」


 それでも断固として却下する姿勢を見せている。


「俺らの立場が問題になる、か。

 なら、ただの冒険者として雇えばいいさ」


「無茶を仰らないでください。

 戦争など回避できるならそれに越したことはないのです」


 爺さん公爵の言うことはもっともだ。

 国庫を食い潰していくだけで利益を生まないからな。


 勝てば敗戦国に賠償金を支払わせることも可能ではあるが。

 負担するのは敗戦国の国民だ。

 それは恨みを買うことに繋がる。


 恨みが積もりに積もって行き着く先は戦争だろう。

 堂々巡りというわけだ。

 戦争が続けば戦死者も増えていく。

 それも恨みを増幅させる元だ。


 爺さん公爵は、そういう泥沼にはまり込むことは何としても回避したいはず。

 そうでなくても国の中枢がボロボロの状態である。

 政治基盤を安定させるのが何よりの急務。

 戦争している余裕などない。


「残念だけど無理だろうね。

 その未来だけが、どうしても見ることができなかった」


「なんということだ……」


 爺さん公爵がガックリと肩を落とした。

 国の未来を憂えているのだと思うと可哀相になってくる。


『しょうがない。

 何とかするか』


読んでくれてありがとう。

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