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765 精霊獣でも伝説レベル?

「そこまでしなくていいって」


「ですがっ」


 ダニエルは額を床にすりつけたままだ。


「俺の相棒は短気だが狭量じゃないんだよ」


「くーくくぅ」

 その通りっ、とか言ってますが?


『自分で言ってどうするよ。

 自慢にゃならねえっての』


「とにかく立とうぜ。

 もう怒ってないってさ」


「はあ……」


 戸惑いながらも、とりあえず顔だけは上げるダニエル。

 立ち上がるような気配はない。


「ヒガ陛下、相棒と仰られましたが……」


 座ったまま尋ねてくる。


「縁があって契約した」


「なんと……」


 ダニエルは呻くように呟いたきりになってしまった。


『そんなに驚くことかね』


 俺はまだローズが神霊獣だとは言ってない。

 言うつもりもないが。

 聞かれた場合には答えない訳でもない。

 真っ正直に神霊獣と言うかどうかは別だがね。


「ヒガ陛下……」


 その呼びかけは総長のものであった。

 どうにか復帰してきたようだ。

 ナターシャも同じく我に返っているようだ。

 ただ、2人とも夢から覚めた直後のようなボンヤリした表情ではあったが。


「いま契約と仰いましたか?」


「言ったよ」


 俺の返事を聞いて2人が顔を見合わせる。

 完全に目覚めたらしくアイコンタクトを交わしていた。

 何かを確信している風である。

 微かに嫌な予感がした。


「先に言っとくが、コイツは俺の相棒だ」


 予防線を張っておくに越したことはないだろう。


「間違っても魔物呼ばわりはしてくれるなよ」


 ローズを親指で指し示しながら忠告する。

 何処まで話を聞いていたかが分からない以上、無駄なことだとは思わない。


「既に怒らせたせいで自滅したのがいるからな」


 ダニエルの方を見ると未だに座り込んだままだ。

 土下座していないだけマシだが。


「はい、それはもう間違いなく」


 総長が返事と共に頷いた。

 ナターシャもコクコクと首を縦に振って同意する。


「ならいい」


「あの、ヒガ陛下。

 ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか」


 おずおずとナターシャが聞いてきた。


「何が聞きたいんだ」


「あちらのピンクの相棒さんなんですが」


 奇妙な呼び方になったが仕方あるまい。

 咄嗟に他の呼び方を思いつくことができなかったのだろう。

 魔物呼ばわりは厳禁と言われたのがプレッシャーになったと思われる。

 呼ばれたローズは「私?」って感じで自分を指差している。


「それで?」


 先を促した。


「もしかして精霊獣だったりとかは……」


 なかなか鋭いものだ。

 豊富な知識があるからこそだとは思うがね。

 普通は俺が否定したところで魔物から頭が離れないと思うし。


 良くて妖精とかだろうか。

 それすらもレアケースのようだが。

 つまり精霊獣という解答を導き出したのは超レアケースということだ。


『レアとか超レアとかカードゲームみたいだな』


 ふと、そう思った。

 帰ったらカードゲームを普及させてみても面白いかもしれない。

 問題はそういう系のカードゲームはやったことがないことだ。

 元選択ぼっちは伊達じゃない。


『そういや、トモさんは好んで遊んでたんだっけ』


 いっそのこと開発を依頼するのも悪くないかもしれない。

 知らない人間が一から作るよりは良いものができると思う。

 ──などと思考を脱線している場合ではなかった。


「もしかしなくてもと言ったらどうする」


 あやふやな肯定にしておく。

 否定はしない。

 少なくとも以前は精霊獣だったのだから。

 些か強引だがウソにはならないだろう。


「「やっぱり!」」


 ナターシャと総長が身を乗り出して迫ってきた。

 鼻息も荒い。

 比喩ではなくリアルで荒いのだ。

 女性としてそれはどうなのかと思うのだが、両者共に気にした様子はない。


「興奮しすぎだよ」


 たしなめてみたが、効果があるようには見えない。

 まあ、この程度で聞き分け良くしてくれるなら目を血走らせたりはしないだろう。

 むしろ更に身を乗り出してきたくらいだし。

 2人とも内緒話でもしたいのかというほど顔を近づけている。

 これが野郎だったら押し退けるか、ぶん殴るかはしているところだ。


「いえっ、精霊獣ですよっ」


「そうです!

 あの伝説のっ!」


 ナターシャばかりか総長まで周囲が見えていないような状態だった。


「あのとか言われても知らんよ」


 向こうが興奮すればするほど反比例するように冷めていく。

 彼女らが言う伝説を調べる気にもなれない。


「これくらいで驚いてたらミズホ国では心臓が止まるぞ」


 決して大袈裟ではないつもりだ。

 ガンフォールでさえシヅカの本当の姿を見て腰を抜かしたからな。


「「……………」」


 2人は唖然とした表情で固まってしまった。

 すぐには復帰できないだろうし、今のうちに本来の目的を終わらせる。


「ローズ、この2人だ」


「くーくぅくっくぅ」


 もう終わってるー、と言いながらクルクル回る。


『それはいつものことだから分かってるって』


 俺が知りたいのは結果である。

 勿体ぶってくれるお陰でドキドキしてきた。

 自分の目が節穴かもしれないなどと考えてしまう。


「で、結果はどうなんだ?」


 先を促すとローズはピタリと止まった。


「くうくー」


 合格ぅ~、と言わて一安心。

 おそらくは大丈夫だろうと思っていても、ね。

 わずかにでも不安を感じていると結果を知るまではドキドキするものだ。


『はー、やれやれ……』


 あとは面倒なので魔法でチャチャッと先に進めることにした。


「と、その前に」


 座り込んでいるダニエルと話をつけるべきだろう。

 復帰できずにいる2人を放置してダニエルに話し掛ける。


「審査は終了だ」


「もう、ですか?」


 怪訝な表情をしながらもダニエルは立ち上がった。


「何かしたようには見えないのですが……」


「そのあたりは国家機密だ」


「それでは仕方ありませんな」


 ダニエルはあっさり退いてくれた。

 表情の上では知りたいという気持ちを隠しきれてはいなかったが。


「悪いな」


「いえ」


「深入りすると後戻りできなくなるかもしれないんでね」


「それはゲールウエザー王国の宰相としては避けねばならないですな」


 ダニエルが苦笑した。

 国への帰属意識が根強いようでなによりだ。

 この爺さんまでミズホ国に来ることになったら大変である。

 ゲールウエザー王国が転けるとは言わないが、クラウド王の負担が激増するのは確実だ。


『下手すりゃ早死にしかねんな』


 友好国の弱体化を招きかねない事態は回避せねばならない。

 すでにそういう事態になりかねないことをしている俺が言っても説得力はないが。


「それで審査結果ですが」


「両名ともに問題なく我が国に迎え入れることができる」


「そうですか」


 ダニエルは目を閉じ深く頷いた。


「では、この後のことですが」


「あれこれ準備をしたいところだが……

 本人たちに最終的な意思確認をしてからだな」


「前言を撤回するようなことはないと思いますが」


「絶対とは言い切れないぞ。

 相棒を見て固まってしまったからな」


「ああ……」


 チラリとローズを見るダニエル。


「精霊獣だとか。

 寡聞にして、いかに凄いのかは分かりかねますが……」


「妖精よりレアだと思えばいい」


「それはっ!?」


 仰け反るように驚くダニエル。

 妖精のレア具合は知っているようだ。

 少しは総長たちの心情が理解できただろう。


「迂闊に口外できませんな」


「しても誰も信じないと思うぞ」


「いえ、しかし……」


 唸るように言うなりダニエルは目を閉じ腕を組んで考え込む。

 が、さして待つまでもなく結論は出たようだ。


「審査のことは王に報告しても?」


「した方がいいだろ」


「ですが……」


 ダニエルが言い淀む。

 報告するということは情報漏洩を考えないといけない。

 壁に耳ありとか。

 人の口には戸が立てられないとか。

 心配し始めると切りがない。


「下手に隠しても、ややこしいことになるだけだぞ」


「それはそうですが……」


「コソコソ嗅ぎ回るような輩は、碌な目にあわないだろうよ」


「どういうことですかな?」


「何かあったらシノビマスターが出張ってくる気がするんだよな」


 言葉を失うダニエル。

 無いとは言い切れないと思っているのだろう。

 渋い表情をしている。


 実際のところは、ここを出る時に記憶を封印させてもらうのだが。

 申し訳ないが決定事項だ。

 総長らが移住しないとは言わないだろうし。


「それはそれで避けたいですな。

 細心の注意を払って報告させてもらいます」


「済まないな」


「いえ」


 ダニエルは俺がどういう意味を込めて詫びの言葉を口にしたかは分かっていないだろう。

 それを思えば罪悪感を感じないではない。


『こういうやり方は褒められたもんじゃないしなぁ』


 かといって友好国を自分の国に併合する訳にもいかない。

 俺は世界征服がしたい訳じゃないのだ。

 まあ、勢力は拡大中だから説得力はないかもだけど。


『好き放題やって来たせいだな』


 反省はするけど悔い改めはしない。

 俺は俺だから、このまま突っ走るのみだ。


読んでくれてありがとう。

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