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760 どうせやるなら

すみません。

遅くなりました。

「コレデ終ワリカナ?」


「まさか、冗談にしても笑えんよ」


「デアロウナ。

 手合ワセト言ウニハ物足リヌ」


 静まり返っていた周囲がざわつき始める。


「冗談って……」


「まるで本気じゃなかったのか」


「恐ろしいものだな」


 表情を凍り付かせたまま騎士たちが話している。


「魔導師級の魔法で派手にやり合ってたのに……」


「物足りない?

 本気か?

 正気を疑うぞ」


 1人の騎士が頭を振った。


「気持ちは分からんでもないな」


 同僚を慰める別の騎士。


「あの場に我々がいたらと思うと生きた心地がしない」


「悪夢だろうな」


「ああ、我々が束になってかかっても生き残れる気がしない」


「そこはせめて勝てる気がしないと言おうぜ」


「バカ言え。

 決闘ですらないんだぞ。

 向こうは本気さえ出していないんだ」


「それはさすがに、ないんじゃないか?」


 疑り深い騎士も中にはいるようで。


「本当は物凄く必死になってたけど隠してるんだよ」


 持論を披露していた。


「息ひとつ乱してないぞ」


「汗もかいちゃいない」


 すぐに同僚から反論されたが。


「殺気を感じないから本気じゃないとか言うつもりか?」


 隊長が持論騎士に問うている。

 慌てて首を振る持論騎士。


「彼らが手練れなのは間違いありませんよ。

 白兵戦だけでなく魔法でも凄まじいものを見せられましたし。

 真似をしろと言われても、到底無理としか言えないですね」


「できる訳ないだろ」


「魔法以外でも無理だぞ」


「何度も言うが、悪夢だな」


 2回も言うほど大事なことなのか。

 単に悪夢という単語がこの状況にあっていると感じただけなのだろうが。


「誰か、これは夢だと言ってくれ」


「夢だ」


 冗談を言うだけの精神的余裕のある者もいたようだ。

 1人の呟きに付き合っている。


「ゴスッ」


「痛えっ!」


 結果としては余計な手出しとして報復されるのだが。

 そこからはグダグダの言い合いになるが、いちいち見ていられない。


「じゃあ、続きと行こうか」


 俺が呼びかけると互いに頷き合った。

 続行が示し合わされたことは周囲にも伝わっただろう。

 これ以上があるのかと、ギャラリーの緊張感が高まっていく。


「シカシ見物シテオル者ニハ酷ナ様子。

 目ガ追イツイテオラヌノデハ何ガ何ヤラ分カルマイ」


「そのようだな」


 俺は嘆息し言葉を続けた。

 これも三文芝居だが、それらしく見せないと正体が見破られかねない。


 特に総長やカーターなんかが怖い。

 洞察力やら勘の鋭さが他の者たちより抜きん出ているからな。

 それに準じるのがフェーダ姫だろう。


 あと、護衛騎士隊長のダイアンも侮れないと思う。

 漠然とした勘頼りではあったが火球の使い方を見抜いていたし。


 使い道は絞られると思っていた【千両役者】は大活躍である。

 お陰で使用頻度が少なかったにもかかわらず熟練度は熟練プロの領域に達している。

 カンスト目前である。


『特級スキルだから本来なら年単位で熟練度を上げていくものなんだがなぁ……』


 スキルの種の効果が出ているのは間違いない。


「だが、手抜きでは手合わせにならんぞ」


「イカニモ。

 ナラバ少シバカリ趣向ヲ変エルトシヨウ」


 シノビマスターが納刀し、両手で印を組む。

 間合いが開いているだけに接近戦に持ち込んで術を阻害するのは間に合わないだろう。

 並みの相手ならともかく、中身が俺のシノビマスターだ。

 邪魔する前に先手を打たれるのは目に見えている。


「忍法、影ノ鳥」


 突如としてシノビマスターの前に出現した闇の塊が横に拡がる。

 それは翼を広げた鷹のごとく。


『色だけで見るとカラスなんだがな』


 あと、デカい。

 翼の先から先までが人が両手を広げたよりも、ひとまわり大きいのだ。

 魔法で作り上げた鷹だから、大きさは込めた魔力による。

 忍法と称してはいるが魔法である。


 まあ、そこは様式美を優先したとしか言い様がない。

 忍者が魔法とか格好がつかないからな。

 ちなみに属性は闇だ。


『確認するまでもないとは思うが……』


 属性から考えると、基本は状態異常を狙うのが目的である。

 物理的効果も一応はあるが、オマケでしかない。

 体当たりをしたときにすり抜けたんじゃ実感が伴わんし。

 ある程度はぶつかったと分かる方が見た目上の効果も違ってくるだろう。


『それにしても我ながらネーミングセンスが酷いよな』


 これが火属性だったら何が元ネタかバレてしまう。

 まあ、バレるのは動画に慣れ親しんでいるうちの面子だけだが。

 現状ではトモさんが1人喜んでいる。

 炎じゃなくても元ネタに気付いたようだ。


 とにかく影ノ鳥が鳥らしい動きをしながら俺に向かって飛んで来た。


「わざわざ羽ばたかせるとか、芸が細かいな」


 横に躱そうとすると向きを変え追ってくる。

 この調子では上を跳び越えたり下を潜り抜けようとしても同じだろう。


 ただ、躱すなら左右ではなく上下どちらかだ。

 上下であれば横のように幅がない。

 ギリギリまで引き付けて躱すことは、そう難しくはないはずだ。


 とはいえ、上は敵に無防備な姿をさらすので追尾されなくても論外。

 残るは下だが、地面すれすれまで追ってくるだろう。

 タイミングもシビアになる。

 結果、下を抜けた瞬間にシノビマスターから追加の1発というシナリオだ。


 影ノ鳥を操るのに手が塞がって何もできないなんてことはない。

 確実に罠である。

 スピードで対抗して躱しきるのは不可能ではないがね。


 だが、それをするとギャラリーには何がなんだかとなってしまうのは明白。


「それならこちらは魔法で対抗だ」


 チョイスしたのは光魔法。

 手にした光剣をそのまま利用して弓矢を形成した。

 撃ち放たれた矢は影ノ鳥に深々と突き刺さる。

 が、鳥は少しばかり小さくなっただけで仕留めることはできなかった。


 魔物や獣なら急所に当てれば落とせただろう。

 しかしながら相手は魔法の産物である。

 そんな常識的な倒し方ができるはずもない。


 ぶつかるまで光の矢を当てるのは非現実的だ。

 接近してくる相手に矢を放つのは、あと1回が限度だろう。

 少なくとも数発は当てないと影ノ鳥は消滅させられそうにない。

 ならば、どうするか。


「こいつは行きがけの駄賃だ」


 光の弓をブーメランに変えて影ノ鳥に投げつけた。

 これならば数本分の光の矢と同等のはず。

 光のブーメランが命中。

 当たった瞬間、闇と光が破裂するように弾けて飛んだ。


「ヤルナ!

 ナラバ次ダ!!」


 先程とは違う印を組んできた。


「忍法、砂狼爪牙」


 今度は砂でできた狼が何体も出現させる。

 地魔法だ。


 が、砂でできているだけに物理的な破壊が難しい。

 衝撃は吸収され、斬撃はすぐに塞いでくるはず。

 対抗するには工夫が必要だ。

 向こうは今度も躱させはしないとばかりに横に拡がり襲いかかってきた。

 両サイドから順に駆けてくる。


 相変わらず芸が細かいが感心している場合ではない。

 半円状に向かって来ることで横には逃がさないつもりのようだ。

 退路は背後しか無さそうである。


 まあ、俺も退くつもりはない。


「砂で来るなら水だろ」


 水魔法のウオーターカッターを狼と同数出して撃ち出した。

 次々と命中し、狼を切り刻んでいく。


 が、ここで誤算があった。

 ウオーターカッターが砂の狼を突き抜けてしまったのだ。

 勢いと刃の鋭さがこの結果をもたらした。


 これでは物理攻撃の斬撃と大きく変わらない。

 現に狼たちはすぐに再生し動きを止めなかった。

 切り口に水を含んだ分だけ多少は遅くなったけれど。


「なら、こうだ」


 再びウオーターカッターを繰り出した。

 が、同じものではない。

 刃先を丸めて斬撃の威力を落とした。

 砂の狼に食い込んだ瞬間に大きくブレーキがかかる。


 それだけではない。

 ウオーターカッターは形を変え水の蛇と化して次々と巻き付いていく。

 あえて染み込ませない。

 縛り上げられた狼はすぐに身動きを封じられていた。


「忍法、火ノ旋風」


 シノビマスターの次の手だ。

 ただし、その声は背後から聞こえてきた。

 振り返ると同時に飛び退る。


 炎に包まれた旋風が迫っていたのだ。

 いつの間にか後ろに回り込んでいたシノビマスターが放ったものである。

 竜巻でないのは威力が大きすぎるからだろう。

 代わりに数本でこちらの回避方向を潰しにかかってくる。


 俺は動きを封じた砂の狼たちを跳び越えた。

 そして狼たちを巻き込むように水壁を展開。

 旋風と正面衝突!


「ドドドドドォンッ!」


 派手な爆発音が鳴り響く。

 水壁は炎の旋風を道連れにして木っ端微塵に砕け散った。

 周囲に立ちこめる水煙。


 丁度いい。

 ここで終わりにしておこう。


「フフフ、ナカナカ面白カッタ」


「そうかい?」


「今回ハココマデニシテオコウ」


「そうだな、これ以上は殺し合いになる」


「サラバダ」


 水煙が徐々に晴れていく。

 周囲の様子が分かるようになる頃にはシノビマスターの姿は何処にもなかった。


読んでくれてありがとう。

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