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750 起床と朝食と

 朝になって皆が目覚め始めた。

 一番手はフェルトだ。

 半身を起こして伸びをしようとしたところでピタリと止まる。


「え……?」


「やあ、おはよう」


 子供組はまだ目覚めていないので俺は相変わらず動けぬままだ。

 さぞかしフェルトには珍妙に見えていることだろう。

 些か恥ずかしくはあるものの、それを表に出すと変に気を遣わせてしまいそうだ。

 ここはグッと我慢する。


「お、おはようござい、ます」


 困惑しながらも、どうにか挨拶を返してくるフェルト。


「どうなさったんですか?」


「どうもこうも見ての通りだ」


「もしかして一晩中とか……」


「そんなことはないぞ」


「そうですか」


 ホッとしたように息を吐き出すフェルト。


「横になっていた時間の半分以上は、こんな状態だったがな」


 まあ、半分以上というのは控えめに見積もっての話だ。

 四捨五入すれば確実に入の方になるから間違いではない。

 七捨八入だと捨になってしまうがね。

 ちょっと話を盛るとそれでも入になってしまうのが微妙なところである。


 まあ、身代わり人形が横になっていた時間をカウントしないなら、ほぼフルタイムだ。

 尾ひれがついて騒がれても嫌だから俺としては削ったつもりだった。


「そっ、それは……」


 半分だけでもフェルトには衝撃的だったらしい。

 動揺してたじろぐくらいには。

 その拍子に手がトモさんに当たった。


「ん~……」


 目を閉じたままムクリと上体を起こすトモさん。

 そしてカッと目を見開いた。


『個性的な目覚め方だなぁ』


「おはよう、諸君っ」


 覚醒直後からテンションが高い。


「おはようございます」


 フェルトも慣れたもので普通に応じている。


「あー、はよー」


 この状況でも目を覚まさない子供組に、俺の方はテンションが下がり気味である。


「ん~?」


 目敏く俺の状況を視認したトモさんがマジマジと見てくる。


「ブ────────ッ」


 そして絵に描いたような吹き出しっぷりを披露してくれたさ。


「アハハハハハッ」


 もちろん笑われてしまったのは言うまでもない。


「ハルさん、やるなぁ。

 朝っぱらから笑わせてくれるじゃないか」


「笑わせたい訳じゃないんだけど」


 楽しげなトモさんに対して俺は仏頂面だ。

 ああは言ったが、笑われるくらいなら仕方がないかとも思うんだけど。

 逆の立場なら俺も笑ってると思うし。


 俺が耐えられないのは室温の上昇である。

 段々と気温が上がってきて蒸し蒸しが増してくる訳で……

 俺だけ不快指数が跳ね上がっているのだよ。


「もしかして昨晩からずっとかい?」


 トモさんはフェルトと似たようなことを聞いてくる。

 さすがは夫婦であるが、そんなことにツッコミを入れる気にもならない。


「横になっていた時間の半分以上かな」


 とりあえず投げやりな感じで同じような回答をしておいた。


「色々と美味しいネタじゃないか」


『当事者じゃなければね』


「俺的には美味しくも面白くもないよ」


 蒸し暑いだけだ。


「えー、だって幼女まみれなんだぜ。

 日本だと色んな方面から炎上しそうじゃないか」


 ネットで拡散されると酷い目にあいそうだ。


「それを言ってくれるなって。

 気付いたらこの状態だったんだから」


「それで動くに動けず今までかい?」


 完全に読まれている。

 身動きが取れないから照れ隠しにそっぽを向くこともできない。

 どうにも居心地が悪い。


「まあね」


 照れを残したままのせいか半ば投げ遣りな返事になってしまった。


「まあまあ、そう落ち込むもんでもないよ」


『落ち込んでるんじゃなくて恥ずかしいんだよ』


 言うと余計に恥ずかしくなりそうなので、それについてはコメントしない。

 代わりに抗議することにした。


「そういう台詞は俺と同じ目にあってからにしてくれないか」



 が、トモさんの受けは軽い。


「その時は笑ってくれればいいよ」


 完全に他人事である。

 絶対に自分はそういう目にあわないという確信の元にコメントしているのは間違いない。


「それより今の状況はアレじゃないかい?」


「アレって何さ?」


「フルアーマーグランダムっぽくない?」


『幼女でフルアーマーって……』


 発想が「画像でボケろ」の大喜利みたいだ。

 そこまでポジティブシンキングをされると、どうでも良くなってくる。

 毒気を抜かれたというか。

 ちょっとだけ同意したくなったせいもあると思う。


 完全に同意に至らないのは──


「身動き取れないんだけど?」


 という理由があるからだ。


「これほど役立たずのフルアーマーも無いさ」


 とにかく動けないんだから。


「寄って集って袋叩きにされるのが目に見えるだろ?」


「確かに動けなきゃフルアーマーにしたって意味ないね」


「これじゃあ拘束具と言った方がお似合いだよ」


「ハハハ、上手いこと言うなぁ」


 トモさんは感心しているけど。


「座布団がもらえるレベルじゃないよ」


 個人的には、さっきのフルアーマーの方がポイントが高いと思う。


『まあ、どっちでもいいけど』


 既に投げ遣りだ。

 排熱問題を抱えているせいだろう。

 これが非常事態なら、もう少し真面目に対応するんだけどね。


「あー、でも、アレに似てるかな。

 ゴテゴテした武装がないシンプルなフルアーマーだからさ」


 トモさんはあくまでフルアーマーで押し通すようだ。


「アレって箱庭の中の戦争の?」


「そうそう」


 嬉しそうに頷く。

 言われてみれば、箱戦の新型グランダムの増加装甲はイメージ的にも納得できる。

 だからこそ少ないヒントで分かってしまったのだが。

 なんだかんだ言って俺もグランダムがネタだと付き合ってしまうのな。


 トモさんが、この作品に出てくるフルアーマーを思い出した理由は何となく分かる。

 敵のメタルサーバントで武装の塊のゲンブファーがお気に入りだからだ。

 紙装甲だけど攻撃力と機動力は並みではない。

 尖った性能を持っているのは好みの分かれるところだろう。


「あー、あれは良かったよねー」


 こうなると俺たちは止まらない。

 グランダムの話で盛り上がる。


 前日と違って、この場にミズホ組以外の面子がいないのは幸いかもしれない。

 俺は幼女フルアーマー状態だし。

 トモさんと意味不明な話題で談笑しているのだから。


 ちなみにフルアーマーは話の途中で除装された。

 子供組が目覚めた訳ではなく、ハリーが子供組を引き剥がしてくれたからだ。

 結局、子供組は起床予定時間きっかりまでグッスリと寝続けたのである。


『寝る子は育つって言うけどさ』



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 身支度をしてゲールウエザー組やエーベネラント組と村長宅の1階で合流する。

 挨拶を済ませ俺が用意したサンドイッチで朝食となった。


 配膳はメイドたちに任せている。

 全員に行き渡るのを待つ。


 ミズホ組以外の面子が配られるサンドイッチを食い入るように見ている。

 食いっぱぐれ防止のため、ひと皿に全種類を用意しておいた。

 足りない分は大皿に用意したお代わり分を自分で取りに行くスタイルである。


 ドリンクはアイスティーを選んだ。

 コーヒーだと少しサンドイッチの味が負ける気がしたのでね。

 アイスなのは朝から既に汗ばみそうな気温になりつつあるからだ。

 決して俺が幼女まみれの蒸し蒸しした感覚を残していたからではない。


「これは初めての料理ですな」


 自分の前に配られた皿を見て興味深げにしているダニエル。


「そうですね。

 パンに様々な具材を挟んでいるようです」


 総長がそれに応じる。


「これは何という料理なんだい?」


 既に配られていたサンドイッチの皿を矯めつ眇めつして見ていたカーターが聞いてきた。

 その質問を耳にした面子の耳目が一斉に集まる。


「サンドイッチだよ」


 俺が答えるとミズホ組以外の面子から「ほー」とか「おー」とかの声が聞こえてくる。


「こんなに真っ白なパンは初めて見た」


「木目も細かいぞ」


「ああ、こりゃ凄い」


「昨晩も今朝も野営中の食事とは思えんな」


「まったくだ」


 エーベネラントの騎士たちが内輪でヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。


「見るからに柔らかそうだ」


「パンから甘い匂いもしているぞ」


「俺たちは夢でも見ているのか?」


 言い過ぎである。


「いつまで寝ているつもりだよ」


 そんな訳ないと仲間の騎士からツッコミが入る。


「だったら、これは天国の食卓じゃないのか?」


 ますます大袈裟になっていく。

 まだ食べてもいないのに。


「おいおい、俺たちを昇天させるなよ」


「だってなぁ……」


「気持ちは分からんではないがな。

 だが、これを用意したのはヒガ陛下だぞ。

 我々の常識など既に何度も吹き飛ばしているじゃないか」


「「「「「ああ……」」」」」


 そこで会話が落ち着いた。

 そのタイミングで、ちょうど配膳も終わる。


「それじゃあ、食べようか」


 俺がそう言うと──


「「「「「いただきまーす」」」」」


 子供組がフライング気味に食べ始めた。

 待ちきれなかったのだろう。


『まだ、話は終わってないんだがな』


 思わず苦笑が漏れる。


「お代わりは向こうのテーブルのを自由に取っていいから」


 言い終わると、俺も「いただきます」をして食べ始めた。


読んでくれてありがとう。

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