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735 取り憑かれたくはない

申し訳ありません。

遅くなりました。

「アノ世デ貴様ノ罪ヲ数エルガイイ。

 モットモ、アノ世ニ行ケルナラバダガ」


「何をっ!」


 見得を切りそうなくらいの大袈裟なアクション付きで気色ばむ骸骨野郎。


「分カラヌカ?

 あんでっどニ来世ナドアルハズモナカロウ」


「ふざけるなぁっ!」


 激しい身振りで何かを払うような仕草をした。


「私は不死だ!

 最強の存在だっ!」


 ヒステリックかつダイナミックに主張する。


「う゛ぁんぱいあ最弱ダトイウコトハ分カッテイル」


「違うっ!

 私は最強なのだっ!」


 俺の言うことは断じて認めないと全身で語っていた。

 いい加減、鬱陶しい。

 暑苦しいとも言う。

 何処かの元プロテニスプレイヤーかよと言いたくなるくらいだ。


「オ前ハ魔道具ノ力デう゛ぁんぱいあニハナッタガ、ソレダケダ」


「な、何故……それをっ!?」


 驚愕の表情で骸骨野郎がたじろいだ。


「何故そのことを知っているんだっ!?」


『アホだな』


 とぼけることを知らないのだろうか。

 俺としては話が早くて助かるが。


「言ッタハズダ。

 我ハ、神ニ遣ワサレタ、ト。

 貴様ノ悪行ハ、スベテ神ガ見テオラレル」


「何を言うのかっ!」


 動揺からの立ち直りが早い。

 認めたくないことを指摘されると過剰反応するらしい。


「私は何も悪いことなどしていない!」


 奴はキッパリと言い切った。


『マジで言ってるのか……?』


 一瞬だが絶句させられてしまった。


『何を言うのかは、こっちの台詞だよ』


 どの口が語るのか問い詰めてやりたい。

 厚かましいにも程がある。


「貴様ハ行動ヲ起コサネバ家督ヲ継ゲナカッタデアロウ?」


 ブラフではない。

 推測した後でもう1人の俺を呼び出し【目利きの神髄】で確認している。


「それがどうした」


 骸骨野郎は強気だ。

 挑みかかる目で前に踏み出す。

 本気で罪など犯していないと思っているようだ。

 そのことにも呆れるが……


『いちいち芝居がかってるな』


 この国の人間は芝居好きなのだろうか。

 気にしても始まらないとは思うが。


「何人モ殺害シテオルデハナイカ。

 中ニハ幼子モイタコトヲ知ラヌト思ウタカ?

 ソノ上、親兄弟サエ皆殺シニシタデアロウ。

 コレヲ罪ト言ワヌ認メヌノハ貴様ダケダ」


「黙れ黙れ黙れっ!」


 遮るような否定をする骸骨野郎。

 その割に及び腰になって、たじろいでいるが。

 本当に感情が行動へと直結している輩である。

 これでは罪を認めているようなものだ。

 そこに気付いているのか、いないのか。


『現実を見ようとしない奴の典型例だな』


 本能的な部分では気付いているはずだ。

 だからこそ感情的に否定する。

 頑なに認めないのは表層意識で罪と向き合うことを完全拒否しているからだろう。


「私こそが神なのだっ。

 そのような些細なことが罪になるはずがなかろう。

 いや、私が為すことはすべて正しいことなのだっ!」


『ダメだ、こりゃ……

 完全に狂ってやがる』


 目眩がしそうになった。

 誰が聞いても認められないことを平気で信じ込んでいる。

 信じ込もうとしているだけかもしれないが。


 いずれにせよコレに罪を認めさせることはできないだろう。

 聖職者ならばできぬと分かっていても、悔い改めさせようとするかもしれないが。


『まあ、神官ちゃんでもやらんだろうがな』


 まして聖職者でない俺には為すべき使命などない。

 称号は[女神の息子]なんてのがあるものの──


『うちは基本、放任主義だしな』


 故に義務もない。

 罪を指摘したのは奴に精神的なダメージを与えるためだ。


 こういう輩を簡単に消滅させても周りが納得しないのでね。

 一見すると奴の周囲には誰もいないように見える。

 が、奴にのし掛かるように取り憑いている者たちがいるのだ。

 アンデッドのボディを失い奴の支配から逃れられた面々の魂である。


 全員ではない。

 支配から解放されたことで成仏できた者たちも大勢いるからな。

 それでも特に恨みの感情に囚われた何人かは成仏できずにいる。


 取り憑いている相手は骸骨野郎だから俺に実害はない。

 ないのだが……


『そんな恨みがましい目で見るなよ』


 俺に対して助けを求めてきている最中なのだ。

 全員が奴を呪いたくて仕方のない者たちである。

 にもかかわらず骸骨野郎の所持する魔道具の効果で取り憑くことしかできない。

 呪おうにも呪えないのだ。

 正確に言うなら、呪いのエネルギーはすべて魔道具に吸われてしまっている。


 故に取り憑き組が捨て犬のような視線を向けてくるのだ。

 希望のない瞳が「骸骨野郎に相応の報いを」と訴えかけているかのように見えてしまう。

 実に居心地が悪い。


 無視して奴を片付けると今度はこっちが取り憑かれそうで嫌だ。

 仕方がないのでリクエストに応えられるようにしてみたつもりだった。

 生憎と罪を意識させてダメージを負わせる試みは失敗に終わったが。


『ならば、弱いことを自覚させるまで』


 やたらと強さにこだわっているし。

 無力感の海に投げ出されれば少しはメンタル面でダメージもあるだろう。


「ソウヤッテ罪カラ目ヲソムケルハ貴様ノ弱サヨ」


「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れーっ!」


 狂ったように頭を振り乱して否定しようとする。

 感情的に言えば言うほど、こちらとしては呆れる気持ちが増していくだけなのだが。


『黙れしか知らんのか』


 内心で嘆息しつつツッコミを入れておく。


「私は強い……」


 骸骨野郎が定まらぬ視点で呟く。


「私は強い……」


 同じ言葉を続けて呟いた。

 大事なことだから2回言いましたって雰囲気じゃない。


「私は強い……」


 3度目である。

 ここまで来ると自己暗示の類だ。

 そうでもしなければ己の内面的な弱さに耐えられないのだろう。

 これで本人は無自覚だったりするので質が悪い。


 しまいには──


「強い強い強いっ強いっ強いっ強いぃっ強いぃっ強いんだああああぁぁぁぁぁっ!!」


 徐々に声を大きくし、最終的には絶叫する有様である。


 吠えた後は体を縮めるように膝と腰を落とし肩で息をし始めた。

 消耗したからではない。

 理性を失いつつあるのだ。


『魔道具の影響が出始めているな』


 骸骨野郎は本当にバカである。

 簡単な説明書きしかない魔道具をよく調べもせずに使ったのだから。


『まあ、取扱説明書の類が残っていたとしても使ったとは思うがな』


 奴の懐にある魔道具はなかなか質が悪い。

 一見すると使用者の利益になりそうに見える点が特によろしくない。


 まずは偽りの不老不死。

 これについては奴が主張していたことからも目玉であることがうかがえる。

 もちろん嘘っぱちである。


 使ったが最後、本人にそれと気付かせずに命を食らわれる。

 どうなるかは奴が自我を失いつつある今が末期症状だと言えば分かるだろう。


 強力なステータス強化。

 仮にもヴァンパイアだ。

 そうでなくても強化される……


 ただ、現状は本当の意味では強化されていない。

 呪いさえ糧にするような魔道具だ。

 余剰魔力も当然のことながら食っている。

 ステータス強化へ回す分も何割かは食われている訳だ。

 ヴァンパイア最弱の根拠でもある。


 呪いへの耐性。

 これは取り憑かれることを前提にしていたのかと戦慄を覚える事実だ。


 魔道具職人が何を考えていたのかは知りようがない。


 だが、誘惑に負け飛びついけば終わりである。

 本人は食われていることを自覚できないままに魔道具に食われてしまう。


 自覚できない理由は簡単だ。

 食われれば食われるほど自我を失っていく。

 変だと思ったり感じたりする部分から自分が失われていくのだ。


 それでも本来は狂人的な思考パターンになる訳ではない。

 骸骨野郎の異常性は本人由来のものである。


『さて、最後のダメ押しと行くか』


 朗報がひとつある。

 魔道具に食わせたことで取り憑き組からの視線も厳しさが薄れてきている。

 このまま骸骨野郎の自我をすべて食わせれば納得しそうだ。

 それに取り憑く対象を失えば成仏してくれるだろう。


「ふぇーだ姫カラノ伝言ダ。

 貴様ノ爵位ヲ剥奪スル、トナ」


「シャ─────ッ!」


 俺の言葉を聞いて奴は牙をむいて威嚇してきた。

 猫を思わせる威嚇っぷりである。


『もはや人語を話すこともできないとはな』


 怒っていることから察するに言葉の意味は理解できているようだ。


「コレデ貴様ハスベテヲ失ッタ」


 爵位を失えば財産も残らない。

 それらはすべて貴族としての身分があるからこそ得られていたものだから。

 だが、コイツが失ったのはそれだけではない。


「貴様ガ得タト思ッテイルう゛ぁんぱいあノ能力モ仮初メノモノ。

 出来損ナイノ魔道具ニヨッテ与エラレタモノニ過ギナイ。

 ソレハズット生マレタテノ赤子ノママデイルコトヲ強制スル魔道具ダ」


「キシャ────────ッ!」


 威嚇は続く。

 まだ理解できるようだ。

 赤い瞳からは理性など完全に失われていたけれど。


「ドンナニ足掻コウトのーらいふきんぐニハナレヌ。

 貴様ノ求メル最強ニハ遠ク及バヌトイウコトダ」


 その言葉はすべてを奪い去るに相応しい言葉となったようだ。

 逆立った髪と顔面に浮き上がった血管が奴の更なる怒りを物語る。


「シャ──────ッ!

 シャ───────────ッ!

 シャギャ────────────────ッ!!」


 吠えに吠えた奴が前のめりに倒れた。


『奴の存在が消えたな』


 ただ、これで終わりではない。

 むしろここからが始まりだ。


読んでくれてありがとう。

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