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725 つくってあった『回転寿司セット』

 メニューは寿司に決まったものの懸念事項があった。

 素手の調理で忌避感が出ることについては、ちらし寿司で解決できるだろう。

 ハリーもそこまでは考えていた。


 だが、別の問題が残る。

 ちらし寿司を選んだところで、それが残るのだ。


 これにはハリーも気付いていなかった。

 真っ先いに気付いたのは元日本人であるトモさんである。


「ハルさん、大丈夫かな?」


「何が?」


「寿司でトラブルになることって意外と多いよ」


 その忠告でひとつ気付かされた。


「寿司ネタかぁ」


「生ものが多いからね」


『そいつは盲点だったわ』


 俺も日本人だったのに気付かなかったとは間抜けである。

 こっちの生活に馴染みすぎたというのは言い訳にもならないだろう。


 元ぼっちのせいで他人のことを気にしていなかった弊害と見るべきだ。

 要するに日本にいた頃から認識が甘かった訳である。


『日本人でも生ものがダメって人はいたよな』


 外国人となると余計にである。

 それを考えると西方人が地球の海外勢に近い意識であるならピンチである。


「ちらし寿司にだってマグロとか使うもんなぁ」


「ちらしは無しでも作れるけどさ。

 見るだけでダメって人はいるから、握りもやるとなるとねー」


 思わず「うわー」と仰け反りたくなった。


「ダメじゃん、スゲーダメじゃん」


「ならば巻き寿司ではどうでしょうか」


 ハリーが解決策になりそうな案を提示してきた。


「おおっ、それだ」


 ハリーにサムズアップして絶賛する。


「細巻きは具材を絞り込むしかないが太巻きを豪勢にすれば……」


 太巻きで生ものを回避しても不自然じゃないし。

 俺は良い案だと思ったんだ。


 だが、それにもトモさんは首を横に振ってダメ出しをした。


「何故だっ!?」


「海苔だからさ」


 こんな時でも微妙に三毛田庄一さんのネタをぶっ込んでくるトモさんである。


『坊やと言わなかっただけマシだけど』


 急に声音を変えるからフェルトが首を傾げている。

 いちいち説明していられないのでスルーした。


「後で説明しておこうね」


「ハイ、サーセン」


 とにかく海苔がネックになるかもしれないことを忘れていた。


『煎餅好きのクラウド王にも海苔煎餅は提供したことがなかったっけ』


 それは偶々なんだが、西方人に海苔を見せてなかった気がする。

 地球じゃ黒系の食材は外国人に忌避されることが多いと聞いたことがあるし。


『ヤバいかもしれん』


 アニメの影響で海苔も餡子も平気な外国人が増えたという話も聞いたことはあるが。


「あー、もうっ、どうすりゃいいんだ」


「聞けばいいんじゃないですか」


 あっさりと助け船を出してくれたのはフェルトである。


「……そうだね」


 という訳で総長に聞いてみた。


「生ものですか?」


 不思議そうに首を傾げられてしまいましたよ。


「新鮮なものであれば好む人は多いですが……」


 それくらいは知っているでしょうと言いたげな総長。

 意外なところで西方文化に疎いことを露呈してしまった。


『よくよく考えたら【諸法の理】で生食文化について調べれば良かったんじゃねえか』


 つくづく俺はアホだと思う。


「本命で聞きたいのはコレについてなんだよ」


 あくまで前振りのように振る舞った。

 態とらしすぎるので【千両役者】も使って誤魔化したさ。


 その間に調べてみたが、生ものは力が出るということで好む者がいるようだ。

 逆に忌避する者は少ないらしい。


 寄生虫や食中毒などの問題もあるようだが、薬や魔法で対処可能となっている。

 むしろ地球の方がこの点に関してはシビアだった。


「コレですか……?」


 俺が引っ張り出したブツを見て小首を傾げる総長。


「見たことがないものですね。

 ヒガ陛下のお話からすると食品のようですが」


「海苔と言ってな。

 海藻を加工して干したものだ」


「海藻……

 海のものですか!?」


 目を見開いて驚いている総長。


「忌避感はなさそうだな」


「それはありませんが……

 海で採れるものとなると貴重なのではないですか?」


 何か誤解されているようだ。

 が、そういう流れになってもおかしくはなかったかもしれない。


「うちは普通に海のものを使うぞ」


 そう言うと「ああ」と溜め息を漏らしながら遠い目をされてしまった。


『総長までそれか……』


 ファントムドラゴンをあしらったのは少なからず影響があるようだ。

 それでも、すぐに復帰してくれるからありがたい。


「貴重な品で無ければ是非とも戴きたいと思います」


 大丈夫そうだが念のために確認する。


「珍しい色だろ?」


「そうですね。

 このような色をした食べ物は生まれて初めて見ました」


「食材の色として拒否感を感じたりはしないか?」


 ようやく俺の聞きたいことが分かったのだろう。

 総長は一瞬だけ目を見開きはしたが、すぐニッコリと微笑んだ。


「なるほど、それが気がかりだったのですね。

 確かに珍しい色ではありますが受け付けないということはないと思いますよ」


 それを聞いて一安心。

 逆にトモさんは居心地が悪そうだ。


「いや、すまないね。

 余計なことを言ってしまったようだ」


 トモさんが謝罪するが、俺は頭を振る。


「いいや、俺は配慮が欠けていたからね。

 指摘してくれたことが、とてもありがたい」


 面と向かって忠告してくれる友達がいるというのは幸せだと思う。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 うちの国民以外の前で寿司を握ることになった。

 どうやら緊張してしまっているようだ。

 俺たちではなくカーターたちが。


「これはまた大がかりですな」


 緊張こそしていないものの唖然としているダニエル。


「そうかい?」


「そうでしょうとも。

 まさか、外で食べると聞いてこうなるとは思いませんでしたからな」


「しょうがないさ。

 ここの建物の中じゃ入りきらなかったんだから」


 何がかというと回転寿司のカウンターである。

 それが大小2セット。


 最初は大だけだったのだが──


「殿下と同じ席に着くなどあり得ません」


 と主張したエーベネラントの騎士隊長の言葉によって小を引っ張り出すことになった。


 実は小の方は試作品なのだが、それを言うとうるさそうなので内緒である。

 まあ、完成度は高くて座席数が少ないだけなので問題にはなるまい。


 こちらの小カウンターにはエーベネラント組からはカーターしか座っていない。

 ゲールウエザー組はダニエルと総長はもちろん、ナターシャもいる。

 うちからはトモさん夫婦が席に着いていた。

 俺はカウンターの中で寿司を握っている。


「テーブルの部分が狭いですね。

 それに棚の部分が動くそうですが実に興味深いです」


 ワクワクした様子を見せているのはダニエルの隣に座る総長だ。


「食事のためにこのような大がかりな魔道具を用意するというのは……」


 ナターシャが驚きつつも呆れている。


「これが陛下なのです」


 フェルトさんはナターシャに対して諦めなさいと言わんばかりだ。


「ハルさん、あっちは凄いことになってない?」

 大カウンターの方を見ながら、遠い目をしているトモさん。


「そう?」


 何が始まるのかと騒がしいゲールウエザー組は若干うるさくは感じるけど。

 凄くはないはずだ。


 ちなみにエーベネラント組はガチガチ状態でお通夜のように静かである。

 彼らからすると大がかりな魔道具でどんな食事を提供されるのか不安なのだろう。


『事前に幻影魔法で説明したはずなんだがな。

 メモライズ系の魔法を自重したのは失敗か』


 今更だが一抹の不安を覚えてしまった。

 だが、ぶれるのは良くない。

 このまま押し通すことにする。


「メイドが寿司を握るとかシュールだよね」


 トモさんの発言は俺の想像していた内容とは違った。


「ああ、そういう……」


 確かに日本では見たことがなかったので即座に納得はいったが。


「飲みかけたお茶を吹き出してしまうところだったよ」


「そうなのか……」


 そこまでインパクトがあるとは思わなかった。

 が、いつまでも気にしている訳にもいかない。


「そろそろ始めるよ」


 カウンター内では既に充分な量の寿司がコンベアにのって周回していた。

 客席側から見えているコンベアの真下を等速で回っている。

 下で回っている寿司皿は動作の切り替えを行うと下の寿司皿が上へと乗せかえられる。

 動作術式は上のコンベアに場所を確保してから乗せかえたりするので単純ではない。

 コンベアの監視やストッパーの判断動作を制御する必要があるからだ。


『この部分だけは部外者には見せられないんだよな』


 このため客席は上から見るとコの字型をしており一辺は中が見えない箱で覆われている。

 要するにブラックボックス化してある訳だ。


 まあ、ぶっちゃけ転送魔法を使っているから見せられないんだが。

 予告した俺は切り替えレバーを操作した。

 間もなく、ブラックボックスから寿司が出てきた。


「これは凄い」


 カーターが目の前の寿司皿が流れていく様を眺めている。


「「「「「おおーっ!」」」」」


 大カウンターの方でも響めきが起きた。

 そして目の前を流れていく寿司皿を見送る。

 念のために言っておくが、皿だけなんてことはない。

 トップバッターはいきなり生ものにならないようにと配慮したというのに。


「この黄色いのは何ですか?」


 総長が聞いてきた。


「卵焼きだ」


「卵ですか」


 目を輝かせた総長は自分の前に来たところでサッと皿を取った。

 箸を手にして食べ始める。


『ホント物怖じしないよな』


 まあ、エーベネラント組を気遣っている一面もあるとは思う。

 率先して食べることで皆が食べやすくなるようにとね。


「卵が甘いです~」


 幸せそうにゆっくりと噛みしめている。

 こういう部分は芝居っ気が感じられない。

 皆に気を遣いつつも自分も楽しんでいるという訳だ。


 そのお陰で皆も怖々とだが皿に手を伸ばすようになった。

 食えない婆さんだが功績は大きい。

 もちろん感謝しているさ。


「さあ、遠慮はいらん。

 どんどん食べるのだ」


読んでくれてありがとう。

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