↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
734/1785

724 夕食の献立を

 愚痴をこぼしながらもフェルトは納得してくれた。

 無茶振りに見合うだけの報酬をブルースが受け取ったと判断してくれたようだ。

 それなりにお小言は頂戴したが。


 とにかく、ここに残るべき理由はなくなった。

 ならば後は撤収するのみ。

 結界を解除して皆を浮かせて飛んで帰った。


 特に事件は無かった。

 そうそう敵襲なんかあってはたまらない。


 あえて気になったことを挙げるなら総長の機嫌がこの上なく良かったことくらいか。

 本当に飛ぶのが気に入ったみたい。


『隠れ里で練習しかねないな、こりゃ』


 浮くだけが精一杯だとは思うが誰にも止められないだろう。


『何処からそのバイタリティが湧いてくるのかね』


 下手をすれば弟子たちの方が先に老けてしまいかねない。

 ナターシャが先ってことはないと思うが。

 まだまだ枯れる様子のない婆さんである。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 廃村に戻ってきた後は引きこもる。

 と言っても隠れ里へ行った訳ではない。

 ミズホ組以外の精神的な負担を考えてのことだ。

 連続でビックリさせて心臓発作とかを起こさせたい訳じゃない。


『村の惨状を見た後にアレだったからなぁ』


 ファントムドラゴンには本当に度肝を抜かれたようだ。

 廃村に戻ってきて村長宅に入るなり腰を抜かすような者もいたくらいだし。


『時間差かよ』


 それだけ著しい緊張状態を強いられていたってことだ。

 廃村の中心部に2本の結界柱を立てたことで安心したというのも大きいかもしれない。

 幻惑と妨害の結界だ。

 俺たちは対象外にしているので何の効果も発揮しないが。


『よく信用する気になったな』


 単に大きな石柱を召喚しただけとケチをつけられるんじゃないかと思っていたのだが。

 どうもファントムドラゴンとの戦闘が大きく影響しているようだ。


 そのせいか、エーベネラント組の騎士には話し掛けるとビクつかれるようになった。

 俺だけじゃなくてミズホ組がその対象である。


『しょうがないか……』


 俺は奴の攻撃を余裕で弾いていたし。

 皆もパニックになる者たちが続出する中で平然と対処していた。


『最後は聖炎で一斉攻撃して消滅させたからなぁ』


 無傷でアンデッドのドラゴンを倒したとなれば絶大なインパクトがあったはず。


 ただ、それを理解できない人もいたりする訳で……

 トモさんが「解せぬ」とか「どうしてこうなった」とか言っていたくらいだ。

 マジなのか無自覚なのか判断に困ってしまう。


「昨日だってアンデッドに対応したじゃんか」


「でもさー、帰ってきてからの反応が過敏じゃないか?」


「そりゃあ目の前で見せつけられればガツンとくるだろうよ」


「そうかなぁ?」


 どうやら本気で納得がいかないようである。


「今日の相手は腐ってもドラゴンだからじゃないか?」


「えー、だって下級だぜー」


「西方人には亜竜でも驚異だからね」


「そんなもんかなー」


「そんなもんだよ」


『大丈夫かな』


 そのうち認識の差が大きすぎることで何かやらかしそうな気がした。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 夕飯時が近づいてきた。

 時間が来れば腹は減る。

 そんなに疲れた訳ではないがね。


『割とドタバタした1日だったけど』


 特にファントムドラゴンは皆の状態をリセットする効果があったようだ。

 村の惨状に食欲を無くしていた者たちも普通に食べられそうな様子を見せていた。

 そのあたりを抜け目なく観察している者がいる。


「というわけでヒガ陛下に食事当番をお願いしてもよろしいでしょうか?」


 そんなことを言ってきたのは総長だ。


『抜け目がないというか、ちゃっかりしているというか……』


 うちの面子の誰が料理をしていても、総長には大本が俺であるのはバレている。

 それに対してガタガタバタバタと反応したのがエーベネラント組だ。

 彼らを見てみると驚愕とビビりをない交ぜにしたような表情で凍り付いていた。


「「「「「うわ────────っ!」」」」」


 という悲鳴が発せられたかのような錯覚を覚えるほど大袈裟なポーズで固まっている。


『声すら出せないのか』


 そこまでビビられていることに微妙な気持ちになるが。

 同時に申し訳ない思いも抱いてしまった。


 彼らは何も悪いことをしていないのに罰を受けている心境なのではないだろうか。

 そんな風に考えてしまったからだ。

 もちろん原因は俺である。


『色々見せるにしても段階を踏んでおくべきだったな』


 今更だろう。

 ただ、段階を踏む必要の無かった人物もいる。


「へえー」


 とか言っちゃって感心しているのはカーターだ。


『あれだけの修羅場に遭遇しておいてケロッとしてるな』


 さすがに状態異常の時は耐えられなかったようだが。

 そこから復帰した後の現状は完全に落ち着きを取り戻している。


 他に[恐慌]となった者でカーターほど平然としている者はダニエルくらいのものだ。

 やはり王族ともなると違うのかもしれない。


『人の上に立つ者の矜持ってやつか』


 本人たちにしてみれば、状態異常になった時点で恥ずべきことだと思っていそうだが。

 なんにせよ大物である。

 まあ、リクエストしてきた総長の方がもっと大物だとは思うけど。


「ヒガ陛下は多才なんだねー。

 私なんて生まれてこの方、料理なんてしたことないよ」


 そりゃそうだ。

 普通の王族は料理などしないだろう。

 趣味というなら話は別だが、それも余程のことである。


「それで何を作るつもりなんだい?」


 子供のようにワクワクした目で見てくるカーター。


『別に、まだオッケーした訳じゃないんだがなぁ』


 そんな風に言われると内心で天の邪鬼な部分が起き出してきたりする訳だ。


『まあ、いっか』


 カーター相手だと俺の中の天の邪鬼は二度寝を決め込むようだ。

 当人の性格を好ましく思っているからだろうか。

 それとビビっている騎士たちへの詫びの気持ちもある。


 だから聞いてみることにした。


「諸君、何が食べたい?」


「「「「「うひぃっ」」」」」


 今度こそ悲鳴が上がった。

 苛めている訳ではないのに苛めている気分になってしまう。

 土下座に匹敵するほど罪悪感がハンパない。


『詫びるつもりが更に追い詰めてどうする』


 リアルでセルフツッコミを入れると変な人になってしまうので内心だけに留めておいた。

 とにかくエーベネラントの騎士たちには、もう少し慣れてもらってから要望を聞こう。

 平然としているのはカーターだけなので視線を向けてみた。


「何がって、どういうことだい?」


 首を傾げるカーター。

 どうやら注文を聞いているとは思っていないようだ。

 もしかするとレストランなどは利用したことがないのかもしれない。

 だとすると、かなりな箱入り君ということにならないだろうか。


『よく今回の使者に任命されたものだ』


 王位継承順位が最下位になったから任命されたのかもだが。


「リクエストがあるなら何でも作ると言っているんだよ」


「それは凄いね!」


 驚きながらも瞳を更に輝かせるカーター。


「本当に何でもいいのかい?」


「用意できる食材の都合上、ゲテモノは無理だがな」


「そうなんだ。

 これは迷っちゃうねー」


 その表情は幼子も同然の無邪気さを見せていた。


「あ、でも食べたことのないものがいいかな」


 総長がそれを言うならともかく、カーターなら食べたことがないものだらけだ。


「それはいいですね。

 ミズホ国の料理なんてどうでしょう?」


 ここで総長がフォローを入れてきた。


「ヒガ陛下の国の料理かい?」


「はい、それこそどれも初めてのものばかりでしたよ」


 そこから2人は料理談義になってしまいリクエストどころでは無くなってしまった。

 一応、カーターが食べたことのないものという要望は聞いてはいる。

 物凄く幅が広い気はしたけれど。


『だったら、メインの食材に縛りを入れてみるか』


 例えば海のものならカーターの要望も満たすはず。

 ここでうちの面子に海の食材を使った食べ物を聞いてみた。


「たこ焼きかな」


 そう言ったのはトモさんである。


「どちらかと言うと、それってお八つだよね」


 食後のデザートにするのだとしても微妙な気がする。

 却下したらしょんぼりしていた。

 冗談ではなくマジだったらしい。

 ここは奥さんに期待することにしよう。


「焼き魚定食でしょうか」


 真面目な意見だったが却下せざるを得なかった。


「初心者に骨の処理は厳しいな」


「それは……

 確かにそうですね。

 見落としていました」


 夫婦でションボリという可哀相な結果になってしまった。


「シーフード焼きそばがいいニャ」


 昼間はずっと無口モードだったミーニャさんである。


「お好み焼きのイカ玉がいいの」


 同じくルーシー。

 渋いところを突いてきた。


「それならイカ焼きの方がいいよ」


 シェリーが対抗する。


「「シーフードミックス玉だよ」」


 ハッピーとチーがお好み焼きに戻した。

 子供組のリクエストは見事に粉もんばかりである。


 残るはハリーだけ。

 ブルースは自然に目を覚ますまで待つことにしたからだ。

 強制的に起床させると負担がそれなりにかかってしまう。

 緊急時ではないので無理をさせる必要はないだろう。


 決して内緒で美味しいものを食べるためではない。

 ブルース1人だけ除け者とかイジメである。

 そこまで幼稚な真似をする気は毛頭ない。


「寿司なんかどうでしょうか」


「ほう、それで?」


 興味深い意見が聞けた。


 魚介を主としたメニューで条件に合致する。

 ネタは海のものをメインにしつつも他に選択肢があるのもいいと思う。

 焼き魚のように骨を処理しながら食べる必要もない。


「ゲールウエザーの人たちも食べたことはないのでは?」


 それは大きい。

 問題があるとすれば、素手で握ることだろうか。

 人によっては受け付けない恐れもある。


「初心者はちらし寿司でいいと思います」


 そこまで考えているとは素晴らしい。

 その意見、採用だ。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。