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716 隠れ里の話と翌朝にあれこれ

「かかか隠れ里って、あの伝説のっ!?」


 興奮気味に聞いてきたのは護衛ちゃんだった。


『マジの反応か?』


「おとぎ話だと思ってました」


 うちの面子以外のほとんどがコクコクと頷いている。


『マジかー……』


 俺は西方の文化に疎いので【諸法の理】先生に教えていただく。

 どうやら子供向けのおとぎ話では比較的ポピュラーな題材のようだ。

 似通っている話が多いのは口伝であるが故に派生していった結果とのことだ。


『話としては、何処かで聞いた感じだよな』


 セールマールの世界のものに似ている話が少なくない気がする。


『輸入してアレンジしたんじゃないのか?』


 なんて思ってしまうほどだ。


 例えば花妖精を助けた女の話は亀を助けた男の話に似ている。

 助けた経緯や帰ってきた後の結末が異なるが。


 女が花妖精を助けたら隠れ里へ案内されて歓待を受けたという筋は同じと言える。

 帰ってきたら女を知る者が誰もいなかったというところから少し話が違ってくるけど。


 女が嘆いていると花妖精が現れ再び隠れ里へ案内されたというのが結末だ。

 この部分は派生が多く、女も花妖精になったというものがメジャーだ。

 他だと隠れ里の樹木になったとか。

 人のまま幸せに過ごしたとか。


 なんにせよ二度と戻ってこなかったというのが共通する結末だ。


『ツッコミどころ満載だな』


 まあ、おとぎ話である。

 目くじら立てて、とやかく言うものでもないだろう。


 他にも隠れ里を題材にしたものがいくつかある。

 隠れ里からやって来たお姫様の話。

 魔人が妖精から奪った隠れ里を別の隠れ里から来た精霊が退治する話。

 不幸な身の上の女の子が隠れ里の妖精と仲良くなって幸せになる話。

 ほかにも色々ある。


『数え上げると切りがなさそうだ』


 まあ、バリエーションが多いからだけど。

 いずれにせよ魔法が日常生活に入り込んでいる惑星レーヌの住人でも真に受けない。

 子供は喜ぶが大人になれば絵空事って訳だ。

 故に護衛ちゃんのこの反応である。


『やっぱ、やり過ぎかー』


 反省が必要なようだ。

 後悔はしないがな。

 黒幕を本気でぶちのめすと決めたから。

 カーターたちを黙らせる必要がある。


『これくらいインパクトがないとダメだろうし』


 他所の国で王族に有無を言わさず強引に事件を解決するというのは面倒なものである。


「ヒガ陛下、本当に隠れ里を?」


 恐る恐るといった様子で尋ねてくるのはナターシャだ。


「こんなことで嘘をついてどうするよ。

 意味がないどころか信用をマイナスしてしまうだろ?」


「いえ、それはそうなんですが……

 魔力コスト的に膨大なものになるのではと……」


 本当に遠慮がちに言ってくるのは、先程の失敗があるからか。


 あるいは──


「心配してくれたのか。

 そいつは済まないな」


「いっ、いえっ」


 慌てて両手で大丈夫とジェスチャーを入れるナターシャ。


「一から隠れ里をつくるならバカみたいに魔力を消費するがな。

 あとは拡張する時なんかも大きさに比例する魔力消費になる」


 まあ、それでも俺の基準だと問題なくつくれてしまうのだが。

 拡張ならば言うまでもない。


 内緒だが今回は俺がつくるパターンである。

 練習のために何度か作ったことがあるし、いくつか残してあるのだが。

 大きすぎるために使えないと判断した。


『ギャーギャー騒がれちゃ敵わん』


 現時点で既にその傾向があるのだ。

 沈めるために労力を割くなんて真っ平である。


「既にある隠れ里へ行き来する程度なら大した消費じゃないんだよ」


 ナターシャは一瞬、呆然として固まってしまったが──


「そ、そういうことだったのですか。

 考えが至らずに申し訳ありません」


 喋りながら落ち着きを取り戻していき、頭を下げた。


「そう畏まるなよ。

 俺が説明してなかったんだし」


 そういうのは明日にするつもりだったから言葉が足りなくて当然だったのだが。


『まあ、言い訳か』


 何でもかんでも面倒くさがるのは良くないってことだ。

 反省である。


 その後、総長が声を掛け続けたことでナターシャも落ち着いてくれた。

 些か情緒不安定に感じたから少し気に掛けておく必要があるかもしれない。


 なんにせよ、詳しい話は隠れ里に引きこもってからということにしてもらった。

 皆も落ち着く時間が必要だろうし。

 隠れ里では待つだけだから腐るほど時間がある。

 建前はそういうことになっているからな。


『まあ、ただ待つだけなんてしないがね』


 いま現在も情報を集め続けている斥候型自動人形たち。

 黒幕に到達するのも時間の問題だ。

 あと、事件の背景も解き明かす必要はあるだろう。


『第2第3の黒幕とか出てこられても困るしな』


 何となくだが、黒幕を見つけてぶっ飛ばしたら終わりとはいかない気がするのだ。

 手間を惜しんだことで延長戦になったとか嫌すぎるからな。


『徹底的に調べ上げてやる』


 俺がじゃなくて自動人形たちが、だけど。

 とにかく今は明日に備えて眠るのみである。

 おやすみ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 翌日、朝食も食べることなく全滅した村へと移動した。

 現場検証を行うためだ。

 とにかく見せないことにはカーターも長期の引きこもりを納得すまい。


 現に起床直後に──


「ヒガ陛下、この目で犠牲になった人々を確認したい。

 このまま隠れ潜むなど私には耐えられないのだ」


 こう言われている。


「私のせいで犠牲になった者たちに、せめて祈りを捧げたい。

 詫びても失われた命が戻ることなどないのは承知している」


 おまけに必死の形相でこんなこと言われちゃ断れんでしょ。


「元からそのつもりだよ。

 殿下の部下たちも現場検証したいだろうし」


 だから現場は放置してきた。


「済まない、助かる。

 我が国のことなのに陛下の手をわずらわせてしまった」


「気にしなくていい。

 好きにやらせてもらっている」


 場合によっては、制止されようがお構いなしで目的を遂行するつもりだし。


 そういう思惑があることなどカーターは知らない訳だが。

 なんにせよ全員で連れ立って移動することが確定した。


 ちなみに朝食抜きである理由は広場の光景を見た場合に保証できないからである。

 見た後で食欲がわくのかという話も出てくるが。


『夏場だからなぁ』


 遺体の腐敗が進むと厄介だ。

 そんな訳で魔法で低空を飛びながら移動して時間を節約した。


「ヒガ陛下、移動はバスを使うのですか?」


 ナターシャが聞いてきた。


「いいや、魔法で飛んで行く。

 そっちの方が早く着くから」


「またまた御冗談を」


 昨晩は連続で落ち込んでいたナターシャだが笑っている。

 冗談だと思ったらしい。


「いや、本気だよ」


 そう言った後、全員を廃村の外に集めた。

 で、有無を言わさず魔法をかける。

 地面から2メートルほどの所で浮遊させ、誰かが何かを言い出す前に加速した。


「うわうわうわぁーっ!」


「キャーッ!」


「ひいいいぃぃぃぃぃっ!」


「ととととと飛んでるぅーっ!」


 などと悲鳴が上がったが、それも束の間のこと。


「はい、到着」


 減速してから停止してゆっくりと着地させた。


「「「「「………………………………………」」」」」


 到着した瞬間のゲールウエザー組およびエーベネラント組は立ち尽くすのみであった。

 完全に表情が抜けてしまっている。


 護衛隊長であるダイアンでさえ目の前で手を振って見せても無反応だったほどだ。

 もちろんダニエルも。


 ナターシャがまだマシな方で、頬を引きつらせていた。

 総長は苦笑している。


 数分とかけずに飛んで来たが、それだけのインパクトがあった訳だ。

 全員に魔法をかけるのに意図的に時間をかけてこれだ。

 後は急加速と急ブレーキにならないように注意もした。


 保護を掛けた上で飛びはしたものの、うちの面子以外は初体験である。

 浮遊や飛行の感覚で気持ち悪くなったりしかねなかったから気を遣ったつもりだ。


 それでも音速は突破していたけどね。

 ちなみに衝撃波を出さないよう結界で覆っていたのは内緒である。


「本当にヒガ陛下は予想を遥かに上回ることをなさいますね」


 総長が溜め息と共にそんなことを言った。

 まあ、俺の自重など部外者にはしていないも同然か。


「そうかい?」


「あれだけの大魔法を使って疲れた様子もないじゃないですか」


「疲れていないからな」


「我々全員に飛行の魔法をかけてそれなのですか……」


 総長が呆れている。

 彼女の口振りでは飛行の魔法からミズホ組が除外されているようだが、それは勘違いだ。

 ブルースが、あの速さでは飛べないからな。


 一応は自前で飛んではいたが、俺が上掛けして増速していたのだ。

 一見すると無駄に思えるかもしれない。

 しかしながら、これも修行のうちである。

 短時間とはいえ俺の【教導】スキルの効果がついて経験値が稼げるし。


『そういや昨晩の戦闘でレベルアップしたんだっけ』


 昨晩はごたごたして確認していなかった。

 総長との会話の最中だがレベルだけ確認しておこう。


[ブルース・ボウマン/レベル115]


 2レベルアップしている。


『トモさんの動きをトレースして技を吸収したのが大きいようだ』


 などと悠長に考察している場合じゃない。


「俺の底が見たければ、うちの国民になるしかないな」


 総長の言葉に返すべく選んだ言葉のつもりだった。

 こう言えば引き下がると思ったのだが……


「考えておきましょう」


 なんて前向きな返事をもらってしまった。


「意外だな。

 断られるかと思ったんだが」


「いずれ引退する身です。

 余生を外国へ移住して過ごすのも悪くはないでしょう」


 なんだかスカウトが成功したような気がするんだけど?

 ドウシテコウナッタ。


読んでくれてありがとう。

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